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Baby class  作者: 涼木夕
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10/12

6時間目

 見上げた母ちゃんと目が合うと気持ちが一瞬で満たされる。にこりと笑うと、にこっと返されまたほっこり満たされる。視界もだいぶクリアに見えるようになってきたし、母ちゃんの顔を飽きることなく見つめ続ける。


「あう、うー」


 訳すと、

 このままずうっと一緒にいるぜ!離さないぜぇ!!ーー。

 いやはや自分でもこっぱずかしい上機嫌なセリフがすらすら浮かんでくる。


「そろそろ下ろすよぅ?重いよ、腰いたくなっちゃった」


 ブツブツ文句が聞こえたが聞こえないフリを貫く。下ろされたら嫌だし、泣きますよってんだ。


「お待たせ!代わるよ」


 どこからか女の声が聞こえて確認する隙もなく、べりっと母ちゃんの胸から剥がされる。なんだなんだと状況を飲み込む前に、


「こんにちは!ちょっとの間、お姉さんと一緒にいようね」


 誰?!ーー。


 母ちゃんと同じような襦袢を纏った知らない女にぐいと抱っこされる。


「じゃあよろしくね。終わったら戻るから。いいこにしてるんだよ」


 後半だけ自分に顔を向けて母ちゃんが優しく笑む。その笑顔にほっとしたのも束の間、さささと視界から消えて居なくなってしまった。


 結果ーー。

 泣いた。ギャーギャー泣いた。


 いや、抱っこされてるの知らない女だし!母ちゃん居なくなってるし!!誘拐かもだし!!怖ぇーし!!!ーー。


「げぼぉっ」


 恐ろしい事態に急転し、泣きゲボを吐くほど取り乱してしまう。苦しくて、息がうまく吸えなくて酸欠になってもなお、母ちゃんを叫び呼び続ける。

 知らない女が荒れ狂う赤子をあやしきれずに、困って床に下ろされてしまった。しかし、こちとら成長著しい赤ちゃんやぞ。もう首も腰もぐにゃぐにゃの時代は終わったのだ、腰もだいぶしっかりして座れるし、首も座ってキョロキョロ見渡せる。移動したけりゃ腹這いでモゾモゾ動くことも出来るのだ!


「大丈夫?すごい泣いてるから心配になって来ちゃったよ」


 母ちゃんの声にはっと息を詰めて耳を澄ます。振り返ると母ちゃんがそこにいるではないか!覚えたての腹這いで必死に這い寄る。

 母ちゃんにやっと抱かれて安心した刹那、


「いいの?まだ終わってないわよね?」


 知らない女が余計な一言を母ちゃんに投げ掛ける。


 おい!変なこと言ったらまた母ちゃんどっか行っちゃうだろ!いいんです!!母ちゃんはこのまま抱っこしていればいいんです!!!ーー。


「う……ん」


 言い淀みながらガーゼで優しく口元を拭って、スタイを首に回して装着してくれた。赤ちゃんグッヅはここで自然といろいろ覚えたのだが、それにしても裸オムツによだれ掛けって赤ちゃんでもなかなかに恥ずかしいぞ。まあ、母ちゃんがいればなんでもいいや。


「いいの。だってゲボ吐くくらい泣いて心配だし」


 ほらな!いいんだよ。放っておいて!知らない人は怖いからどっか行ってくれー!ーー。


「でも行かなきゃダメだよー。ねえ、お姉さんと少し待ってようね」


 母ちゃんの肩越しに覗き込まれ、ギャーと恐怖の糾合を上げる。

 怖い、知らない人、近づくな、誘拐犯か、悪の手先か、何モクだ?!ーーマイナスワード、マイナス思考がぐるんぐるんと頭の中を乱れまわる。


「……うん、大丈夫みたいね」


 眉間にしわを寄せ耳を押さえるようにして、知らない女がぼそりと呟いた。ふわりと身を翻してどこかへ行ってしまう。


 ホッとした。心底安堵した。何を見て女が大丈夫と言ったのかは解らないが、まあ良い。母ちゃんにしがみついて見知らぬ怖い女が視界から消えるまで安全地帯から目で追いかけた。完全に見えなくなったら、とにかく気持ちを安定させようとおっぱいを求めた。


 ーー


「どう?落ち着いた?」


 座ってリラックスした状態の母ちゃんの乳首を長い時間はみはみして、確かに大分落ち着きを取り戻していた。はみはみしながらを見上げると、母ちゃんが居る。ホッとする。嬉しい。満たされる。こころの奥底から母ちゃんに引かれていっていることがわかる。うん、良い循環になってきた、マイナスな感情はもうないみたいだ。


 ん?ーー。


 なんだ、母ちゃんが誰かとアイコンタクトを取り始めた。さっきの女か?!手を振ったり、目線を送ったり、意味はわからないが、こっちに集中してないことは確かだ。


 赤ちゃんとの最大のスキンシップの時間やぞ!!ーー。


 むっとして、はみはみしていた乳首に生えはじめでムズムズする下の前歯をガリッと立てた。


「いっ!!!」


 母ちゃんが悶絶して声にならない声を上げた。足をバタバタさせて歯を食いしばっている。


「……こら!噛んだらだめ!!」


 大きな声と恨めしい目でびしりと注意を受けた。怒られてもコミュニケーションが嬉しくて、目が合うとニヤリと笑ってしまう。そのあとは心配なのか、ずっと注目してくれていた。そうこうしているうちに、だんだん腹が空いてきた。


「ねえ、そろそろご飯にする?」


 うむ、そうするーー。


「よいしょ、じゃあバンボに座ろうね」


 なんで?なんで赤ちゃん椅子に座らせる?いつものミルクプリーズーー。


「今日から離乳食始めるよ」


 お子様プレートに何やらドロッとしたお粥やらピューレ状のものを載せて、母ちゃんが運んできた。


 ええ!?なになに??何食わすって?!粥か?そっちのオレンジ色のドロリとしてるのは?ーー。


「はい、あーん」


 小さなスプーンにオレンジ色の不明食品をごく少しすくい上げ、母ちゃんが口元に持ってきて、下唇をつんつん刺激してくる。

 そうされると、口を開かざるを得ない。

 試しにはむりと口に入れてみる。


「にんじんさんだよー」


 言い終わらないうちに、ブブーっと母ちゃんの顔面に吹いてしまった。

 にんじんカスまみれの唖然とした表情でしばし見詰められる。


 コミュニケーションは嬉しいけど、

 ごめん、不味いすーー。

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