表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

エルデリアへの転移

学校の廊下を、少女は人の流れと逆方向に歩いていた。


逃げるのに必死な生徒たちは振り向こうともしない。


少女はスキップで走り出した。肩より少し長い髪がふわっとゆれる。


いつの間にか、少女はハウスダンスのステップを踏みながら走っていた。激しいステップなのに誰の注意を引くこともない。


すぐ近くの教室から女性の悲鳴が聞こえた。少女が教室に飛び込むと2匹のゴブリンが着衣の乱れた女子生徒を囲んでいた。


「ぎえ! げー! げー!」


お楽しみを邪魔をされたゴブリン達は闖入者を口汚く罵ったが、部屋に入ってきたのも少女であると知って、獲物を値踏みする獣の目で少女をみた。顔を見合わせニヤリと笑うと、これまでにも何度もそうやって人間を襲ったのであろう慣れた動きで少女に襲いかかった。


が、少女の動きはゴブリンの能力を完全に凌駕していた。


ゴブリンが棍棒を振るうと、少女はその動きに応じて身をひいた。


ゴブリンが背後に回ろうとすれば、少女はその動きに合わせてゴブリンの位置と入れ替わった。


その動きはまるでダンスだった。奇妙なダンスは5分ほども続いた。ゴブリン達は少女の体に指一本触れることもできなかった。


「うん。こちらの世界でも十分動けてる」


少女は息切れ一つしていなかった。


「ぎえ! ぎえ!」 


ゴブリン達は薄気味の悪い声をあげた。少女を罵っているようだった。


「君たちのお楽しみは、これからよ」


少女は黒板を背にして立ち、2匹のゴブリンに微笑んだ。ようやく少女を追い詰めたと確信したゴブリンが棍棒を振り上げて撲りかかろうとしたその瞬間、


びゅん!


少女の手元から白銀の輝きが走り、近くにいたゴブリンの頭部へと突き刺さった。


ゴブリンの頭部が爆散した。


もう1匹のゴブリンは何が起こったのか分からず、その場に凍りついた。


「いうたやろ。お楽しみはこれからやけんね」


呆然としたゴブリンの顔面に向けて、少女の手元から再び白銀の輝きが放たれた。


「えんじょい♡」


その少女、波方愛がささやくと、残ったゴブリンの頭部も爆散した。



*****



波方愛はこの春から今治市の私立せとうち青雲高校の2年生となった。所属しているダンス部では部長となり、部活に勉強にと忙しい日々を過ごしていたが、4月も中旬に入り、当初の浮き立つような気分も大分薄れてきた。


その日、愛は朝から気分が優れなかった。真面目な性格だから、無理を押して学校までは来たものの、2時間目になる頃には耳鳴りがいよいよ酷くなり、椅子に座っていても頭がくらくらとしてきた。


……愛、顔色悪いよ

……大丈夫?

……先生、波方さんの具合が悪そうなので、保健室にいってもいいですか

……ほら、愛、しっかり


愛の幼馴染である宝来 紗良の心配そうな声もくぐもって聞こえた。紗良に付き添われてなんとか保健室に辿り着き、ベッドに横になり目を閉じた。


すぐに何も聞こえなくなり、落ちてゆく感覚が愛を襲った。意識が遠のいていった。



*****



薄暗がりの中で、愛は目を覚ました。


愛は今が明け方で、自分の部屋で寝ているものと思った。


だが、次第に意識がはっきりしてくると、ここが自分の部屋ではなく、保健室でもないことに気がついた。


どことなくかび臭く、埃っぽい。


ベッドの上で体を起こして周りを見渡すと、剥き出しの梁が低い位置に見えている。そこは屋根裏部屋であるようであった。周りには同じような簡素なベッドがいくつも並んでいた。


「ここはどこ?」


答えはなかった。


ベッドから降りて、初めて自分が制服と外履きのまま寝ていたことに気がついた。


すぐそばに下り階段があった。踏み板の奥行きが極端に短い急な階段であった。


手すりもない急な階段を慎重に降りてゆくと、階下は食堂であるらしく、小学校低学年くらいの子供達が食事をしていた。彼らは愛を見ると、一瞬驚いたような表情を浮かべたが、愛がにこりと微笑むとすぐに打ち解けた。愛が子供たち相手にヒップホップダンスを教えていると、隣接する小部屋から教会のシスターのような格好をした優しそうな女性が顔を出した。


一人の子供が大きな声を上げた。


「せんせ〜い。またイセカイジンが来たよ〜」

「あら。そろそろ来る頃だと思ってたわ。いらっしゃい」

「えっと、こんにちは、お邪魔しています?」


それがエルデリアの賢者であるアキ先生と愛の最初の出会いだった。


アキ先生は愛が来るのを不思議な方法で予知していたようであり、愛の疑問や質問に対しても面倒がること無く根気強く丁寧に答えてくれた。


やがて分かったことは……


ここが地球ではなくエルデリアと呼ばれる異世界であること、

エルデリアが中世ヨーロッパのような世界であること、

エルデリアには魔物がはびこっていて人々の生活を脅かしていること、

エルデリアの人々は魔法やスキルが使えること、

たまに異世界人がやってくること、

愛が転移してきたこの建物は教会が運営する孤児院であること、

異世界人はエルデリアに最初に来た場所から元の世界に帰りやすいこと、などなど。


愛はアキ先生と相談して、しばらくの間、この孤児院で水仕事や雑事など手伝って過ごしながら、今後の身の振り方を考えることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