第21話 剣士の絆
「見事だ……」
レオドリックは低く笑った。骸骨の顎が震え、瘴気が最後の力を振り絞るように揺らいだ。
「我は……、互角に剣を振るえる者に出会えずに生涯を閉じた。それが無念でならず、このような姿に成り果てた」
レオドリックはアルテアを見た。
アルテアは静かに銀の剣を抜き、鞘に納めた。そして、真っ直ぐに立ってレオドリックを見つめた。
レオドリックは大剣を墓地のむき出しの土に刺し、崩れそうになる体を支えた。だが、背筋はピンと伸びていた。
「アルテアよ。この仕合の勝者にこれを贈りたい。受け取ってはくれぬか」
彼は首にかけていた古びたペンダントを左手で外し、アルテアに差し出した。銀の鎖に嵌め込まれた青い宝石が、月光に淡く輝く。
アルテアは両手でそれを受け取り、一礼した。そして柔らかく微笑んだ。
「頂戴する。レオドリック卿、いい仕合だった。おかげでまた強くなれたよ……」
「ふふ、まだ強くなるか……。さらに強くなった其方とまた打ち合いたかったものだ」
レオドリックの声に未練と満足が混じる。骸骨の眼窩が一瞬、温かく光ったように見えた。
「私もいずれそっちに行くから。その時に」
アルテアは軽く笑った。
レオドリックはワハハと笑った後に満足げに頷いた。
「それは楽しみだ……。実に楽しみだ!」
彼の骸骨は音もなく崩れ、光の粒子となって夜の風へと溶けていった。
墓地には、静謐な沈黙だけが残った。
◇
「最強の騎士だと? 英雄だと?……笑わせる! しかも女に負けるなんて!」
静けさを破るように、エドウィンが地面を叩きながら叫んだ。その顔は歪み、目は血走っている。
すぐさま衛兵たちに取り押さえられ、縄をかけられた。地面の魔法陣は、今やただの焦げ跡にすぎない。
アルテアは静かにエドウィンを見下ろした。
青い瞳が冷たく光を宿し、口調は静かで鋭い。
「彼は間違いなく、時代を築いた誇り高き騎士で、英雄だった。
……その名を侮辱するな。首と胴が別れたいのか」
エドウィンは怯えたように言葉を飲み込み、黙り込んだ。
アルテアはそれ以上興味を示さず、衛兵たちに彼を任せて踵を返す。
手のひらに収めたペンダントからは、かすかな温もりが――否、それはまるで、静かに鼓動する意志のようだった。
墓地を去るアルテアの背を、柔らかな月光が静かに照らしていた。
宿へと向かう道すがら、金髪をそよ風に揺らしながら歩く彼女は、独り言のように呟いた。
「お腹は空いたし、眠いし……寝るのが先か、食べるのが先か……悩んじゃうなぁ」
言葉とは裏腹に、口元はほんの少し誇らしげに緩んでいた。
その真っ直ぐな青い瞳の先には、深夜の静寂に包まれたシルヴェントの街が、眠るようにただ静かに佇んでいた。
(第三章・完)




