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悪役令嬢に転生したおっさんは悪役令嬢になりきれない  作者: うさぎ蕎麦
2-1章「領主になったけれど」
44/55

44話

 今にも崩れそうな位にぼろぼろな小屋の前で男の子が歩きを止めた。

 

「ここが僕のお家だよ」

 

 男の子は嬉しそうな笑顔だ。

 日本の家、俺達が住んでいる貴族の館。

 それ等とは比べ物にならない、酷い家。

 それでも、彼は大切なお家だと嬉しそうにしている。

 

 この家はぼろぼろなだけで無く、恐らく狭い。

 家族4人で住むのは窮屈そうで、子供達が大人になればスペースに困りそう。

 ただ、防雨防風性能は十分あり、スラム街で垣間見える様な、雨風すらまともにしのげない居住スペースよりは恵まれている。

 

 スラム街か。

 この貧困そうに見える村なら、何処かにそれがあっても不思議では無い。

 区画によっては、もしかしなくとも道端に餓死者が転がっているのかもしれない。

 あまり考えたくない事だけど。


 食料もだけれど、村人たちが安心して住める居住の確保も必要そうだが、実現するのはかなり先になるだろう。

 

「ねぇねぇ、お母さん、このお姉ちゃんからこれもらったよ」


 帰宅した男の子が無邪気な笑顔で自分の母親への報告を行う。

 母親もまた、骨と皮しかないとまではいかないが、かなりやせ細っており遅かれ早かれ栄養失調により命を落とす危険が伺える。

 母親は自分の子供にお礼を言うと、俺を鋭く睨み付ける。

 幾ら自分の子供が連れて来たとは言え、見ず知らずの人間に対して強い警戒心を抱くのは当然だろう。

 

「お初にお目にかかります。私はルチーナ・ファルタジナと申します。この度はこの領地を治める領主となりました故に、村の視察に参りました」

 

 母親が少しばかり押し黙る。

 その眼光は未だに鋭く警戒心を抱いたままだ。

 それもそのはず、目の前に現れた14歳の女の子が私は領主ですと主張してきたところで冗談か遊びとしか思わない、それが普通。


「そうですか。貴女が新しい領主ですか、随分とお若いお方ですね」

「ええ、前任の領主を国の牢に投獄させて、その結果国王の提案よりこの領地を治める事になりました。私が若くても領主の地位に就けたのはその功績のお陰でしょう」


 母親は怪訝そうな顔を浮かべている。

 この様子だと俺達の信用を貰うには時間がかかりそうだ。

 

「この土地を治める領主が変わったのですか?」

「はい。そうです」


 どうやら、この母親は領主が変わった事は知らないみたいだ。

 この時代の情報伝達技術レベルなら仕方が無いのか、ここまで貧困に喘いでいると多分江戸時代に存在した瓦版みたいなものを手に入れる余裕も無さそうだし。


「そうですか、身なりは素晴らしいですね。やはり前の領主と同じく私達を搾り取るつもりでしょう?」


 母親は深いため息をつき落胆する。

 何も希望を持てない持ってはならない彼女からはそんな空気が伝わってくる。


「身なりは、他者に舐められない様にする為にもこれ位は整えなければならない、それは仕方がありません。しかし、出来る事として徴税していた税の率を70%から60%に引き下げました」


 母親はぼんやりとした表情をしながら虚ろな目を見せる。

 俺への警戒心は解いたのかもしれないが、代わりに未来に希望を見出す事が難しい様に思われている気がする。

 それだけ、厳しく苦しい生活が長く続いていたのだろうか。


「そうですか……これで、日の食事回数が1回から2回に増やせるかもしれません」


 マジかよ。

 この人達の食事状況は俺が想像するよりもヤバい状況だったのか。

 だからと言って、今すぐにこれ以上税率を下げてしまえば領館内で必ず不平不満が生じる以上それは無理な話なのも笑えない。


「ルチーナ様! せめてこの人達でも日に3度、満足なお食事を提供させられませんか?」


 俺も俺個人ならステラ嬢の思う通りにしたい。

 或いは、ルチーナが本来あるべき14歳のままなら恐らくそうしている。

 目の前の困っている人を助け、それで満悦出来るだろう。

 しかし、領主である田中太郎の記憶を持つルチーナがそれをやる訳にはいかない。


「ステラ、貴女の望む通り彼女達だけ満たす事は可能ですわ」


 俺の言葉を聞いた母親の顔が少しばかりほころぶ。

 期待させちまったか、それは悪いと思う。

 言葉を続けるには少し気まずいが、その先を領主として言わなければなるまい。

 

「でしたら今すぐにでもっ」


 ステラ嬢の反応が早い。

 ステラ嬢は、目の前の人を救いたい気持ちで溢れているみたいだ。


「そうしたいのは山々だけど、そうもいかないわ。人間って、食べ物に対する恨みつらみ妬みの感情を強く抱くのよ。この村に住んでいる人は大方満足に食事をとれない。この村に恐らく4500人は居るであろうそれ等の人間達の中でたったの4人。特別な階級でもない一般人であるこの4人だけが恵まれた食事、それも安定してありつける。そんな事を見た大多数の人間はどう思うか分かるかしら?」

「それは……」


 ステラ嬢が言葉を詰まらせる。

 必死に考えているみたいだけど、上手く言葉が出て来ない様だ。


「羨ましいと思うだけなら優しいのよ。けれど、妬ましいと思ったり彼女達だけが良い思いをする事が憎いと思う人間だっているの」

「でしたら、その方々も」


 俺の言葉にステラ嬢の返事が弱々しい。


「それが理想よ。けれど、今のこの領地で余るお金程度じゃ実現は無理。ファルタジナ領でも難しい位ね」


 少なくとも5000人分の食事を365日3食配給するには膨大なお金が掛かる。

 その仕事をする人達の人件費だって掛かってしまう。

 それが実現するだけのお金がどれだけ掛かる事か分からないが、少なくともこの領地で今確保するのは難しい。


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