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Sランク

奇妙な車があった。

戦争の色で塗られた車両群、その中に真っ黒に塗られた黒い高級車。

基本よほどの荒れ地でないかぎり、将官はこのような高級車で前線まで移動するのが常である。

最も、中に乗っている人間は准将、ぎりぎりではあるが、佐官の人間だ。

にも関わらずこのような事が許されるのは彼が数少ないSランクの人間だからだ。



「今日から戦闘に参加させてもらう、ジュリアン・マッケンジー准将だ、よろしくな。」

「「「は、ハァっ!!?」」」

兵士達が驚くのも無理はない、そこは薄汚い塹壕で、その男ときたら、極々普通の神聖帝国軍の一般兵のなりでやってきたのだ。

「冗談だろ?准将だったら今頃後方で紅茶でも飲んでるだろうが。」

そう一人がもっともな言い分で聞くと。

「ほら、この軍隊手帳にも准将って書いてある。」

そうヒラヒラさせる。

「………確かに准将だ。」

「冗談でしょう!!だって、そんな………あり得ない!!」

「別に?空軍の人間は少佐になってもイチ戦闘機乗りとして戦っているそうじゃないか、私だってそうだよ。」

「いや空軍はそうだが………大尉以上の人間が陸軍で一兵卒として戦った話はない!!本当に、何なんだ貴様!!」

そんなこと言われてもなぁ………と頭をひねっている男、ジュリアン。

ドォン!!

「………!?敵襲!!敵襲!!」

「仕事か仕事、じゃあ言ってくるよ。」

「いや、何言って………馬鹿野郎、塹壕から出る………。」

ガアアアアン!!! 

直後、こちらに飛んできた戦車砲が何かに弾かれる。

「フフフ………いやぁ、このところ後方勤務が続いたからなぁ、やっと前線で暴れられるよ。」

次の瞬間にはジュリアンはかき消え、遠くの戦車が爆発四散した………。



神聖帝国はクロウシュタット帝国軍の北部の

快進撃にも動じず、手薄となった南部にて攻勢を開始、着々と進撃しつつあった。

「ルラン元帥、良いのでしょうか?」

何がだ、そう男は部下に返す。

「北部は無視して、南部を攻勢するなど………。」

「今は構わん、どうせ北部に行ったところでもう遅い、チャールズは敵の手に落ち再攻略には数カ月かかるだろう、今は相手の隙をつけるだけついとくべきだ。」

「………わかりました、そのように。」

そう言って部下は去っていく。

神聖帝国第3軍集団総司令ルラン・マッカートニー元帥である。

「元帥、きましたよっ!!」

そう言って勢いよく扉を開けるのはジュリアン准将だ。

「久しぶりの前線勤務はいいもんですな、兵士はやはり前線で武功を積んでなんぼですな!」

「それは後方勤務で出世した私に対する皮肉かね?」

「とんでもない!!」

普通は元帥に対してこのように話していたら処罰すらあるが、ジュリアンは普通ではない、階級は流石に一度も軍の指揮をとっていない人間に将官はさせられないと言うことで准将だが、中将にする話すら出ている、いくら機械で魔法でできることは代替できるようになったとはいえ、未だに人外のSランクの武力は圧倒的なのだ。

「ところで、なんのようで自分をここに読んだのですか?」

「ああ………それなんだが、これを見てほしい。」

「僕にこんな高等な作戦計画見せられても理解できませんよ。」

はぁ………そうルラン元帥はため息をつく。

「私が予測している敵の作戦行動だ、偵察結果と、前回の防衛戦の推移、そこから算出してみた、クロウシュタットと我々の国境線はもともと南部は我々が、北部はクロウシュタットが突出する形だったが、今回の北部と南部それぞれ攻勢したせいで更にそれは顕著になっている、正直なところ、いつ包囲殲滅作戦が起こってもおかしくない、包囲殲滅は古来より突出したものを叩くものだからな。」

そして、と元帥は続ける。

「連中の戦車を使った機動戦、間違いない、次は必ず包囲殲滅を仕掛けてくる、無論側面の防御は更に固めているが、前のように戦車の集中投入されたら、耐えられるかはわからない。」

「で、どうすればいいんですか?」

ちなみにジュリアンはここまでの話についていけていない。

「自分は包囲殲滅で次は来ると思うが、他の諸将を納得させるには確信的な証拠が必要だ、それをお前に探ってもらいたい。」

「それ、俺じゃなきゃだめですか?」

「もう1個偵察小隊を送ったが、全滅した、敵のAランク魔導大隊によるものだろう。」

Aランク魔導大隊。

それは、1000人のAランク軍人によって構成された部隊だ、豪華な装飾をつけた中世さながらの鎧に身を包み、銃も携帯しないものが大半だが、一人一人が城壁に穴をあけ、戦車砲を弾く上級魔法の使い手であり、人外の部隊である。

