第二十一話「再び、フォレシアへ」
「今日の鍛錬は、ここまでにしましょう。」
トニアの言葉に、ヨルは頷いた。
「ありがとうございました。」
「こちらこそ。」
トニアは柔らかく微笑む。
「では、今日はもう遅いですし、ここで解散しましょう。」
決闘場の外へ出る。
すっかり夜になっていた。
「学校には泊まれないんですよね?」
ソラが尋ねる。
「そうですね。」
ニクスが頷く。
「ですから、以前泊まった宿へ戻りましょう。」
「そうしよう。」
ヨル達は学校を後にした。
その時。
「ヨルさん。」
トニアが呼び止めた。
「はい?」
ヨルが振り返る。
「明日も来てくださいね。」
「まだ見学できる場所もありますし、鍛錬の続きをしても構いません。」
「分かりました。」
ヨルは笑って頷いた。
「また明日。」
「はい。」
トニアは小さく手を振った。
ヨル達も手を振り返し、学校を後にした。
――――――――
五人は以前泊まった宿へ向かって歩いていた。
ヨル。
ホシ。
ソラ。
ニクス。
そしてヘリア。
ヘリアは相変わらずヨルのすぐ隣を歩いている。
ヨルが少し離れるだけでも、不安そうにその後を追っていた。
宿へ到着すると、五人はそれぞれの部屋へ向かった。
「じゃあ、俺達は前と同じ部屋だな。」
ヨルがそう言った瞬間。
ヘリアがヨルの服の裾をそっと掴んだ。
「……。」
ヨルがヘリアを見る。
「……ヘリアも一緒がいいのか?」
ヘリアは小さく頷いた。
「……まぁ、そうなるよな。」
ヨルは苦笑する。
その様子を見ていたホシとソラは、少し不満そうな表情を浮かべる。
「……。」
「……。」
二人は顔を見合わせる。
「……仕方ないか。」
ホシが小さく呟いた。
「ヘリアさん、まだ元気になったばかりだもんね。」
ソラも納得したように頷く。
ニクスも二人を見て、苦笑する。
「今は仕方ありませんね。」
ヨルはそんな三人を見て、苦笑した。
「ヘリアはまだ完全に立ち直れてないんだから、仕方ないだろ。」
「……分かってる。」
ホシが頷く。
「うん。」
ソラも頷いた。
五人はそれぞれの部屋へ入り、明日に備えて休むことにした。
――――――――
翌朝。
朝食を済ませたヨル達は、再び学校へ向かっていた。
「今日も学校かぁ。」
ソラが楽しそうに歩く。
「昨日は色々あったね。」
ホシも頷く。
ヨルは隣を歩くヘリアを見る。
今日もヘリアはヨルのすぐそばにいた。
だが。
昨日までより、ほんの少しだけ表情が柔らかくなっている気がする。
「……少しずつだな。」
ヨルは小さく呟いた。
やがて学校へ到着する。
五人はトニアに会うため、生徒会室へ向かった。
廊下を進み。
生徒会室の前へ辿り着く。
ヨルが扉を開ける。
「失礼します。」
「――!」
中にはトニアとミィナ、そして二人の女子生徒がいた。
一人は、妖艶で大人びた雰囲気を持つ美しい少女。
もう一人は、薄緑色の髪をした少女。
四人は何かを話し合っていたようだった。
ヨルと目が合う。
その瞬間。
薄緑色の髪の少女が咄嗟に身構えた。
「誰だ、お前!」
「えっ!?」
突然のことに、ヨルは思わず後ずさる。
剣へ手を伸ばしかけた少女を見て、完全に固まってしまった。
「フェル。」
トニアが静かに声を掛ける。
「この方達は敵ではありません。」
「先程話していた見学生です。」
「……あ。」
フェルは構えを解いた。
「悪い。」
「いきなり警戒しちまった。」
「い、いえ……。」
ヨルは少し戸惑いながら頷く。
その隣では。
先程の大人びた少女が、ヨルを一瞬だけ見た。
しかし。
特に何も言わず、視線をトニアへ戻した。
トニア以外には、あまり興味がないようだった。
「驚かせてしまってすみません。」
トニアがヨル達へ歩み寄る。
「今日も来てくれてありがとうございます。」
「昨日は楽しめましたか?」
「はい。」
ヨルは頷いた。
「色々勉強になりました。」
「それは良かったです。」
トニアは三人の少女へ視線を向ける。
「ちょうど今、あなた達にもお話ししたいと思っていたところです。」
そして。
「では、改めて生徒会のメンバーを紹介しますね。」
トニアは自分を指す。
「私はトニア。生徒会長です。」
続いて、隣の少女を見る。
「副会長のミレイユ。」
ミレイユは小さく頭を下げる。
「ミレイユです。」
続いて、薄緑色の髪の少女。
「会計のフェル。」
「フェルだ。」
フェルは短く名乗る。
トニアはミィナへ視線を向ける。
「そして書記のミィナです。」
「よろしくお願いします。」
ミィナが笑顔で頭を下げる。
「ここ数日、ミレイユとフェルは別件で外出していたんです。」
「そのため、皆さんとはまだ顔を合わせていませんでした。」
「これで、生徒会のメンバーが全員揃いましたね。」
トニアが微笑む。
「改めて、よろしくお願いします。」
ヨル達も頭を下げる。
「俺はヨルです。」
「ホシです。」
「ソラだよ!」
「ニクスです。」
そして。
ヨルはヘリアを見る。
ヘリアはヨルの服を小さく掴んだまま、何も話さない。
「この子はヘリアです。」
ヨルが代わりに紹介する。
「今は少し事情があって、あまり話せないんです。」
「そうですか。」
ミレイユがヘリアを見る。
それ以上、深く尋ねることはなかった。
フェルもヘリアを一瞥するが、特に何も言わない。
「それでは。」
トニアがヨルへ視線を向ける。
「今日はどうしましょうか?」
