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フューダリズム・スタディーズ  作者: トルティーヤ忠信
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第10話 帝国流アヴァンチュール 上

 七月のある休日のことだった。その日は”記録的な”という常套句で誤魔化された例年通りの、四十度を軽く越す”稀にみる”猛暑で、茹だるような熱波が都会のコンクリートジャングルに滞留して陽炎が路面に揺らめき、()()()()水面がキラキラと視線の遙かな先で輝いていた。

 僕はそんななかを滝のような汗を流して、「あぢぃぃ」と喘ぎながら、商店街のアーケードを歩いていた。あらゆるものを焦げ付かせるような日差しはアーケードによって遮られているが、太陽光から発せられるこの暴力的な暑さはそんなものはお構いなしに、僕を包囲し、茹で上げている。電子レンジで温められる食べ物たちもこのような気分なのではないだろうかと思う。

 ところで、なぜ真夏の真昼に外出をするという自殺行為を僕はしているのか?無論、理由はある。それは昼飯をたべるためだった。今日は両親がともに家にはおらず、食料は自力で確保せねばならないのだ。とはいえ、世間一般の男子高校生の常として家事スキル、自炊スキルなぞは持ち合わせておらず、安易に浮かぶ選択肢としては家の冷蔵庫やキッチンの収納棚を無遠慮に漁ってカップラーメンやレトルト食品を頂戴するか、ウーバーでお気楽に家庭内外食をするか、家から酷暑のなかに打って出て外食するか、夕飯まで空腹を耐え忍ぶかの四択があった。

 外のこの気温を考えれば、冷房の効いて親もいない快適な自宅の警備に勤しむことが賢明であるのは明白であるが、こういう時に限って家で食べれないものが食べたくなるのである。僕の場合、それは馴染みの中華料理屋の回鍋肉だった。あの美味さは何ものにも代え難い。

 そうと決まれば後は早い。手早く支度をして十一時前には家を出る。店は家から徒歩十分、ランチタイムの始まる丁度の時間には着くだろう。

 しかし、僕が座して安逸とした日々を過ごすのではなく、このように果敢に勇気ある行動を起こしても、現実はどうにもままならないものらしい。あと少しで店に着いたというのに!今日のお昼の回鍋肉は我慢せねばならぬと覚悟する。

 それはあまりに突然のことだった。予期なんてできるわけがなかった。見方によっては天の計らいだろうが、このときの僕から見ればそうではなかった。しかし、僕が日々見ているラブコメのような物語で、負け気味のヒロインがヒロインレースで猛烈な追い上げを見せているときに感じざるを得ない、あからさまなテコ入れと他ヒロインへの補正を思うとき、これもまたそうやって物語られるのだろう。

 兎にも角にも、そのとき、僕の奮った気持ちは心中で行き場を失って無抵抗に容赦なく外気温に吸熱され、後に残ったのは、せめて休日くらいは学校のこととは無縁でいたいものだといういかにもやれやれ系主人公が吐きそうな諦悟のボヤキに似た希望だけだった。

 それと同時に、身体は変に強張り、言いようもない緊張と動揺で冷や汗が出て、妙な寒気までも生じてブルリと身震いした。

 だが、誤解のないように申し開きをさせてもらうと、今僕の目の前に起こっている事象に決して心からの嫌悪や忌避をしているわけではなかった。そのこころは、と聞かれたら、当事の発端であると因果をおのずと見出していた前事が、胸中で曖昧なまま、わだかまりを残していたままになっていたときに、ふと突発的に、今現在にその前段が、まるで物語のなかで伏線を綺麗に回収しているかのように、自分のその未定型でありながら筋の通った過去として、眼前に立ち現れて、その対処に苦慮した際に感じる気苦労であり、何か相手に余計なぐらいの気兼ねや遠慮をしてしまう気持ち、と解くのだろう。

