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魔神の使徒  作者: 人生万事塞翁が馬
二幕 外敵
35/49

海魔

魔神の使徒サイドです

 衛士たちの奮戦により最後の1体が倒れるのを見届け、ひとまずこの近辺の安全の確保ができた。

 当初出現した生物は10体、そのうち9体を鎮圧または討伐できた。1体が何処かへ行ってしまっているので、油断はできないが。ひとまず、この周囲は大丈夫だろう。


 金剛杵を宝物庫に戻す。

 衛士たちは連携して2体を討ち果たし、俺は獅子の亜人の姉弟を助けてから群衆を襲撃していた2体と衛士たちが交戦していた1体を気絶させた。

 その前に倒した謎の生物たちに関しても、起き上がる様子は無い。


 一方で、突然の襲来によりパニックとなったことで避難などの対応が遅れ、民間人と衛士たちに大きな被害が出ていた。特に生物たちが最初に出現したタボラス商会の商館前の通りは、戦争でも起きたかのような惨状である。



「そこの勇猛なる傭兵よ」



 まだ一体残っている。

 その創作をしようとしたところ、交戦していた衛士たちの指揮官が剣を鞘へと収めつつこちらへと近づきながら声をかけてきた。

 振り向くと、身長が2mはある虎人の衛士たちの指揮官は、俺に礼を言ってきた。



「助力の方、感謝致す。お主の活躍がなければ、被害はこれよりはるかに上をいっていたはずだ」



 物言いは居丈高だが、決して不遜なものではなく己の立場が高い地位にあることを誇りとしている口調である。

 人柄は実直なのだろう。


 とはいえ、まだ油断はできない。

 確実に1体以上はこの街にまだ残っている。

 衛士たちの指揮官に対し、首を横に振る。



「礼はまだ早い。あと1体以上の生物が残っている」



「何だと!? まだ残っているのか!」



 衛士たちの指揮官は10体出現したことを知らなかったらしく、まだ一体残っているという情報に目を見開いて驚いていた。

 群衆のパニックに紛れてその1体は行方をくらませたのだろう。衛士たちが駆けつけたときには既に9体という認識だったと思われる。


 虎人の指揮官は驚いたものの、対応を優先するべきだと切り替え、すぐさま隊列を組み直している配下たちの方に向き直り指示を出す。



「半数は避難誘導を、残る半数は直ちに街中を捜索せよ! 念のため、周囲の関所、砦より増援を呼ぶ。伝令を出せ!」



「「「はっ!!」」」



 指揮官の指令に従い、衛士たちが休む間も無く行動に移る。

 半分は3人一組となってフレイキュストに散り、残る一体の生物の捜索を行うようだ。

 残る半分は住民たちの避難誘導を行い、これ以上のパニックと負傷者の増大を防ぐために動く。


 部下に指示を出した隊長は、俺の方に向き直るとこちらが想定していたことを口にしてきた。



「傭兵や、かの海魔を倒すその力頼りにさせてもらうぞ。その腕、遊兵にするにはあまりに惜しい。捜索への参加だけでも無論報酬は出す」



 住民たちの生命を第一と考えているのだろう。

 拒否権など無いと言わんばかりの強い物言いだが、報酬も出すことを約束してくれているので決して高圧的では無い。

 もとより、俺もその腹づもりだ。雇ってくれるというならば、彼らと協力する方が効率的だろう。



「承知した」



「助かる。では、お主は我と共に動いてもらう。名も知らぬがそれを聞く間も惜しい事態だ、ついてこい」



 指揮官が先導する。

 俺にはフレイキュストに対する土地勘もないし、ひとりで行動するよう言われれば困るところだった。

 いっときの共闘関係といえど、一般人の生命を守るという目的は共通している。

 鎧に包まれた虎縞模様の毛並の大柄な体を追いかけ、俺も指揮官に続き捜索へと出て行った。

 ……モフりたい。



「あ、待って–––––行っちゃいましたか……?」



 そして、その背中に声をかけようとした受付嬢は置いていかれた。

 彼女の声は聞こえていたが、事態はまだ一刻を争う状況である。後ほど文句は受け付けるとしよう。


 衛士たちの指揮官である虎人と共にタボラス商会の商館前の通りから、フレイキュストの中心の方へと向かう。

 その途上、俺たちの向かう先から多くの一般人である亜人たちが必死の形相で走ってきた。



「む!?」



 指揮官が足を止める。

 しかしパニックになっているのか、一般人たちはそれを気にする余裕も無いと我先に走っている。

 それはまるで、何らかの脅威から逃げ惑うような姿だった。


 ……いや、事実そうなのだろう。

 フレイキュストの街中に、悲鳴が響き渡っている。

 ここだけでは無い。いかなヒトデ擬きといえども1体で起こせる規模では無い混乱がフレイキュスト各地にて起きていた。



「何が起きているというのだ……!?」



 指揮官も混乱している。

 しかし突っ立っていては群衆に踏み潰されるので、その腕を掴んで近場の建物の屋根へと飛び上がった。



「うお!?」



 驚く虎人を屋根の上で下ろす。

 高所から見渡すと、やはりというべきか最悪の事態になっているようだ。


 フレイキュストに少なく見積もっても100体はいるだろう生物たちが、白昼の街中を破壊していたのである。


 各地で捜索のために散った虎人の指揮官の部下やおそらく近場に駐留していたのだろう衛士たち、その他傭兵や商人の紙幣と思われるような者たちが各地に出現した生物と交戦している様子である。

