優しい世界
「いかにも他所者っていう感じの見た目だな。気味わりぃ。」
「あっち行こうぜ。」
「ねぇ、あの人何処の人?」
「あんな気味の悪い人見ちゃいけません!あっち行きましょ。」
すれ違う人は大抵こんなことを言うけれど、みんな手を振ってくれる。
近くの宿への道を尋ねた時も、
「気持ち悪い奴だなぁ、他の奴に聞いてくれ。」
なんて言いながら、身振り手振りで丁寧に案内してくれた。
別にここだけではないけれど、やっぱり変わった世界だ、ここも。
他の世界だったら絶対に損するだろうなって思う。
だけれど、そんなことはどうでもいい。
この「世界」の人が「外界」に行くことなんて、あり得ないのだから。
そんなことを考えながら歩いていたら、宿に着いた。
「お前みたいな奴を泊める部屋なんてねぇーんだよ!」
と言いながら部屋まで案内してくれた。
どうやら代金も半額にしてもらえたみたいだ。
ふふっ、やっぱり優しい。
部屋に入って、荷物を下ろして、軽く水浴びして、一段落した。
いつもそうだ。どの世界でもこの事だけは変わらない。
この一連の流れだけは変わらない。
どの世界にも人がいて、宿があって、そして物語を聞いてくれる人がいる。
それだけで十分だし、満ち足りている。だから私は生きていられる。
宿に着くといつもこんな事を考えて、そして「アレ」をする。
そう、「日記を開く」のだ。
これだけなんだ。私の持ち物は。
それ以外の物は大抵その場で手に入る。物語りをして、お金をもらう。
必要なものはその場で買って、宿に泊まる。どんな世界でも一緒だ。
でも、これだけは違うんだ。唯一なんだ。オンリーワンなんだ。
「ある世界」では「他の世界」のことを知ることはできない。
それどころか、彼らは他の世界の「存在」すら知らない。
大抵は「宇宙」だとか「海」だとか「大気」とか、
そういう曖昧な言葉でしか外界を表現しない。
そんな「他の世界」を記録しているのは、こいつだけなんだ。
「全世界」を巡ることができるのは「私」だけだし、
「全世界」を記録できるのはこの「日記」だけなんだ。
お互いにお互いを支え合い、証明する。ある意味「相棒」みたいなものだ。
だから「日記を開く」。なにもおかしくなんかないでしょ?
誰かが聞いているわけでもないのに、いつもそういう事を思って日記を開くんだ。
私は日記のページに目を走らせる。
まだ続きます。