現在クロウシュタットと神聖帝国でそれぞれ3大隊ある。

「とんでもないのを出してきましたね、奴らが相手じゃそりゃあ剣も銃も、戦車も飛行機も出やしません。」

「そういうむちゃを任せられるのがお前じゃないかぁ。」

「いや、無論やりますよ、自分もかなり難しい話ですがね、やってやれん事はない。」

よろしく頼む、そう言ってルラン元帥は頭を下げた。



偵察はすぐに行われた。

ジュリアンは前線近くまで車で送り届けられ、支給品を受け取る。

「鎧はいいよ、バレやすくなる、ほんじゃあ言ってくるよ。」

サッとワープ魔法を行使して、適当なところにワープする。

それは数km先の地点に出て、いま小競り合いの起こる地域は抜けていた。



「………へええ、こんなにたくさんの火砲は初めて見たよ、それに戦車も、流石は流石、クロウシュタットってところだなぁ。」

神聖帝国はまだまだ動員が間に合っていないがクロウシュタットは人工1億3000万に対して神聖帝国は5億人である。

当然徴兵できる人数も桁違いで神聖帝国は最大で2000万は動員できる。

クロウシュタットはどう頑張っても700万人ほどである。

だが、クロウシュタットはかのラグナロクで

アラガメシュ神国と同盟したときかなりの技術提供、経済支援をうけ、軍事技術や工業技術は急発展を見せた。

神聖帝国もそれに追いつこうとしているが技術も生産も間に合っていないのが現状である。

「まぁ、国力の差はとてつもなく開いてるんだけどね。」

神聖帝国は本土に限ればクロウシュタットと同等ではある、しかし神聖帝国は様々な場所を領土として所有している。

例えば火神国の東側の沿岸は神聖帝国がラグナロクのさいに併合されているし、クロウシュタットの西にバールズ連合があり、そのさらに西が神聖帝国の領土になっている、バールズ連合のおかげでそちらから攻められる事はないが。

神聖帝国の兵力が現在少ないのもこうした海外領土の防衛に兵力を割いており本土にあまり兵を避けなかったことに起因する………。



「なんだい、アイアンアーミーズは南のB軍集団に編入じゃないんかい?」

「編入は編入なのですが、南部ではなく、北部の側面に向かってほしいと。」

ここはデレップス要塞の砲撃を免れ、比較的損傷の少ない防衛本部の庁舎の一室である。

鉄竜の火作戦で使われた戦車500両の臨時戦車隊はこの度特例でアイアンアーミーズという正式部隊となり、指揮官は引き続きサッター・クルルト中将が務めていた。

「………包囲殲滅ねぇ、ホランシュタインのやつこういうの大好きだよなぁ、それに、1個軍団全部包囲するのかい、たまげたなぁ………で、その包囲陣の先駆けをやるのが俺か。」

「はい、ホランシュタイン准将含め参謀部はその機動力を使いいち早く包囲を完成させてほしいそうです。」

そうかそうかとサッターは呟く。

「だがこっちも大所帯でね、準備には時間がかかる、ちょっくら待ってもらうよ、安心しな、こっちは神速の戦車乗りだ、何も問題はねえ。」



「………うーん、特に珍しい事はないなぁ、よくある火神国の影響を受けた軍隊の様相だなあ、歩兵中心ではなく、砲兵や戦車を中心に戦う軍、神聖帝国よりかは多いが、あっちからしたら普通なんだろうな。」

そう言って偵察を続けるジュリアン准将は真っ暗な洞窟の中にいた。

こんなところでいったい何をしているのか、彼は探知魔法をつかい一切姿を晒すことなく偵察をしているのだ、Sランクの彼の探知魔法ならば、半径10kmは正確に見る事ができる。

「………いまのところ、虎の子のAランク魔導大隊に見つかった雰囲気はないな、まぁ、用心はしてるからなぁ、ただし、腐ってもプロ、長くは持たないだろうな………。」

Aランクレベルの魔法を使えるの言うのは想像以上に応用がきく。

現に偵察専門でもないのにジュリアンは探知魔法で偵察をこなしているし、無論それよりかは劣るがAランクの魔法使いは大体のことを一人でできる、単純な戦闘から、建設作業まで何から何まで………。

