序章 封建制の学園
うららかな春の朝日影が、僕の制服の校章を眩く照らしていた。僕はひとり歩いて登校していた。歩くたびに、少しダボついて糊気の取れていない、まだ袖を試着の数回しか通していない新しい学生服の着心地に時折戸惑いながらも、足取りは軽く心は晴れやかだった。
今日は入学式だった。艱難辛苦の受験勉強の末ついに勝ち取った第一志望校への入学、喜びもひとしおだった。
仏曉学園高等学校、医学部や旧帝国大学に何人も合格者出しているキリスト教系の名門私立進学校として僕の住んでいる地域では名が通っているその高校に、僕は通うのだ!
これから先に待っている学園生活の様々なことに思いを馳せる。きっと想像もしない、心躍る楽しいことが起こるに違いない。僕はそう思いながら歩き続けて、ついに校門の前に立つ。見ると、僕と同じように少し大きくて身幅に合わない学生服を羽織った生徒たちが沢山いた。皆、入学式の会場である講堂に向かっているようだった。僕は人混みのなかに混ざって行くのはごめん被ると思って校門からすぐ近くから校舎に続く桜並木のベンチに座って人が捌けるのを待つことにした。
柔らかな春風が吹く。桜の木々が揺られ、花びらが舞い散る。
ああなんと美しいのだろう。僕はそう感傷に浸りながら、静かに時が流れていくのに身を任せていた。
「あなたが史部干城ね」
振り返ると1人の少女がいた。均整のとれ揺るぎない自信に満ちた高邁な士風すら薫るかんばせ、華奢だが岸壁に咲く白百合のように凛とした佇まいの少女だった。長く美しい髪は春風にたおやかに撫でられ、立派に着こなした学生服は彼女の纏う雰囲気そのものを表象しているようだった。
「そうだけど、僕に何か用ですか?」
「わたしは私立仏暁次期生徒会長、襲ユリよ」
彼女、襲ユリは明朗に名乗った。名乗るのは別に構わない、だがどうして僕の名前を知っているのだろうか?僕は特待生でも何でもない、もちろん帰国子女でも推薦組でもない。それに彼女は仏曉学園の生徒会長とも名乗ったか、つまり僕の先輩ということだ。これはどういうことなのだろう……。
「単刀直入に言うわ」
彼女は僕の湧き起こる疑問の数々をよそにそうズカズカと物語を先は進めていき、そして僕を真っ直ぐに見据えて、こう言った。
「あなた、わたしの封臣になりなさい!」




