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ガチャマン  作者: 大野半兵衛


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036_船旅

新作『悪役でも追放でもましてや婚約破棄でもない、ちょっとだけ性格が悪いけど少しだけやさしい転生王子のきままなライフ』始めました。

 


 ボドル王国へ向かう船に乗ったラックたちだが、船は冒険者で満員だった。

 これには理由があって、ボドル王国に新しいダンジョンが生まれたため、一獲千金を狙って冒険者が殺到しているというのだ。

 賢者のローザと聖女のカトリナの二人はなんとかスイート客室を取れたが、ラック、ゴルド、シャナクは二等客室で雑魚寝である。

 二人はラックにスイートを使ってほしいと言ったが、教皇の孫であるカトリナと上級貴族のローザを二等船室で雑魚寝させるわけにはいかないと、ラックが二人を説得した。

 二人が信用できるのであれば、ラックの箱庭に入ってもらって現地についたら出てきてもらえばいいのだから、こんな面倒な話はしなくてもよいのにとラックは頬をかく。


 帆が風を受けてふくらみ、船が進む。

 内海はまだよかったが外海になると波が大きくなって、船の旅が初めてのゴルド、シャナク、カトリナ、ローザは船酔いに苦しめられる。

 ラックも船の旅は初めてだが、スキルの状態異常無効の効果のおかげで船酔いはない。


「いい風だ」


 甲板上で海風を全身に浴びるラックの後ろでは、冒険者たちが甲板に座り込んで酒盛りをしている。

 冒険者の多くも二等船室だが、船酔いの人は船室で寝込み、元気な人はこうやって酒を飲んで暇をつぶしている。

 とにかく船の上ではやることがないのだ。


「ラックさん、こちらにいらしたのですね」


 声をかけてきたのは、カトリナである。

 ストレートの藍色の髪の毛が海風に吹かれて激しく動く。

 カトリナは他の三人に比べると船酔いが軽度だったため、治癒の魔法を自分にかけて動けるくらいには回復している。


「お話をしてもよろしいですか?」

「話くらい、断らなくてもいいですよ」

「ありがとうございます」


 軽く頭を下げるカトリナは律儀というよりは、ラックに引け目を感じているのだろう。

 ラックの家族を殺したベルナルド・ファイナスと操っていたアナスターシャ・モーリスの仲間として勇者パーティーの一員だった彼女だったのだから無理もない。

 それに、アナスターシャ・モーリスがラックに暴力をふるうのを諫めてはいたが、辞めさせるには至っていなかった。

 そのような過去がラックに引け目を感じているのだが、引け目を感じるだけマシなのだろう。


「ラックさんが私とローザを快く思っていないことは承知しています」

「………」

「しかし、これだけは信じてほしいのです。私たちはラックさんを裏切りません」


 カトリナは日の光を浴びて光り輝く金色の瞳で、まっすぐラックを見つめる。

 それが彼女の本心なのはラックも分かるが、カトリナには教皇の孫でサダラム教の大司教という立場がある。彼女の人間性がどうあれ、教皇がラックの情報を求めた時に彼女がそれに逆らえるとは思えない。

 ローザにしても、貴族としての立場がある。そんな二人を完全に信じて今のラックの全てを教えるのは危険だ。

 彼女たちはゴルドやシャナクとは違う世界で生きてきた人物なのだから。


「僕がお二人を信じていないと、なぜ思うのですか?」

「信じてくださっていれば、三人で二等客室へ泊るようなことはされなかったでしょう」

「そんなことはありませんよ。スイートへ泊れるのが二人だけだったから、お二人に使ってもらったのです」

「それは後づけの理由だと思っています。それにベッドで寝ることができるのは二人ですが、スイートは五人で使っても十分な広さがあります」

「いや、カトリナさんとローザさんと一緒の部屋はマズいでしょ」

「同じパーティーの仲間であれば、一緒の部屋で寝起きするくらいは普通だと思います」


 カトリナの言うように仲間や冒険者であれば、同じ部屋で寝起きするのは普通だ。だが、カトリナとローザは帝国の貴族であり、サダラム教の司教や大司教の地位にある年ごろの女性である。その二人と同室になることは、ラックの中では大問題なのだ。