「見つけた。」

そう突然静かな洞窟に声が響く。

「あれ、やはりここまで近づかれるとバレてしまうか………。」

「それでも半径10m程度のものですよ、なんとなく目星をつけるくらいはできましたが、当てもなくシラミつぶしに探し、やっと見つけた、ええ?『笑う破壊神』さん?」

男は洞窟の入り口の道に立ち塞がるように立っていた。

そして、その奥からドンドン兵士が走ってくる音が聞こえてくる。

「………増援も呼ばれたか、こりゃお手上げだな?」

「そんな風には見えませんがねぇ………?」

唐突に手を上げるジュリアン。

その手をパチンと鳴らし、男はその様子を訝しむ。

次の瞬間。

洞窟は。

獄炎の炎に包まれた。

その炎は狭い洞窟にあっという間に充満して、壁をジリジリ焼く。

焼くどころではない、ドロドロに溶け始めている。

「スクラムシールド全開!!耐え忍べ!」

だが、その炎はすぐに消え去り、あとには数人の男が構築したシールドだけが残る。

「………ワープか、だが、私がお前を見つけられなかったのは何重にも設置された魔力隠蔽の術式が原因、それ無しで隠れられると思うなよ………。」

即座に男もジュリアンの逃げた場所に目星をつけ、その場に通じるワームホールを作り出す。

「入れ!!」

そう言うと部下の男がそこに入り、最後に男が通っていく。



「………フフ、生きてるか?生きてるんだろうなぁ………。」

そう言って木陰に隠れながら笑う。

そこを急に爆発が、それもとてつもなく大きなものが襲う。

「くそっ!!」

それを避けると、平らな地面、その端にさっきの男達が立っている。

炎。

さっきジュリアンが使ったものと同じだ。

「あてつけかよっ!!」

それをジュリアンは極太の水のレーザーで相殺する。

「埒が明かない!!」

彼をしてAランク複数は瞬殺とはいかない、それも騒ぎが大きくなれば更に増える。

「こんなに命がけな任務は久しぶりだ!」

ジュリアンは切り札を切る。

「いでよ『神竜装』!!」

そう一言言うと、変化はたちまち起こる。

ジュリアンの周囲は輝き始め、やがて輪郭が浮かび上がる。

ジュリアンは姿勢を極端に低くした構えをとる。

それは竜のシルエットを描いていた。

「なんだあれはっ!!」

「見たことがないぞ………!!」

そう驚くなか、指揮官らしき男だけはまるで動じることがない。

「そうきましたか………!!」

掃射せよ!!

そう言うと男たちはひとまず冷静になり各々魔法を撃つ。

しかし。

それはジュリアンに当たる前に周りにうっすらと浮かび上がる竜にぶつかって止まった。

「やはり実体か!」

「幻出すわきゃねえだろ!!」

そう言って走り出すジュリアン。

ジュリアンの動きに合わせて竜の

神竜装とは、かつてクロウシュタットの初代皇帝が巨大な狼に変じたような強力な魔物には変身する能力をなんとか再現しようとときの魔法使いが苦心の末に編み出したものである。

体が変形するわけではないが周囲に竜の鎧を作り出す魔法である。

これは最上位魔法と同等の防御を誇り、しかも再生までする、体を動かすこともでき爪や尻尾で薙ぎ払ったり、ブレスを吐くこともできる。

しかし機能を詰め込みすぎて、魔力消費は全く見合わないものになってしまったが、単純な性能だけならトップクラスの魔法となった。

あらゆる魔法を弾く、弾く、いや、傷はつくが即座に回復してしまう。

「我々がやったとしても1分持てばいい方だというのに………!」

「そりゃご愁傷様!!」

そのまま速度は神速の域に達し、男を一人刈り取った。

それは宙を待って吹き飛ぶ、なんとか生きてはいるが、すでに戦闘不可能であり、隣にできたワームホールの中に消えていく。

「……!!くそっ、まさかやられるというのか………!!私が!!」

「次はてめえの番だ!!」

彼は、再び突進し、指揮官の男を刈り取ろうとしてー



「………ちっ!邪魔が入ったか!!」

それは最上位のシールドでギリギリで防がれる、かなり欠けてはいるが貫くまでには至らない。

見れば空を何人もの魔法使いが飛んでいる。

「コイツらもお仲間かい………そんじゃあ!」

ジュリアンは次の瞬間消えた。

「………!………だめだ、分からない、くそっ、いつでもワープで逃げれたではないか!!」

そう悪態をつくと、探せ、と周囲に指揮官の男は号令をかけた。




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