南部包囲作戦
「ひゃー、こりゃひどい、壁がドロドロだぁ、石でできてるはずなのになぁ………。」
ジュリアンが戻ってきたのは先程の洞窟だった。
「まさか元の場所にまで戻っているとは思うまい、大体、ここの隠蔽魔法苦労したんだぞ?久しぶりに魔導書を持って発動したわ。」
そう言って彼は再び探知魔法を発動して、偵察を開始した。
「中将!もうすぐ準備も完了しそうです!」
「そうか………。」
もう歳も超えて1月となった。
アイアンアーミーズはこの時点で配置を完了し、あとは残りわずかの準備を残すのみとなった。
「すでにいつでも作戦行動を開始せよと命令が下っている、このままじゃ奴らはアッタームス山脈まで止まらんだろう、それから東は北部の領を除いて全滅だ、ここで包囲がもし完了すれば、兵力差は逆転し、南部でも攻勢を開始できる………。」
だから、急げ、とにかく急げ!そうサッターはいうと何故か不安げな顔になる。
「………なんだか嫌な予感がする、この作戦、向こうがすでに予期している気がしてならないな………。」
「で、敵はどうだった!」
「元帥の睨んだとおりですよ、連中は戦車を大量に我が軍の側面に配置していました。」
そうか、そうか、そうルラン元帥は呟く。
「写真は?」
「抑えてますよ。」
「よし、これで作戦も通せる、そうすればあとはお前が留守の間に考えた作戦が成功する事を祈るだけだ………。」
攻勢は1月5日に開始された。
行け!!進め!!
兵士は叫ぶ。
「前進せよ!!」
「敵が来ました、戦車部隊です!!」
「わかった、事前の打ち合わせ通りに動け!!死ぬんじゃないぞ!!」
かしこから聞こえるエンジン音。
地響き。
兵士達は恐怖した。
放火や同軸機銃の音が聞こえ始める。
「敵歩兵部隊!小隊規模!!」
「蹴散らせぇ!!集中砲火!銃撃!」
サッターは防衛に回る敵部隊を力任せに突撃し、突き崩していく。
「塹壕も!機銃も!戦車の障害などならん!!構うな!進め!」
その声に鼓舞され、戦車部隊は更に攻勢の勢いを強める。
「ひたすらに強い………戦車群、士気の高揚、恐れ知らず、練度の素晴らしさ、単純な強さだけなら並ぶものはないだろう………だが、結局のところ力任せにやっているに過ぎない、足元はすくえる。」
自体はサッターが進撃を開始して70km目に差し掛かったところだった。
「………なんだ?突然敵が分厚くなってきやがった。」
目の前で隣の戦車が突如砲撃を受ける。
幸い貫通することは無かったが、サッターの不安はつのる。
「………なんか間違えたか?………いや、問題ない、問題はないんだ!!」
何してる!攻勢を弱めるな!そうサッターは部隊員に活を入れる。
戦いが更にヒートアップし始めた頃。
突破口はサッターが開くが、その穴を埋める必要がある、空いたままでは敵を閉じ込める牢屋は完成しない。
「………たく、サッターは行進が早すぎる、お前ら、できるだけ急ぐんだ!」
はい!という威勢のいい声が上がる。
その穴を埋めるのがA軍集団所属A軍であり、指揮官は変わらずドナル・フォンハンゼンが務めていた。
だが、急いでも急いでも差は開くばかりだった、そして、いつしかその空白地帯は10km
にも及んだ。
ドナルはその事を危惧したが、軍隊は瞬間移動して即座に展開なんて都合良くはできない、多少隙間が空いていても戦車に蹴散らされた後では何もまいだろう。
そう考え何も言うことはしなかった。
だが、事前に準備されていたら話は違う。
このとき、すでに後方に待機していた神聖帝国軍8師団が、その隙間に目をつけ、進軍を開始していたのだ………。
「フッ、連中は自分の作戦がコチラに筒抜けで、もうすでに対抗作戦も進行し始めているのを知らないようだ………。」
