第一節 生徒会
列車から降りると、そこは待ち望まれた新天地だった。
さきほどまで何度も何度も僕は高校生になったんだという実感を確かめるかのように眺めていた生徒手帳をジャケットの内ポケットにしまいつつ、僕は改札に向かう。
IC定期券をかざして改札をくぐり抜けて、階段を上がる。本日は快晴、澄み切った青空が広がっていた。
僕はひとり歩いて登校する。うららかな春の朝日影が、僕の制服の校章を眩く照らしていた。歩くたびに、少しダボついて糊気の取れていない、まだ袖を試着の数回しか通していない新しい学生服の着心地に時折戸惑いながらも、足取りは軽く心は晴れやかだった。
今日は入学式だった。艱難辛苦の受験勉強の末ついに勝ち取った第一志望校への入学、喜びもひとしおだった。
仏曉学園高等学校、医学部や旧帝国大学に何人も合格者出しているキリスト教系の名門私立進学校として僕の住んでいる地域では名が通っているその高校に、僕は通うのだ!
これから先に待っている学園生活の様々なことに思いを馳せる。きっと想像もしない、心躍る楽しいことが起こるに違いない。僕はそう思いながら歩き続けること十数分、ついに校門の前に立つ。見ると、僕と同じように少し大きくて身幅に合わない学生服を羽織った生徒たちが沢山いた。皆、入学式の会場である講堂に向かっているようだった。僕は人混みのなかに混ざって行くのはごめん被ると思って校門からすぐ近くから校舎に続く桜並木のベンチに座って人が捌けるのを待つことにした。
柔らかな春風が吹く。桜の木々が揺られ、さざめき、花びらが舞い散る。小鳥のさえずりがどこからか聴こえた。ああなんと美しく心静まる春の長閑さなのだろう!
僕は、ベストのポッケに控えている懐中時計の、粛々と刻んでいく時の調べに耳を傾けながら、ほのぼのとした陽気にあてられて思わず春眠に誘われてしまいそうなほどに、穏やかに安まっている心持ちになっていた。
そのように春の息吹を快く感じて感傷に浸っていると、僕を呼ぶ声が、唐突に聞こえた。
「あなたが史部干城ね」
振り返ると1人の少女がいた。均整のとれ揺るぎない自信に満ちた高邁な士風すら薫るかんばせ、華奢だが岸壁に咲く白百合のように凛とした佇まいの少女だった。長く美しい髪は春風にたおやかに撫でられ、立派に着こなした学生服は彼女の纏う雰囲気そのものを表象しているようだった。胸に着けているピンバッジが陽光に照らされてキラキラ輝いていた。
「そ、そうだけど……あ、いや、そうですけど……僕に何か用ですか?」
「わたしはこの学園、私立仏暁学園高等学校次期生徒会長、襲ユリよ」
彼女、襲ユリは明朗に名乗った。決まったわね、と悦にいっているようだった。僕はいきなりのことで困惑を隠せないでいた。
相手が自分の名を名乗るのは別に構わない、だがどうして僕の名前を知っているのだろうか?僕は特待生でも何でもない、もちろん帰国子女でも推薦組でもない。モヤモヤとした疑念が僕の頭の中に浮かんでくる。それに彼女は仏曉学園の生徒会長であるとも言ったか。生徒会関係者が何故僕に声を掛けたのだ?これは一体全体どういうことなのだろう……。
「単刀直入に言うわ」
彼女は僕の脳内に湧き起こる疑問の数々をよそにそうズカズカと物語を先に進めていき、そして僕を真っ直ぐに見据え、指差して、こう言った。
「あなた、わたしの封臣になりなさい!」