 そう、僕は金雀枝アンリとばったり会ってしまったのである。




「らっしゃい……」

「二人よ」

「……こちらに」

 どうみてもカタギの人にはみえない厳ついマスターに、僕たちはカウンターへと案内された。アンリは、ついてきてもなお回鍋肉に未練を捨てきれずにもじもじしている僕をささ早く、と急かす。

 現状を説明すると、僕はアンリに連れられてここ——彼女のいきつけだというカフェ——に来ていた。どうしてか?訳はなんてことはない。

 彼女は僕の顔を見るや、「まあ偶然!」と喜びに満ちた表情で近寄って挨拶をして僕に外出の理由を尋ね、彼女と偶然に出くわして気が動転していた僕が「昼飯を食いに……」とどもるようにいうやいなや「ぜひぜひわたしとお昼を食べましょう!」と食い気味に提案してきたのだ。

 押しが強いなとおもったが、よく見れば彼女の手は僅かに震え、僕を見る瞳は彼女の今の気持ちを表しているかのように揺れていた。

 断ることもできたのかもしれない。しかし、僕はそうしなかった。いやできなかったという方が正しいのだろう。とにかく僕は彼女の提案を受け入れた。

 何故断れなかったのか、その問いは後日僕がこの出来事を振り返るたびに、ごちゃごちゃと捻くれた理屈をこねにこねたややこしくてめんどくさいセンチメンタルな感情を喚起させ、激しく自己嫌悪に陥らせたが、今こうして見れば、もっと単純で明快な気持ちから故に断らなかったのだったと気がつく。あのときはまだそれがわからなかっただけの話だ。

 店内は、繁栄の絶頂期にあった十九世紀のかつての英国の気風をそのままここに持ってきたかのように、見事にアンティーク調に統一されて調えられており、街の片隅にひっそりと佇む、紳士淑女の隠れ家のような趣を感じさせた。

 僕はマスターを見る。先ほど彼がアンリに連れられた僕を見たとき、少し驚いたような、意外そうな表情をした。おそらく、まさか彼女が同年代の男子を連れ立って完全プライベートで来るとは、とでも思ったのだろう。そして、アンリはそんな表情を見せた彼に、挨拶がわりににっこりと微笑みを返したが、目は笑っていなかった。多分内心は大変ご立腹に違いない。マスターのその強面なゴツい顔に冷や汗が一筋垂れているのが見えた。

 アンリに導かれるままに僕はカウンター席に腰を掛けると、カウンター越しから「……ご注文は?」とアンリの今のご機嫌を伺うようなおっかなびっくりな様子で注文を訊かれた。

 彼女は「いつもの頼むわ」と答え、僕は少しメニューを眺めると「アイスコーヒー、ブラックで」と注文をした。

「ブラックお飲みになるんですね」「……まぁな」

 歯切れの悪い僕の返事に彼女は訝っているようだった。そして、何か察したように彼女は訊いた。

「もしかして見栄を張っていらっしゃるの?」

「そんなまさか……」

 彼女はどうやら、僕が体裁良く見せようとするために、無理をして飲めないブラックを注文したと思っていたらしかった。しかし、その予想が外れて彼女は少し残念そうな表情を見せたと同時に、では一体なんだろうと困惑しながらも謎を解き明かしてやろうという知的好奇心に煽られた挑戦的な笑みも見せていた。もちろん僕は嘘をついてはいない。コーヒーはブラックで飲むタイプの人なのだ。

 そして、さきほどからずっと僕は一方的に気まずさを感じていた。今更ながら彼女の誘いを断れば良かったと思った。誰しもが自分に告白してきた相手と意識せずに付き合える度胸を持っているだろうか?ましてや、告白の返事を相手の温情によって留保されている——なんと僕は浅はかで未熟であることか!——身持ちで、どうして平静でいられるだろうか?僕には何が最善なのか検討もつかなかった。どう話をすれば良いのだろう?分からない。思わずぶっきらぼうな感じに返事をしてしまった。