 だが、それ以上に生物たちの数と強さがありその戦況は全体的に見て劣勢のようだ。

 さらに彼らの手の回らない場所では、街や民間人への被害がここから見える範囲でもかなりの規模で広がっているようである。



「何だと……これだけの規模の海魔が、いったいどこから湧いたというのだ!?」



 さすがにこの事態は予想外だったのか、虎人の指揮官が先ほどの乱暴な運搬も忘れて愕然としている。


 一方で、俺は指揮官の呼称が気になった。

 海魔……なるほど、ヒトデ擬きには言い得て妙だ。あの外見、海魔と称するのが確かにふさわしいだろう。


 しかし、彼も何かを知っているのだろうか。

 気になるところではあるが、今は被害の拡大を防ぐ事を優先するべきである。


 さすがにこの距離で金剛杵を投げつけるのは、届かないことは無いがあまりに危険だ。民間人にも被害を出す可能性が高い。


 地上に降りて制圧にかかる場合、街が入り組んでいるため疾駆の甲冑はおろか異世界人の疾走など使えるわけもなく、時間を要することになる。

 そうなれば、その分被害が拡大するし、この制圧できた通りにもよそから生物が来た場合に対処できなくなる。


 そうなると透過の能力を持つ長弓を使い海魔たちを仕留めていくのが一番被害の拡大を抑えられる選択だが、この場合は亜人たちへの誤射がなくとも別の問題が発生する。

 金剛杵と違い、矢は当たった海魔を撃ち抜くのだ。つまり体液を撒き散らすリスクがあるということ。


 衛士や傭兵たちは海魔相手に剣や槍を持ち出して遠慮なく傷つけているが、だからと言ってそういうリスクがあることを知っている俺がやっていいわけでは無いだろう。

 念のため、海魔について知っていそうな虎人の指揮官に尋ねてみる。



「衛士長殿、あの海魔の体液は疫病を流行らせる類だろうか? 無害ならばここから矢で狙う」



「我輩は邪神族の研究者ではない、そんなことは知らんわ! だが、狙えるならば討ち倒せ!」



 虎人の指揮官の返事は、リスクがあり得るものだった。


 だめだ。俺の矢は海魔の肉体を打ち砕く威力を持っている。切りつけて体液をこぼすならばわまだしも、骸の破片ごとあたり一面にばらまくのは危険すぎる。


 却下だ。長弓は使えない。

 首を横に振る。



「海魔を駆逐しようと、疫病を流行らせるようなことがあれば何れにせよ街を滅ぼすことになる。悪いがその危険があるならば矢を使うことはできない」



「なっ!? 正気か貴様!」



 惨劇を止めたいのは俺も同意見だが、害獣の殲滅というのは目の前に映るそれだけを駆除すれば良いというほど単純なことでは無い。

 特撮映画でよく見るどのような生態をしているのか分からない未知の怪獣たちをとりあえず爆破しようと試みる防衛軍の者たちと同じにしないでほしい。


 しかし、そういう考えが無いらしい虎人の指揮官は、とにかく街の防衛を優先するために冷静さに欠いた怒鳴り声を上げる。



「ふざけるな! 貴様、この惨状を見て何とも思わんのか! 早く殲滅しなければ、フレイキュストが海魔どもの手に落ちることになるのだぞ!」



 こちらに掴みかかり、街を示して怒鳴り散らす。

 確かに、わからないからと何もせずにいるよりは生物たちに対して攻撃を行い少しでも事態の改善を図る方が良いかもしれない。


 ……せめて金剛杵のような鎮圧に向いている物を矢にできれば良いのだが。



「……待てよ」



 そう思った時、閃いた。

 電撃とは違うが、生物を鎮圧するのに適した手段ならば他にもある。


 金剛杵を宝物庫にしまい、代わりに狙撃銃を宝物庫より取り出す。

