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浄化能力の発現

聖騎士ジェーン。

魔道士メアリー。


かつて勇者ジャックと同じパーティにいた少女たち。2人には右耳がなかった。生きたままゴブリンに捕まると、冒険者は例外なく右耳を切りとられるのだ。ゴブリンなりの復讐なのだろう。


今やあのときの溌剌とした面影はなく、虚ろな瞳は何も映していなかった。


ラグの上に寝かされた2人の腹部は不自然に膨らんでいた。説明など不要だった。2人のそばに膝をついた愛にキャリーが語りかけた。


「愛、その人達は……」

「分かってます。だけど、ひどいよ、こんなことって」

「これが現実なのよ」


開いたままのメアリーの目尻から涙がこぼれた。


この人たちをなんとしても助けてあげたかった。


この人たちから自分がうけた仕打ちなど、些細なことであった。


愛は2人にヒールをかけ続けた。


「ヒール、ヒール、ヒール!」

「その人達にはヒールは……」


とキャリーが言いかけて、口をつぐんだ。愛の懸命さに言葉を続けることができなかったのだ。


キャリーがその場を後にしたあとも、愛は治療の手を止めず、膨らんだ腹部にも手を当てて魔法を発動させ続けた。この人たちを助けてあげたい、その一心であった。


しばらくしてキャリーが戻って来た時、ヒールを掛け続けて疲れ果てた愛は2人の側で眠っていた。


すでに時刻は夕方であった。キャリーは愛に毛布をかけた。


すこし離れた場所からは祝勝会の喧騒が聞こえていた。冒険者に明日はない。今日一日を無事に生きて終えられることを純粋に喜び、精いっぱい楽しむのが冒険者だ。そうであるべきなのだ。


「?」


キャリーは横たわる2人の冒険者の少女に違和感を感じた。


「お腹が、小さくなってる?」


キャリーはメアリー達の腹部に手を当て中を探ったが何も感触がない。


明らかに異物が消え失せていた。それどころか瘴気の痕跡すら感じることができなかった。


愛の一心不乱さが小さな奇跡を起こした。


愛の浄化能力の発現がこれからの世界に及ぼす影響についてキャリーが考え込んでいると、いつの間にか意識を取り戻したメアリーが口を開いた。


「ここは……?」


キャリーは起き上がろうとするメアリーを制した。


「まだ寝てなくちゃダメよ。

 ここは討伐レイドのキャンプよ。あなたは救出されたの」


メアリーは自分の横で仰向けに寝かされているジェーンを横目で見た。


「ジャックは? 勇者ジャックはどうなったの?」

「……まだ見つかっていないわ」


キャリーは正直に告げるべきか一瞬迷い、メアリーはその意味を理解した。


「そう。ジャックは死んだのね」


キャリーは話題を変えるべきだと判断した。


「魔力封じの首輪は外したわ。あなたは自由よ」

 

メアリーは上半身を起こすと、首の周囲をさわり、虚ろな目で側に横たわる愛をみた。


「愛があなた達にヒールと浄化をかけてくれたのよ」

「……」


メアリーはゆっくりと立ち上がった。


そのまま無属性魔法で体を空中に浮遊させ、高い空へと上昇を続けた。


高く…


さらに高く…


そして


「セルフデストラクション」


メアリーは爆音とともに夜空に赤い花を咲かせ、小さな星屑となり跡形もなく消えた。


「なんてことを……」


キャリーは青褪めた顔で上空をあおぎ見た。


冒険者たちは誰かが花火を上げたと思っているらしく、歓声が聞こえていた。誰も一人の少女が自死したことに気づかず、祝勝会のにぎやかな声も途絶えることが無かった。


爆発の音で愛が目を覚ました。


「私寝てたみたい……。あれ、メアリーさんがいない?

 キャリーさん、メアリーさんはどこにいったの」


 【ステータス】

 名前:波方 愛

 種族:人間

 職業:巫女

 称号:異世界人

 レベル:2

 体力:20 / 20

 チャージ:- / -

 力:8

 俊敏:20

 装備:爆裂ヨーヨー(USR)

 スキル:ヒール(小)

     浄化(小)



*****



愛は再び冒険者としての活動を始めていた。


治癒院での仕事を完全にやめたわけではなかったが、時間を見つけては冒険者ギルドのクエスト発注書を確認しに行き、魔物討伐依頼を受注した。


武器は剣でも杖でも無かった。


爆裂ヨーヨー。


一見すると唯の玩具であるそれは、恐ろしい威力を秘めた投擲武器であった。


本体の重量から考えて普通の金属であるはずが無かったが、魔物に向かって投擲されたときは単なる質量では説明できない威力を発揮した。裂帛の気合を込めて放てば、インパクトの瞬間に強力な衝撃波を発生させ対象を粉砕した。ゴブリン程度なら一撃必殺だった。


ゴブリンの森で、廃坑で、魔物に脅かされる村で、愛は戦闘経験を積み重ねていった。


すぐに恐怖が消えたわけではなかった。愛なりの不器用な戦闘の日々が、少しずつ最初に感じた恐怖を上書きし、彼女を変えていった。


時間を見つけては、アキ先生が訓練をつけてくれた。


「愛、初めて会った時は子供相手にダンスを踊っていて、

 とんでもない甘ったれたお嬢さんが来たもんだと思ったけど……

 しっかりとした、いい目をするようになったわ」

「そんなことないです。私、相変わらずの甘ちゃんです」

「それが分かっただけでも成長よ」


孤児院の食堂で、人気のない空き地で。


「動きに無駄が多い。最小限の動きを意識して」

「……今、あなたは死んだわ」

「常に飛び道具を警戒すること」

「戦いとは、常に二手三手先を読んで行うものよ」

「爆裂ヨーヨーの性能に頼りすぎてはダメ!」


朝は水仕事、午後は治癒院での仕事、空いた時間があればクエストを受注し、隙間時間があればアキ先生との訓練。夜には疲れ果てて屋根裏部屋で泥のように眠る日々。そのような日々を1年ほども続け、愛は実力を身に着け、着実に強くなっていった。


ある日の夜、いつものように忙しい一日を終え、疲れた体を屋根裏部屋のベッドに横たえ目を閉じた。すぐに何も聞こえなくなった。愛は落ちてゆく感覚を感じると、意識を手放した。


次に愛が目を覚ますと、そこは保健室のベッドの上だった。すぐそばの枕元には爆裂ヨーヨーが置かれていた。


奇妙なことに、紗良に付き添われて保健室で横になってから、半日も経ってはいなかった。

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