イルメシアス家
#日記:地球歴 残存記録 第193日
#場所:南部方面軍本部 航空師団区域
南部方面軍本部に到着すると、インペリアル・シールドは巨大なドックに静かに滑り込んだ。窓から見える光景は、まるで銀色の蜂の巣だった。
本部は球体を基本形とした無数のモジュールが複雑に組み合わさり、表面には戦艦や戦闘機がまるで蟻のように出入りしている。護衛艦の数は…確かに「とんでもない」という表現が正しい。小さな光の点が規則的に周囲を旋回し、一種の生きた防御網を形成していた。
ルーク曹長は、俺を本部内部の迷路のような廊下へと導いた。壁は冷たい金属でできていて、時折、半透明の情報画面が浮かび上がり、数字や記号が流れる。歩いている兵士や技術者のほとんどは、私のような奴隷出身者を見ても、特に反応を示さなかった。ここでは、階級と所属がすべてだ。出身は重要ではない…そういう場所なのかもしれない。
曹長は主要区域をざっと説明した後、最終的に第3航空師団の区域へと案内した。ここは他の場所と少し違う。天井が高く、広い窓からは整備中の戦闘機の一部が見える。空気の中には、オイルと電気の独特な匂いが混ざっている。
「心配しなくても、これにマップとそれぞれの場所への最短距離が表示されるから態々場所を覚えなくてもいいぞ?」
そう言って、ルーク先任曹長は、俺にスマホのような機器を渡してきた。何でもこれは一種の記録媒体で、いつもはそれぞれの機体に接続しているのだとか。以前貰った撮影媒体とは異なるらしい。
見分けがつかん…
それよりも俺は今、心臓が飛び出そうな気分になっている。俺は今から彼と彼の実家であるイルメシアス男爵家の南部方面軍本部内屋敷にて一族の皆様に挨拶することとなっている。
…男爵なんだよね?ほんとに?どう見ても、城なんですけども?そう言えば、彼の父親は功績を残して、航空師団長に任命されるときに名誉伯爵の地位を得たとか…
やばくね?
俺が完全に固まっていると、またも俺の気持ちを汲み取ってくれた。
「俺は興味ないんだけど、うちの親父が城好きなんだよ。それに南部方面軍の航空部隊をうちの家が率いているだけあって、金は沢山あんだわ。それで他に特に使うとこもないからどんどんでかくなってね。」
「皇族から怒られないんですか?それに…パーティーとかは…」
「皇帝陛下って、そこら辺優しいからさ。ガルガンティア公爵閣下が認めてるってとこもデカいかな。パーティもな…帝国ではあまりないかな。それに、うちは軍属家系だから、パーティーは女性も軍服なのさ。さて…入るぞ?」
「はいっ!」
彼がバカでかい門にある獅子のドアノッカーを叩くとドアは内側に開き…
「おかえりなさいませ。ルーク様。」
「久しぶりだね…セバス。姉上と父上、母上はダイニングかな?」
「いえ、そちらのお客様をお迎えするために応接室にいらっしゃいます。」
「そうか。分かった。」
やばい…お腹痛い。こんなにでかい家。しかも、日本にはいなくなった貴族。節操ないことしたらどうしよう。
俺が顔面蒼白になっていくのを見て声を上げて笑われた。
「エドワード…まったく…(笑)そんなに心配しなくてもいい。言ったろ?君はうちの家族にとっては恩人だと。恩人の上、平民の君にマナーとかそこまでのことは求めない。ほら、行くぞ?」
「…はい。」
「はじめまして。私がこのイルメシアス男爵家の先代当主であり現イルメシアス伯爵家当主、南部方面軍では航空部隊の司令官を務めているゲラール=イルメシアス少将である。」
「私は、ルークとザビーダの姉で第一航空団団長を務めているルーナ少佐よ。家名は呼ばなくていいわ。」
「…ケルベロス中隊所属エドワード伍長です。よ…よろしくお願い致します!」
俺は背筋を伸ばして、敬礼した。
ルーク先任曹長はああ言ったけど、それはあくまでも俺を気遣っての建前のことだろうし。できるだけ礼儀正しくしないと…
「ああ…良いのよ良いのよ。そんなに堅苦しいことしなくて。ルーク!ちゃんと伝えたの!?」
「言ったよ。エドワード君は生真面目なんだよ。伍長。さっきも言ったけど、うちの人達はこんな感じだから。ザビーダ兄上と一緒にいたならなんとなくわかるでしょ?」
「そういえば、あの子はどこなの!?家族がせっかく集まるっていうのに!」
「ファントム大隊の実力を再測定するってシュミレーションルームで監督するって言ってたな。そういえば。」
「なんです?それは…。せっかくあの子の無事な姿を確認できると思いましたのに。」
「母上!」
「あらあらまあまあ…。あなたがザビーダからの報告にあったエドワード君ね?」
「はっ…はい!」
「私はねこの子たちの母親。セルジューク伯爵家からこの人のところに嫁いできた、シルクといいます。よろしくお願いしますね?」
「こちらこそ、よろしくお願い致します!」
「ふふ(笑)あら…なら、あなた。」
「どうした?」
「せっかくエドワード君が来たのです。この南部方面軍のパイロットで誰が一番強いか確認してみたらどうです?」
「父上と姉上には悪いけど、最強はエドワード伍長だね。間違いない。兄貴も言ってたけど、俺が手も足も出なかったんだから。」
「ほう…それは、是非確認させてもらいたいところだ。」
「奇遇ですね父上。私もですよ。」
「なら、私もやってみたいですわね。」
こういうのをヘビに睨まれたカエルって例えるのかな?
…怖い