そう複数の師団を束ねる将軍はほくそ笑む。
「ルラン元帥の作戦………それは、包囲しようと突出した部隊を逆包囲してしまう、というものだ、お前らなぞはミイラを探して自分をミイラにしてしまうのがオチなのだよ………行ったところで、聞こえはしないがな。」
「………!!?なんだアレは!?」
少しずつ進んでいくA軍の歩兵部隊は、決しているはずのない敵の神聖帝国軍を発見したのであった。
それは前線の空白を見逃さず、間髪入れず間に割り込んだ8個師団の1個小隊であった。
「………くそっ、戦車隊は怠けてたのか!もういい、とにかく交戦する!!」
「何っ、俺たちが相当した筈の場所に敵軍がいる!?」
「はい!」
だが、まずいぞ、そうサッターは呟く、なにせこれは主力であるA軍と一時的に分断された事を意味するからだ、彼らは孤島に取り残されたに等しい。
前線でも変化が起こっていた。
「………!バカな!敵が前進して来たぞ!」
「俺達に突っ込む気か!?」
次の瞬間、前線で戦っていた戦車が一両爆発する。
それは対戦車砲の射撃を受けた為であった。
「くそっ、どうするんだ!!」
「分からん!サッター将軍の指示を待つしかあるまい!!」
だが、そうする間にも、1両、2両と撃破され始め、被害は増え続けた。
「前線で進軍が停止………いや、むしろ押されているとの情報が!!」
「バカな!戦車を500両かき集めたんだぞ!そんな事が………。」
サッターはひとまず報告を聞いてやる事にした。
まず、大量の砲兵が後方から濃密な砲撃を繰り返しており、突破しようにも歩兵が粘り強く足どめを行いそれができない。
歩兵は、戦車に対し火力、機動力、防御力全てで劣っている、しかし、一点だけ勝っているとするならば粘り強さだ。
防御力とは違うのか、そう思われるかも知れないが、これをゲームに例えるなら防御力は紙だがHPが高い状態………それが1番近いだろう。
戦車は貴重品で、撃破されたら換えがきかない、だが歩兵はどうか、このような言い方はなんだがいくら死んでも換えがいくらでもきく、だから非常に粘り強い抵抗を行えるのだ。
それに都市部や森林等では建物に隠れたり砲撃の避難場所にしたりできる、そうなった歩兵は内部に歩兵を突入させないかぎり迅速な制圧は難しい。
まとまった数と装備があれば、歩兵ほど粘り強い兵科はないのだ。
それに、砲兵もそうだ、装甲もキャタピラもありはしないが、火力だけなら戦車を凌ぐ。
なぜなら戦車は車両に砲を乗せる以上制限が厳しいが、ただの砲兵ならば無秩序にでかい
ものを使えるため火力ではまるでお話にならない。
「くそ………まあいい、反省するなら帰ってからやるさ、今は生きて帰る、この戦いを次につなぐ!!」
そう意気込む彼だが、まだ彼はこの先さらなる苦難が待ち受けているのを知らない………。
その苦難は、今日も今日とて帝国軍を蹂躙していた。
「さあて、仕事だ仕事。」
「くそっ!撃てっ!撃てっ!」
機関銃の銃火が轟音となって鳴り響く。
「効かないね!!」
そこから放たれる銃弾は倒すべき相手を目前にして半透明のシールドに阻まれ、地面に落ちていく。
「こちら歩兵中隊!Sランクとおぼしき人間と交戦中!繰り返す!Sランクと交戦中!!」
ジュリアンはこの時点で3個歩兵中隊を潰し、50門もの火砲、10両の戦車を撃破していた。
Aランクの人間でもこれくらいはできなくもないが、この時点で魔力が欠乏し撤退をするところである、しかしジュリアンは未だに欠乏のケの字も見えない。
「まぁ、一応一兵卒の身で准将待遇で飯食わせて貰ってますからね、これくらいはやらせてもらいますよ。」
ジュリアンは首をコキコキ鳴らして帝国軍に突撃し、それを見た兵士の顔が青ざめた。
その時!
