阿片窟視察
林則徐は1837年(道光17年)天保の大飢饉(1833年の後 大塩平八郎の乱の年)湖広総督の
長官となった。
既に此の頃多くのアヘン喫飲中毒患者が蔓延して居た様であった。
林則徐も役職もあり、当然管内のあちこちを視察して歩いた。
清国の役人としては珍しい程実直な彼の行く先々で
阿片窟の施設が見受けられたであろう。
「どこじゃ。」
「殿様。あそこの路地の食い物屋の灯りが見えますでしょう。」
小雨の中、入り組んだ街中の路地に多くの店がごった返していた。
「よし、行こう。」
突然の役人立ち入りに、店内は大騒ぎに成ったが、
表向きは当然飲み食いの店で、奥の狭い扉を無理矢理開けさせると
むっとした煙りが鼻から吸う息と一緒に入って來る。
「うっ。」
思わず屈み込みながら、
薄暗い室内を伺うと、
天井の低い部屋の中に壁に沿って複数の蚕棚の様な寝床が並んでいた。
若いのか老人なのか、
男女の別も判らない喫飲患者がパイプを咥え、
半死人の状態で転がっていた。
徐は、思わず転びそうになった。
頭がくらくらっとしたのかも知れない。
「出るんだ。」
なんと恐ろしい事だ。
こんな阿片窟が皇帝の支配する国中に有り、
数え切れない漢人の魂を内部から完全に支配しているのだ。
「大丈夫ですか。」
小者の一人が 徐の手を取った。
あまりの事に一瞬足もとを見失ってしまったようだ。




