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Baby class  作者: 涼木夕
9/12

5時間目

 母ちゃん役の怪訝な顔がぼんやり視界に入った。


 赤ちゃんver. なのもあるが、とてつもなく眠いのと周りの薄暗さがぼんやりをさらにぼんやりさせているのだろう。


 なんだ?!このウトウト状態、フワフワする感じ?……、なんか耐えられない!!やべっ、なんか吸い込まれる?暗黒に??ぎゃー、不安!!!ーー。


 母ちゃん役の襦袢の胸元をきゅっと掴む。前に掴んだときより力を入れて掴めている気がして心強い。立ち抱っこでユラユラ揺らされるのもまた心地よい。


 いつの間にか、薄暗い空間に母ちゃん役と二人。みんなどこに行ったんだろう。よく見えないだけでそこらにいるのか?ーー。


 そのとき、また母ちゃん役がふわっと床(布団が敷いてある)に下ろそうとしてきた。背中が布団に触れた瞬間スイッチが入って「ギャー」と母ちゃん役を一喝する。


 おい、なめんなよ!!何回おんなじこと繰り返す気や!!!置いたら寝られんぞ!こっちはウトウトしとるんや!!ーー。


 ウトウト寝入り端にまた置いて起こされ、怒り心頭すぎてデタラメな大阪弁がすらすら出てくる。なんの影響だろ、コレ?


「はあ」


 母ちゃん役の深い溜め息が聞こえたが、薄暗いし眠いしで顔はよく見なかった。まあ良い、一喝したらぐいと抱き上げてくれたのだから、それで良い。このままずうっと抱っこユラユラしてくれてたら、それでいいのに。別に難しいことを要求してる訳じゃないんだからーー。


 ーーカサカサ。


 微かな布ずれの音に、はっと目を覚ます。薄暗い部屋、天井は少ないけれど星が点々と瞬いている夜空。辺りの薄明かりは星の煌めきだったとは。ロマンチック。


 じゃなくて!やられた!!ーー。


 1人ぼっち!!!母ちゃん役いないし、布団に下ろされてるしぃ!!!


 結果ーー、


 泣いた。ギャーギャー泣いた。怖くて泣いた。

 見渡す限り、誰もいない。赤ちゃんたちもいない。1人ぼっち!!!不安すぎてさらに泣いた。


 ……、来ない。母ちゃん役が呼んでも来ない。滲む目で夜空を見上げていると、まるで遭難したボートに横たわっているようだ。ゆらゆらゆらゆら、大海原に漂うボート。誰も助けに来ない。自力じゃ動けないからどうにもできない。そのうち、徐々に浸水してきて……!!!


 想像でさらに泣いた。狂ったように叫んだ。自分の耳にも障るつんざくような超音波。自分でもこれ以上は聞きたくない、早く早く気付いて欲しくて周囲の何もかもを責め立てる。


「あーもう起きちゃったの?!さっきやっと眠ったばっかりじゃない」


 やっと来た母ちゃん役がブツブツ言っているが知ったことではない、早よ抱っこせんかいと喉から尋常ならざる叫び声を絞り出して脅迫する。さっと抱き上げられた途端にすっと気持ちが落ち着く。まだ息は荒いが欠伸が出てしまう始末。再び眠気がおりてくる予感。


 ゆらゆらゆらゆら、母ちゃん役の腕の中では一片の不安もない。なんだかさっきより揺れるリズムが荒いがさほど気にもならない。安心して揺られていると、なんとなしに眠気が落ち着いてきてしまった。腹は……空いていない、さっきミルクを飲んだばっかりだ。以前なら腹一杯になったらキューと寝てしまったのに、なんだろう、まだ起きてられる。さっきちょっと寝たからか?


 母ちゃん役の顔を見上げると、さっきよりかはよく見える。ーー、やはりの怪訝顔。何故赤ちゃんをみるのにそんな眉間にシワを寄らすのか。怖いっつーの!笑顔を向けなさい、スマーイル!!


 ふと、中休みのとき、笑顔が武器になるよーーと教えてくれた、あの赤ちゃんの笑顔を思い出した。ピンクの歯茎スマイル。


 そういや、母ちゃん役に意識して笑顔を向けたことあったっけ?ーー。


 試しに口角を上げてみる。頬の肉がふるふるして上手くできない。とりあえず片方なら……、上げられた?と思うが。両方はまだ無理だな、確かに難しい。しかし方頬笑いって、ニヒルすぎだろ。母ちゃん役、赤ちゃんのニヒル笑い変に思ってたりしてーー。


 眉間のシワ増えてたら嫌だなと思いながら見上げた母ちゃん役は、なぜだか泣いていた。ポタポタと涙が落ちて顔を濡らすから泣かないでほしい。


「ごめ……、ごめ…んね…」


 なにが?!どうした??なんかよく分かんないけど、いいよ。赦すよ。全部赦す。だからーー。


「だい…すき…だからね」


 うおぉ!!!突然の告白?!なんだよ、急にどうしたんだよ、やめてくれよ。照れんじゃん。まあ、悪い気はしねーよ。うん……、すきだぜよ。

 うわぁ、なんだ、最後のぜよって。やめてえ、急にそういうの恥ずかしいからやめてくれい!

 てか、涙を拭けよ。泣くなよ。笑っててくれよ。母ちゃん役には笑ってて欲しいんだ。そんな涙なんか見てたらこっちが泣きたくなっちまうよーー。


 なんだかソワソワ不安が込み上げてきて、襦袢の上から乳首を探し当てて唇でつんつん催促した。

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