 翻って彼女、金雀枝アンリはどうだ。彼女はなおも僕を観察していた。会話のきっかけを探っているのだろう。僕と目が合うと、彼女は「ん?」と可憐に小首を傾げて、微笑む。今こうして僕といることに本当によろこびを感じているのだろう。それがいっそう僕をいたたまれなくさせていた。

 耐えきれなくなった僕は彼女の詮索の様子を躱わすように辺りを見回す。おやっとあるものが目に留まった。それはカウンターのちょうど対面に、僕が背中を向けている壁側にあった。

 そこに、ホールクロックが静かに佇んでいた。黒檀でできた、すらりとした姿体は洒落を心得て、一世を風靡するサロンの貴婦人のようであって荘重で気品のある雰囲気を醸し出し、見事に引き締まった下半身は、恥を覚えた人間と違って臆面もなく、ガラスによって神秘的でメカニカルなその内部機構の一端を曝け出している。そこでは、僕たちが思い描いている通り、物理法則に従って一定のリズムで左右に振れる、懸吊された錘があった。振り子は、ゆらりゆらりと時の流れを空間の中に現示させていた。美しい彫刻で彩られた文字盤で巡る時針は、まもなく正午を刻もうとしていた。

 なんとなしに僕はポッケから懐中時計を取り出す。オープンフェイスのものにしたのが少し悔やまれた。ハンターケースの懐中時計なら、蓋を開けるあの一連の動作に、このカフェの雰囲気と相まってさぞかし酔狂に恍惚とできただろう。

 そんな心残りを感じながら、ゆっくり目を閉じる。秒針が時を刻む音が自分の心臓の鼓動と息遣いとともに世界にある。認識の汀のなか、生も時間も形を失いただ音の連続だけとなって、寄せてはかえす漣のように、そっと近づけて知覚に供する渦巻く耳殻の空洞にその波音を幾重にも遺していく。チクタクチクタク……時を告げる響きを頼りに数える。予定調和の鐘声を。


 五、四、三、二、一……今————。


 ウェストミンスターの鐘が鳴る。

 打ち鳴らされる鐘の音が、優美に店内に木魂し、そして儚げにレトロなこの雰囲気のなかに溶け込んでいく。

 僕はすうっと深呼吸をして、瞼を開ける。ぼんやりと見える様々な色相の光のモザイクが段々と像を作る。横を向く。金雀枝アンリが相変わらず微笑んでいた。彼女は訊いてきた。

「なかなか風雅な方なのね。それはどこの?」

 視線を僕の手元の懐中時計に投げかける。

「精工舎の、手巻き式……」

 僕はぼそりとそう呟く。「よくぞ聞いてくれた!」、内心は興味を示してくれて、話すネタができて心躍っていたが、早口で捲し立てるように答えて蘊蓄や高説を思わず垂れてしまうことはどうしても避けたかった。となると必然的に口下手な感じになってしまう。彼女はそんなことには大してリアクションはせず、「いいかしら?」と僕の手元に顔を近づけて、懐中時計に耳をすましている。「ちゃんと元気に生きているわ」

 ありがとう、アンリは姿勢をもとに戻した。

「父も懐中時計を持ってるわ。ロンジンとかウォルサムの古いやつ。それにしても……良かったわ、父と話が合いそうで」

「父と……」僕はその言葉を繰り返した。彼女の含みのありそうな言いぶりをみるに、いつかは彼女の両親に顔見せしなければいけないのだろうか?彼女はもう僕との先を考えていた。彼女はどこまで人生の航路を定めているのだろうか?僕たちの関係は何とも形容のできないものであるというのに。今彼女が思い浮かべているのは、過大な妄想というべきか、それともただ単に気が早いというべきか。とにかくあらゆる意味で時期尚早であり、僕にとって少し薄気味悪く思えた。

()()僕たちは、何かを語れるような間柄ではないのでは?」僕はいささかの訂正を試みた。

「えぇ、"まだ"、ね」

「……」

 迂闊だった。失言した。彼女に期待を持たせてしまった。もう少し言葉を選ぶべきだ。僕はまだ彼女との距離感——それはすなわち僕の彼女との向き合い方の理解と自覚の明白さの度合い——を測りかねていた。いまは不用意に語るべきではなかった。