「………うーん?これは、あの戦車隊が動き始めたかな、どうやら引き返すようだな、無難な選択だとは思うけど、だからこそこの包囲をする8師団に元帥は私を混ぜたんだよなぁ………。」
あっちに行ったほうがいいだろう、そう思いジュリアンはワープを繰り出し引き返す戦車隊を迎撃に向かう。
「まだ間に合う!敵はこちらを分断しているが、逆に敵に挟まれている状態でもある!ここで俺達が引き返し、勝敗が決する前に挟み撃ちにしてしまえば勝機はある!!」
サッターのいう事は間違っていない。
今回敵は逆包囲の際に攻撃に参加する軍すべてを包囲するのではなく、先遣隊であるサッターの戦車隊に絞って包囲した。
しかし、それにより包囲の輪からはみ出た形となったA軍がサッターと協力して包囲を破る事ができるのである。
しかし。
目の前で突如巨大な爆発が起こる。
「な、なんだアレは………!!」
全ての兵士が呆然とする中、サッターが我に返って無線上で点呼をかける。
だが、ある大隊から応答がいつまで経っても帰ってこない。
「………まさか、あれでやられたのか………?」
爆発半径、100m、核爆弾に匹敵する極大魔法であった。
その大隊には50両の戦車が在籍していた、大隊長から応答がない以上、それらが全て吹き飛んだ可能性すらあった。
本来なら救援を出すべきだが、あそこに兵を進めるなと本能が騒ぎ立てる。
だが、サッターは遂にあのクレーターの方向にルートをかえ、撤退しながら残存兵の救助に向かう事を決定する。
それが地獄への門である事も知らずに。
吹き飛ぶ、吹き飛ぶ!!
煙があたりに充満し、マトモに前も見る事ができない。
爆発は3発。
「くそっ、分かってはいたが、Sランクか!」
そうぼやくサッター。
「撃てっ!撃てっ!逃げるな!抵抗を続けろ!奴も人間だ!必ず限界が来る!それまで粘ればこちらの勝ちだ!!」
戦いはこうして幕を降ろされた。
煙が晴れると、そこには………竜が立っていた。
半透明で、ぼんやりと光っており、その中央には男が一人、まるで獣のような体制で周囲を睨みつけている。
ダッと男が走る、その動きに合わせ竜の動きも連動する。
戦車砲が火を吹き、地面が吹き飛び、それは当然男にも当たる。
しかしそれはうすぼんやりとみえる竜の体表に防がれる。
「戦車砲で傷がつかない………やつの防御は最上級魔法クラスか………!!」
男は神速の速さであっちへこっちへ飛んでいき、戦車に飛びかかる。
薄く見える竜が腕を触れば戦車は粉砕され、ブレスを吐けば溶けていく。
戦いは一方的なものだった。
サッターはこの時点で抵抗を諦め、とにかくA軍との合流を最優先する。
しかし。
(………!!見ている!こっちを………!!)
サッターも流石に青ざめた。
その男は、確かにこちらを見ていた。
笑いながら。
そしてそれはこちらへ走り出した………!!
「ご無事ですか、サッター中将!!」
そういって駆け寄ってくる。
記憶がない。
指揮車は横転し、砲塔の上で周囲を見ていた自分は飛ばされていた。
男の部隊証を見る。
「Aランク魔導大隊………。」
「はい、ドナル大将が、我々をあなたの救出にと。」
済まない、そういって立ち上がる。
「とにかく移動します、ワームホールをつくり、安全圏へ避難しましょう。」
「バカな、部下を置いて一人で逃げるなど………できない!ここまでしておいて、今更そんな事を誰か許そうか……!!」
「いえ、あなたの部下は助かります、あちらを見てください。」
見ればA軍の部隊が展開し始めているのが見える。
「さあ、避難を。」
こうして南部包囲戦は終わった。
損害
帝国側
死者 5万人
戦車150両
火砲300門
神聖側
死者 2万人
戦車 30両
火砲 10両
その後
包囲こそ逃げられたもののこの戦いでルラン元帥の対応などが評価され、神聖帝国で一躍英雄の一人となった。
そしてジュリアン准将も最終的に歩兵大隊2個、戦車70両、火砲80門を撃破しており帝国ではさらなる恐怖の象徴となる。
この戦いの責任をどうするか、帝国内では活発に議論が行われ、最終的にサッターはジュリアンにより作戦がバレバレだったことなど同情の余地があるとされ、一階級降格処分となった。
ホランシュタイン准将もあやうく首を切られるところだったがなんとか鉄竜の火作戦の功績のおかげで皮一枚繋がった。
そうして南部は以前神聖帝国軍の優位で進むが、やがて激戦となった山脈の戦いへと突入して、拮抗する事となる。




