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官能霊媒師は朗読で祓う  作者: あしゅ太郎


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20/24

湯上がりミルク戦争

温泉の湯上がりで火照った体を冷ますべく、4人は宿のロビーに集まっていた。

マッサージチェアが並び、瓶入りの飲み物がずらりと冷蔵庫に並ぶ、昭和の香り漂う癒しの空間――のはずが。


「おい因幡、勝負しろ」


「は? 牛乳で?」


浴衣の前をゆるく合わせた因幡歩人が、瓶入りのコーヒー牛乳を手にして振り返ると、真正面から睨みつけるように高守柚瑠が立っていた。

手にはしっかり白牛乳。


「除霊の実力は今日見せつけられた。だがな……“湯上がりの牛乳の飲みっぷり”でこそ、本物の男の価値が決まる!」


「誰の世界観だよそれ……!」


黒川才斗が吹き出しそうになりながら手を口に当てる。

「はぁ……もう好きにしてください」と呆れた声を出したが、同時に目が楽しそうに笑っている。


律はいつものように落ち着いた笑顔でふたりの間に立ち、瓶牛乳を手に持った。


「それでは、因幡さん、柚瑠さん。準備はよろしいですか?」


「おう、望むところだ」


「こっちはいつでも飲める」


因幡がコーヒー牛乳を、柚瑠が白牛乳を構えて仁王立ち。

ふたりの視線が空中で火花を散らす。なぜかこの一騎打ちにだけ、やたらと真剣だ。


「では……用意、スタート」


律が手をひらりと振り下ろすと、ふたりは一斉に瓶を傾けた。


「……んぐっ、んぐっ……!」


「ぐっ、くっそ、思ったより冷てぇ……!」


どちらも顔をしかめながら、勢いよく瓶をあおる。

黒川が笑いながら、スマホで動画を撮り始めた。


「ほんとにやるとは……どっちも真剣すぎて、逆に面白いんだけど……」


5秒、10秒――

瓶の底が先に見えたのは、コーヒー色。


「ぷはっ!」


因幡が口を離した瞬間、空の瓶を掲げた。


「勝ったな。オレの喉、なめんな」


「くっ……! 甘さが飲みやすさに影響しただけだろうが……!」


「何? 負け犬の遠吠え?」


「だれが犬だとォ!?」


黒川と律が同時に「まあまあまあ」とふたりの間に入り、手を振ってなだめる。


「勝負は勝負ですよ、柚瑠さん」


「くっ……律まで……」


「でも、柚瑠さんの飲みっぷりも素敵でした」


「……っ! ば、ばか……!」


「ふたりともお疲れさまでした。これ、クールミント味の飴。喉にどうぞ」


律がにこやかに飴を差し出すと、因幡も柚瑠も何だかんだで受け取った。


黒川は笑いながら、因幡の横に腰を下ろす。


「先生、コーヒー牛乳勝負に勝っても、小説の宣伝にはならないですよ」


「……くっそ、次は早押し朗読対決だな」


「もうやめてください、めんどくさい……!」


ロビーに笑い声が広がり、宿の静けさの中に、少しだけにぎやかな温泉夜の思い出が刻まれた。

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