「カトリナさんとローザさんは年頃の女性です。同室は憚られます」

「シャナクさんも女性ですが、お二人と寝起きを共にしておられますよ」


 シャナクはまだ十二歳だからいいと言おうとしたラックだったが、その言葉を飲み込んだ。


「はあ……。では、正直に言います」

「はい」

「お二人のことを信じる信じないではなく、僕は帝国やサダラム教を信じていないだけです」

「………」

「お二人が帝国とサダラム教を捨てたなら、僕は二人と心を開いて話ができると思ってください」

「それは……」

「でも、無理やりそうしろと言っているわけではありませんので、勘違いをしないでください」


 ラックとカトリナの話は終わり、ラックはゴルドとシャナクの様子を見に二等船室に戻ろうとした。

 その時、船員が大声で叫ぶのが聞こえた。


「アイランドタートルだっ!」

「アイランドタートルが出たぞっ!」

「アイランドタートルだと!?」


 アイランドタートルという言葉を連呼している。

 ラックとカトリナは船員が指差すほうに目を凝らす。視線の先に小さく見えるが、島のようなものがあるのが分かる。

 船が進むにつれ、その島がどんどん大きくなってくる。


「面舵いっぱーーーいっ! 面舵だっ! アイランドタートルから距離を取れー!」


 船員たちの慌てようから、アイランドタートルというのがモンスターだというのが、分かる。しかも船に深刻なダメージを与えるモンスターのようだ。


「冒険者ども! 酒はお預けだ! アイランドタートルのそばにはデスシャークが必ずいる。デスシャークがくるぞ!」


 船員が言うデスシャークというのは、凶悪な水棲モンスターである。

 体長が十メートルを超える巨大な魚型モンスターで、船体をかみ砕いて船を沈没させる厄介なモンスターである。


「デスシャークがくるぞ!」


 船員が指差して叫んだ。その方角をラックとカトリナが見ると、海面に筋が見える。

 どうやら、背びれを海面に出して進んでいるために筋ができているようだ。しかも、筋は一つや二つではなく五つもあった。


「ラックさん、モンスターです!」

「そうですね」

「そうですねって、全然慌てていませんね!」

「まあ、なんとかなるでしょう」


 ラックはカトリナに微笑むが、カトリナは海上で船が破壊されたら非常に危険だと思い、表情が強張る。

 デスシャークが猛スピードで船に近づいてくる。


「わ、私、支援魔法で船に防御を付与します」


 カトリナは杖を掲げようとしたが、ラックはカトリナの手を握って止める。


「ラックさん?」

「ここは任せてください」


 ラックが空中で手を動かして何かしているのをカトリナは不思議そうに見つめる。

 すると、いきなりラックの前に槍が現れて、ラックがその槍を握る。


「え、どこから?」

「アイテムボックスのようなものです」


 実際にはガチャの画面で保留カゴに入っていたこの槍を、具現化したのだ。


「そ、そうですか……。しかし……その槍からは、なんだかとても神聖な力を感じます」


 ラックはニコリとほほ笑むだけで、槍のことは語らない。

 ラックの背丈よりやや長いが、百八十センチくらいの短めの長さの槍で、見た目はかなり地味なものだ。

 しかし、カトリナが言うようにこの槍からは圧倒的な存在感が感じられた。



【海神ポルセウスの槍】持ち主が狙った的を確実に貫く圧倒的な攻撃力と貫通力を持った神槍。海を割り魔を討ち払う。投擲しても持ち主の元に戻ってくる。



 レジェンドレアガチャの十一連ガチャで出た景品である。

 使うことはないと思って保留カゴに入っていたが、まさかこんなところで使うとはラックも思ってもいなかった槍だ。


「カトリナさんは、ちょっと下がっていてください」

「はい……」


 ラックの言うように数歩下がったカトリナは、あの槍で何をするのだろうかとラックの動向に目が釘づけになる。

 ラックは海神ポルセウスの槍を振りかぶって、海に向けて投げた。


「えっ!?」


 カトリナはまさか投げるとは思ってもいなかったので、驚いて声を出してしまった。

 ロープがついているわけでもない槍を海に投げたら、普通は広大な海の中に消えていってしまうので当然の考えだろう。


 ラックに投擲スキルはない。だが、この海神ポルセウスの槍は持ち主が狙った的を確実に貫く。

 つまり、投擲スキルがなくても投げれば船を狙うデスシャークに命中するのだ。


 海神ポルセウスの槍は一本の筋になってあり得ない速度で飛んでいき、デスシャークに命中してその巨大な体を真っ二つにしてしまった。

 その瞬間、ラックの手の中に海神ポルセウスの槍が現れるのを見て、カトリナは目を大きく剥いた。

 ラックは再び海神ポルセウスの槍を投げて五体のデスシャークを殲滅してしまったのだ。

 その光景はカトリナだけではなく、周囲にいた冒険者や船員にとっても衝撃的な光景だった。


「うおおおおおおおっ!」


 船上に大歓声がこだまする。


「兄ちゃん、やるな! 助かったぜ!」


 船長と思われる髭面の男性が、ラックの手をとってぶんぶんと振る。


「おい、野郎ども、酒だ、酒を持ってこい!」


 船員が慌てて船倉に降りていく。

 船長が船員に指示すると、大きな酒樽が数人がかりで運ばれてきた。


「俺はこの船の船長で、フックっていうんだ。よろしくな」

「あ、僕はラックです。よろしくお願いします」

「お、なんか似たような名前だな! 気に入ったぜ、兄ちゃん!」

「それは、どうも」

「兄ちゃんのおかげで船は無事だし犠牲者もない。感謝するぜ! これは俺からの感謝の気持ちだ。飲んでくれ!」

「え、その樽を……ですか?」

「兄ちゃんならこのくらい飲めるだろ?」


 フック船長は非常にいい笑顔でラックに顔をずいっと近づける。


「僕だけでは無理ですよ。どうでしょうか、皆で飲むというのは?」


 フック船長がニヤリと笑う。


「野郎ども、聞いたか! こちらのラックさんが酒を振る舞ってくれるってよ!」

「おおおおおおおっ!」


 そこからは船員と冒険者が混ざって酒盛りが始まってしまう。

 ラックはその中心で船員や冒険者から酒を注がれるのだが、状態異常無効が仕事をしてくれるおかげで一向に酔わない。


「がーっはははは! ラックさんのような酒豪は見たことないぜ!」


 フック船長は鼻の頭を真っ赤にして。もっと飲めと酒を注ぐ。

 その逆側ではカトリナが早々に酔いつぶれて甲板の上で可愛い寝息を立てて寝ているのが見える。

 その姿を見ると、カトリナも普通の女の子なんだと思うラックであった。


 

9月は土曜日更新を予定しています。


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