ヨルは少し考える。
昨日は鍛錬もした。
学校の施設もある程度見学した。
「特に見学したいこともないので……。」
「俺達、また旅に出ようと思います。」
その言葉を聞いた瞬間。
トニアはほんの一瞬だけ、寂しそうな表情を見せた気がした。
しかし。
すぐにいつもの落ち着いた表情へ戻る。
「そうですか。」
「はい。」
「分かりました。」
トニアは穏やかに頷く。
「旅も大切な経験ですからね。」
ミィナもヨル達へ微笑む。
「皆さん、旅をお気を付けて。」
「ありがとう。」
ヨルも笑って答える。
トニアは最後にヨル達を見る。
「またいつでも見学しに来てくださいね。」
「はい。」
ヨル達はそれぞれ頭を下げる。
「ありがとうございました。」
五人は生徒会室を後にした。
――――――――
学校を出る。
しばらく歩いたところで、ニクスがヨルへ尋ねる。
「これから、どこへ向かうんですか?」
ヨルは少し考えた後、答えた。
「その前に、オセアス様に聞きたいことがある。」
「お城へ?」
「うん。」
「分かりました。」
五人はフォンティア王国の王城へ向かって歩き始めた。
――――――――
王城へ到着すると。
門番はヨル達の姿を見るなり、すぐに道を開けた。
「どうぞ、お通りください。」
「ありがとう。」
これまでの出来事もあり、ヨル達のことを知っている兵士は多い。
五人はほとんど止められることなく、城内へ入っていった。
やがて。
謁見の間へ通される。
扉が開く。
玉座にはオセアスが座っていた。
「おお。」
オセアスがヨル達を見る。
「どうした?」
そして。
ヘリアへ視線を向ける。
「何かあったのか?」
ヘリアは相変わらずヨルの隣にいる。
オセアスは少し心配そうに尋ねた。
「ヘリアのことか?」
「いえ。」
ヨルは首を横へ振る。
「今日は別の話です。」
「別の話?」
オセアスが首を傾げる。
ヨルは一度、深呼吸した。
「……オセアス様。」
「俺達には、話しておきたいことがあります。」
「なんだ?」
ヨルはホシとソラを見る。
二人も頷いた。
そして。
「俺達三人は……。」
「この世界の人間じゃありません。」
「……!」
ニクスが目を見開く。
オセアスも静かにヨル達を見つめる。
「俺達は、元々別の世界で暮らしていました。」
「ある日、三人で一冊の本を読んでいたら……。」
「気付いた時には、この世界にいました。」
「そして。」
ヨルは静かに続ける。
「元の世界へ帰る方法を探しています。」
謁見の間が静まり返る。
ニクスはしばらくヨル達を見つめていた。
そして。
以前の出来事を思い出す。
「……そういえば。」
ニクスが小さく呟く。
「以前、皆さんに聞きましたよね。」
「どちらから来られたのですか、って。」
ヨルは思い出す。
フォレシア王国のお城へ向かっている途中だった。
その時。
ニクスにそう尋ねられた。
その時、ヨルは――
『かなり遠いところ……かなぁ。あはは……』
そう曖昧に答えた。
「……あの時の答えは。」
ニクスはヨル達を見る。
「そういうことだったんですね。」
「……うん。」
ヨルは少し申し訳なさそうに頷く。
「言えなくて、ごめん。」
「いえ。」
ニクスは首を横へ振る。
「話してくれて、ありがとうございます。」
オセアスはしばらく黙っていた。
やがて。
静かに口を開く。
「……なるほど。」
「異世界から来た、か。」
その声に大きな動揺は感じられなかった。
「驚かれないんですか?」
ヨルが尋ねる。
「驚いてはいる。」
オセアスは穏やかに答える。
「だが、君達と出会ってから今までの出来事を考えれば、不思議な話でもないのかもしれんな。」
ヨルは少しだけ安心した。
そして。
本題を切り出す。
「オセアス様。」
「俺達は、元の世界へ帰りたい。」
「何か、戻る方法を知りませんか?」
オセアスは静かに首を横へ振った。
「すまない。」
「私には、分からない。」
「……そうですか。」
ヨルは少し俯く。
その時。
オセアスがふと尋ねる。
「アルヴァンには聞いたのか?」
「……まだです。」
ヨルが答える。
「フォレシアのアルヴァン様には、まだ話していません。」
「そうか。」
オセアスは少し考える。
「ならば。」
「アルヴァンなら、何か知っているかもしれないな。」
ヨルが顔を上げる。
「なぜですか?」
「私にも確かなことは分からない。」
「だが、アルヴァンは長くこの世界を生きている。」
「私が知らない古い伝承や、この世界の歴史についても詳しい。」
「異世界から来た者について、何か知っている可能性はあるだろう。」
ヨルはホシとソラを見る。
二人も頷いた。
「……分かりました。」
「フォレシアへ戻ります。」
オセアスは穏やかに頷く。
「そうするといい。」
「アルヴァンなら、何か手掛かりを持っているかもしれない。」
ヨルは深く頭を下げる。
「ありがとうございます。」
「こちらこそ。」
オセアスは微笑む。
「ヘリアのことを救ってくれた君達の旅が、良い方向へ進むことを願っている。」
ヘリアは静かにヨルの隣に立っている。
その表情はまだ穏やかとは言えない。
それでも。
ヨル達と共に歩くことだけは、もう迷っていなかった。
こうして。
ヨル達はフォンティア王国を後にし、再びフォレシア王国を目指すことになった。
元の世界へ帰るための手掛かりを求めて。
五人の旅は、再び動き始めるのだった。