 僕は曖昧な笑顔を作って、姑息に場を繕おうとした。カウンターの向こう側を覗き見る。丁度マスターがコーヒーを淹れていた。アルコールランプの焔に熱され沸騰した水は蒸気圧に囃し立てられて、上々の気分でコーヒー豆を踊らす。

 しばらくしてモカブラウンの薫り豊かなコーヒーが鮮やかな手さばきでステンレスのグラスに注がれる。パチパチと氷が称賛する音がした。そしてすぐさまアンリのドリンクも作られた。

「お待たせしました。こちら、ジャスミンティーとアイスコーヒーです」

 慇懃な態度でカウンターに置かれる。グラスの水面には波すらたたなかった。

「ランチは何になさいますか?」まだちらちらとアンリを見て機嫌を伺っていた。

「どうします?」と彼女はマスターには目もくれずに僕に訊く。ページをめくってランチメニューを開く。ひと通り見て、パスタかライスか、はたまたパンか、どうしようかと思案する。腕を組んでう~むと一言唸って、決める。

「ペペロンチーノ、大盛りで」

「わたしは、そうね、今日はペスカトーレにしましょうか。お願いするわ」

「かしこまりました」

 マスターは、そう言って調理の準備に取り掛かった。

「では……」アンリはそう言ってグラスを持ち、僕の方に身体を寄せてグラスを向ける。どうやら僕が音頭を取らなければならないようだ。求められたからにはエスプリの利いたことを言わなければならないのだろう。彼女の瞳のまばゆさから、彼女もそうであるようにと望んでいるように見えた。瞬時に脳裏に言葉が浮かんでは消え、突然、はっとある断片的な記憶がフラッシュバックし、これだと思う間もなくまるであらかじめ用意してきたかように、記憶に紐づかれ夏の朝のイメージを纏った言葉を、あやまたず思い浮かんだ言葉を、自然に口が語る。

「この美しい夏の朝限りのひとときに」

 そう言い終えたとき、ふと僕は、これは以前読んだ小説の一節を捩っているのではないかと思い至り、その続きが以下のようであったことを思い出すと我ながら驚愕した。


 ———僕たちは花嫁と花婿だった。


 無意識のうちに喚起された意思は、アンリとそのようになることを夢見ているとでもいうのか、それとも予言の自己成就というやつか。自分の普段の何気ない行いが胎内回帰願望や近親相姦的思考のもとに立っていると自覚してしまったときに襲い掛かる、熱病でうなされた夜にみるような言いようもなく恐ろしく不気味なナニカがぞわぞわと自分を侵食してくるあの感覚に似た、おぞけがするほどの気持ちの悪い感触を覚えた。僕は彼女とそうなることを本心では期待しているというのか……いや、ありえない。たまたま、これは偶然なのだ。偶然そのような言葉を思いついただけなのだ。そうだ、そうであるべきだ。そうに違いない。そうでなければ、自分のあまりのキモさに、自己嫌悪の気持ちが膨れ上がって病んでしまいそうだ……

「できることならば、この一度きりの逢瀬でないことを祈りますわ」

 アンリも当意即妙な返事をする。彼女にとって僕の台詞は期待以上の花丸満点解答だったようで、彼女はとても上機嫌に僕とグラスを交わした。僕は心の内の悶絶を見せないように、平静を装おうと大分格好をつけてアイスコーヒーを一口飲んでみせる。奥深いコクとよく焙煎されたことで一層華やいでいるコーヒー豆独特の芳ばしい香りのなかに、人生のある境界線を過ぎて初めて美味いと思える苦味が喉越しを豊かに潤した。

 ブラックでコーヒーを飲み少し自信を取り戻した僕は、あらゆる物事を斜に見て冷笑する厭世家気取りなスノッブが普段標準仕様で顔面に備え付けているような面持ちを作って、敢えて間違えた見栄を張る。彼女に何がなんでも本心を悟られたくはなかったのだ。いわばデコイだ。