 これも魔神の宝物の1つで、魔力を込めるだけで銃に込められた術式から錬金魔法を発動し、あらかじめ術式として組み込まれた幾つかの弾丸から選択したものを創造し使用できるという弾丸の補充が魔力ある限り自由に無限に行えるというものである。

 スコープが付いており、異世界人の強化された視力に加えてかなり先の距離の対象まで弾を届かせることができる優れた性能を持つ銃だ。


 そしてこの狙撃銃の術式には、麻酔弾が組み込まれている。

 雷撃とは違うが、海魔を撃ち抜かずに制圧できる手段の1つのはずだ。



「銃だと!? まさか、魔族なのか!?」



 俺が銃を取り出したことに、虎人の指揮官が驚く。そういえば、人間が扱う属性魔法と違い、錬金魔法を扱う魔族は銃を既に持っている。数こそまだ少ないが、銃は他種族から見れば魔族の武器の象徴のような存在なのだろう。

 先ほどから驚いたり怒鳴ったりと忙しない様子だ。

 今は説明している間も惜しいので、そのまま銃を構える。


 魔力を込め、錬金魔法を発動。麻酔弾を生成し、狙いを海魔に定めて撃った。


 矢と違い建物や民間人をすり抜けることはできない。

 だが、そこは狙撃銃。スコープが付いていることもあり、狙いを正確にすることは弓矢よりもはるかに簡単である。狙いに集中すれば誤射は避けられるはずだ。


 直撃した海魔が倒れこむ。

 即効性が高い分誤射すればかなり危険な麻酔だ。しかしその代わり威力は高く、巨体の海魔もかなりの速さで効果が出てくれる。



「何という腕か……」



 先ほどまで怒鳴り散らしていた虎人の指揮官も、直撃した海魔が倒れたことに、彼我の距離から狙撃銃の性能……俺の腕に息を飲んでいる様子だ。

 弓矢に比べると銃は不得手な方なのだが。俺の腕というよりも、銃の性能によるところが大きい。


 麻酔が効いたとなれば、鎮圧もできる。

 魔力を込め、次弾を装填する。

 そして狙いを定め引き金を引こうとした時。



「–––––––おいおい、調子に乗りすぎだよ魔神の(イヌ)さんよ」



 この戦場とかした街に似合わない、何とも軽い口調の、しかし苛立ちの込められた声がどこからともなく聞こえてきて……直後に強烈な敵意が俺に向けられてきた。



「–––––––ッ!?」



 それに反応してしまい、反射的に銃口を敵意の元凶に向ける。

 だが、そこにいたのは虎人の指揮官のみ。

 しまったという時にはもう既に遅く、彼に向かって麻酔弾を発砲してしまった。



「がっ!?」



 撃たれた虎人の指揮官は、驚愕と困惑に彩られた表情を浮かべながら、身体から力が抜けて踏ん張りが利かなくなり屋根から滑り落ちる。

 その手を掴もうとしたところに、いつの間にか上に移動していた敵意の元凶から俺の背中へ向けて今度は殺気が放たれてきた。



「ッ!」



 咄嗟に、魔神の宝物庫を開き背後に迫る殺気に向けて複数の武器を発射する。

 虎人の指揮官の手も(すんで)のところで掴み取ることに成功した。


 殺気の主は魔神の宝物の投擲に怯んだせいか、一瞬隙ができる。

 その間に屋根から飛び降り、虎人の指揮官を抱えつつ着地した。


 殺気の主を見上げる。



「おーおー、サルみてえな動きだなおい。ならイヌ呼ばわりは撤回しようか。なあ、魔神の(サル)さんよ」



 どういう理屈でその軽薄な声を出しているのか。

 そこには、いつの間にか黄金のスライムが浮遊していた。

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