表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢に転生したおっさんは悪役令嬢になりきれない  作者: うさぎ蕎麦
2-1章「領主になったけれど」
43/46

43話

「そうね。ステラ? あの方々が1年で稼げるお金はどれ位と思うかしら?」

「聖銀貨、5枚でしょうか?」

 

 ステラたんが恐る恐る口にする。

 何かに気が付いたのだろうか? それとも感情的な声を出したから冷静さを取り戻しただろうか。

 ステラたんが出した額は、ファルタジナ領の一般的な成人労働者が1年に受け取る位の金額だった。

 恐らく、キルミール領でも似た様な物だろう。


「わたくし達の領民ならばそうでしょう。しかし、ここの領民が与えられている土地は大方やせ細っているわ」


 俺はステラたんがしゃべり易いように少しだけ間を置く。

 

「なら、3枚ですか?」

「いいえ、2枚ですわ」


 予想外の事実に対しステラたんが目を丸くする。


「たったのそれだけで、そこから税を引かれて、大金貨6枚しか残りませんの?」


 大金貨6枚、つまり60万円相当になる。

 これは日本人がフリーターとして働いて手に入る額よりも遥かに安い。

 日本で生活したって年収60万円じゃまともに住む事も出来ないしまともに食べる事もままならない、なんせ月収5万円なのだから。


「そうよ」

「でしたら、尚の事税金を下げるべきじゃないですか! それこそ20%でも良い位です!」


 ステラ嬢の憤りは強いままだ。

 俺に対して、自分ならもっと簡単に領民の状況をよくすると言いたげである。


「仮にそうしても、それらの領民達が手に出来るお金は大金貨16枚にしかならないわ」


 実際には、これだけのお金があれば子供部屋おじさんや子供部屋おばさんなら生活には困らない。

 けれど、それだけではその先が続かない。

 俺もそうだったのだけど、人生と言う時間を働くために費やす事しか出来ない。

 旅行をする事や欲しい物を手に入れる事は難しい。


「それでも、たったのそれだけですか?」

「そうよ。お金を貯めて新しい家を買う、何てことは夢のまた夢。それに、一律で税を下げてしまってはお金を持っている人達から得られる税収も下がってしまう。この良館内を維持するのに沢山のお金が必要なの」


 さっき考えた通り、ここが重要なネックともいえる。

 現代と違って、インターネット等情報を共有する情報を展開する為に便利な機能は無い。

 この世界では何事も紙とペンで物事を進めなければならない。

 例えば現代の所得税みたいな累進課税を取るには手間もかかるし不正もしやすくかなり厳しい。

 だから、税に関しては一律で下げるしかならず、ひとまず10%と言う数字で様子を見る事しか出来ない。


「でしたら、高給取りの方をどうにかなされば良いのではないでしょうか?」


 俺がパッと考えられる事位、ステラ嬢も思いつくみたいだ。


「人間って生き物は簡単じゃないのよ。誰しも自分を中心に自分が得られている物を基準の考えるの。例えそれが無能で高給取りだとしてもね。そんな輩に対して、領主になって日の浅い私が強制的に彼等の取り分を奪い取ったらどうなるかしら?」


 俺の問いかけに対し、ステラ嬢は口を閉ざす。

 パッと出てこない辺り気付いていないのか言い辛いのかのどちらかだろう。

 俺はステラ嬢に配慮し言葉を続ける、別に彼女をいじめたくて聞いている訳じゃないからな。

 

「高い確率で、徒党を組んで私を拉致し、言う事を聞かせる様に暴力を振るう。それでも従わないなら強姦の1つ位してくるでしょう。それでも従わないなら事故死に見せかけて殺害。幸い口を合わせれば証拠の隠滅は容易でしょう。そこ等辺の森に私の遺体を投棄したところで数日もすれば野獣が私の死肉を食い尽くし証拠は隠滅。誰しも無謀な領民が森奥深くに入り野獣に食い殺されたと思うでしょう。衛兵だって領主とは言え新参の私と古くからいる領民のどちらを取るかと言えば多分領民でしょう」


 勿論現代ならば同じ状況でも警察が犯人を突き止める事が出来る。

 ただ、現代で俺が同じ統治をおこなったとしても行方不明として扱われると思う。

 その辺りの事は昔も今も変わらないのだろう。

 ん、ステラ嬢が口をぽかんと開けながら焦点が定まらない目で俺を見ている。

 14歳の少女、しかも野蛮な人間達に触れられず育った箱入り娘が聞くには少々刺激が強すぎたか。

 

「領地を統治したければ、この様に刺激が強い事も念頭に置かなければならないのよ。ショックが強すぎるなら、私と対話する相手をエリウッド王子やサナリスに変えてもらっても構わないわ。サナリスはああ見えても魔王軍の側近を務めているからこの手の話に耐性はあります」


 俺はステラ嬢に対してゆっくりと落ち着いた口調で諭す様に言う。

 そのおかげが、ステラ嬢の思考が落ち着いて来たのか頭を小さく横に振り、

 

「ルチーナ様。お気遣い感謝します。わたくしは大丈夫ですので、引き続きわたくしがルチーナ様と意見交換致します」

「そう言ってくれると私としても有難いですわ。そうね、現地の話も必要でしょうから、ステラ、サナリスと共に私と視察に参りましょう」


 勿論、1年辺り使用出来る大金貨の数が2枚増えたところで大して変わるとも思わない。

 何せ、1カ月辺りに換算すれば日本円にして15000円程なのだから。

 1日にするとたったの500円で大した様に思えない。

 いや、一日2食しか食べられない人が3食食べられる様になるのか。

 意外と馬鹿に出来ないのかもしれないが、現地の人達がどう思うかは彼等と直接会ってみなければわからないだろう。

 万が一があったとしても、サナリスが何とかしてくれると見ている。

 どうして彼女が魔王軍の側近になれたのか、正直頭の良さにを見る限り疑問は持つが、それでも普通の人間に後れを取る事は無い位の戦闘力は持っている。

 何せ、一般人がファンタジー世界での魔法に耐えるのは難しい。

 雷魔法の1つでも放てば消し炭にする事だって可能で、頭の方が残念だったとしても、護衛としては十分役に立ってくれるだろう。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