「それはどうだろう。もうないかもしれないな。名家のご令嬢がお一人で不用意に街をぶらついていては、たとえ何かが起こっても誰もどうしようもできませんよ?だから……——」

「街を歩けばガラの悪い連中とエンカウントするだの、ナンパされるだのそうそう現実では起きませんわ。少年マガジン連載のラブコメの読み過ぎではなくて?それに、あなた様もわたしたちと同じお立場ではありませんこと?——文録(もんろく)HD創業家の御子息さん」

 やはり彼女は一枚も二枚も上手だった。さすがは三井や三菱、住友と肩を並べる大財閥の御嬢様といったところか。

「やっぱり知っていたか……」

 僕がそう唸ると彼女はしたり顔で微笑んだ。何もかも見透かされていたわけである。

「えぇ、もちろん。あなた様のお家はこの辺りではかなりの名望家ですから。それに文録(もんろく)百貨店にはいつもお世話になっているんですよ」

 彼女は着ている白を基調としたワンピースの胸元を指で摘んだ。「これもそうよ」

 アルファベットの"C"を二つあしらったブランドロゴが黄金に淑やかに光る。その輝きが、彼女を押し退けてそのブランドを誇張することなく、彼女の姿態をさりげなく引き立たせている役に終始しているのを見ると、彼女の持つ気質や気位が「ブランド」というセレブリティなものを保持するに足るだけの素質であることを如実に示し、またアクセントとしてブランドを日々の装いのなかに組み込んでいるのを見ると、彼女には単に「金持ち」や「お嬢様」というレッテル張りの言葉だけでは説明し尽くせないほどの装いの素養が相当あることをしみじみと感じた。

 僕たちの間にいっときの沈黙が訪れた。会話の流れは着実に生まれつつあるが、それでも、お互いどう行間を読んで、話を切り出そうかと悩んでいた。僕たちは互いに互いを知ってはいるし、この一連の会話のような何かから相手の事を少しは理解できるようになったが、それはボタンの掛け違いのようにほんのささいなズレや違和感であるにも関わらず、そして解消策はとても容易であるにも関わらず、僕たち二人は互いに相手のことを必死に考え過ぎるあまり、こうであろうという想定がいつのまにかそのまま現実として読み違えてしまっていたのだ。そうであるが故に二人は自分でもよく分からない仮面でもって、マスカレードの社交に囚われていた。金雀枝アンリもまた彼と語りたい、語らなければ、と強く思っていた。

 口を開けようとしては思いとどまりを繰り返しているうちに、パスタとソースを絡めて熱する音がいきなり耳に飛び込んだ。ほのかに漂うニンニクの香りが鼻腔をくすぐる。お互い強い音と香りの衝撃で心が少し落ち着いたような気がした。彼女は息を一度吸い、意を決したように話し出す。

「わたしが今日こうしてあなた様とのこうした場を望んだ理由は……」

 彼女の言葉は段々鈍くか細くなっていた。そして何も聞こえなくなった。言葉を継ごうとしているが、言うべきか言わぬべきか迷っているようだった。しかし、自分で納得するように頷いて、また語り始める。今度ははっきりと聞こえた。

「どうしてもお話ししたいことがあったからです」

 僕は先の告白に関係する一件と予想して一瞬姿勢を正して身構えたが、本当はこんな話はしたくないと悲しげにしんみりと語る彼女の表情を見るとその類の話ではないことに気づいた。

「……いずれはしなくてはならないのならば、今のうちに済ませたほうが良いでしょう。私たちを決定的に別ってしまうことを。その方がお互いにとっても良いことかと思うのです」

 何を言っているのか分からなかった。彼女はそんな僕の様子を見てか補足するように語った。

「……端的に申し上げますわ。わたしたちは生徒会のなそうとすることには懸念を感じざるを得ません」

 ここでようやく、彼女は学園のことを話しているのだと察した。

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