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凛子さんと狼くん  作者: 太郎
知ってしまった関係性
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33/37

温もり

 

 泣いた。涙腺崩壊したんじゃないかってくらい泣いた。けど、今回の涙は嬉し涙で流しても流しても悲しみはやってこなかった。


「狼くん」

「何?凛子さん」


 狼くんが私を抱き締める力が強くなった。ぎゅーっと音をたてて、私の肩が壊れてしまいそう。


「ずっと長い間、ここにいたねー」

「そうだな」

「もうそろクラスに戻らないと皆に迷惑かけちゃうね」

「でも、帰りたくない。こうしてたい」


 と、優しく撫でる狼くん。あまりにも積極的すぎて照れてしまう。熱い、あつい。


「もう、甘えん坊さんなんだから」


 軽くあしらうフリしながら、顔の赤さを誤魔化した。


「ちっ」

「舌打ちは受け付けませんー」


 するりと狼くんの腕の中を抜けて、多目的室の扉の前で狼くんを見た。私の前に狼くんがいる。当たり前のことに嬉しくなる。


「一緒に回る?」


 狼くんは私の言葉に小さく頷いた。



 ☆ ☆



「楽しかった?」


 私たちの教室に向かって歩く狼くんの顔を覗くと、狼くんは軽く口角を上げた。そこそこに楽しかったのだろう。


「楽しくもなくもなくもない」

「楽しかったんだねー」


 ずばっと切ると、狼くんが睨んでいることに気がついたけど、私は気づかないフリを通した。

 だって、狼くんは実際楽しんでいたもの。

 フランクフルトを食べて、催し物を見て、射的をして、可愛い狼の人形を当てて、苦笑いを浮かべていたけど、楽しそうに見えた。


「凛子さんは?」

「ん?私はね、勿論楽しかったよ。狼くんと回れたからね」

「……おう。俺もだ」

「ん?何て言ったの?」


 わざとらしく聞いてみれば、狼くんがじとっと睨んできた。最近睨まれていることが多い気がする。


「もう、言ってやんねー」

「うわー。そんなこと言わないでよ。あと、歩くの速いってばー」

「それは、わざとだ」

「ううっ。私の足が短くって狼くんの足が長いことを知っているのかっ!酷いぞ!」

「違う。凛子さんがチビだからだ。凛子さんの身長とかもろもろ考えたら足は短くはない」

「褒められているのか、貶されているのか……」

「褒めてる……多分」

「多分は要りません」


 ぎゅっと狼くんの横腹をつつくと、狼くんは顔をしかめた。本当でしかないのに、と呟いていた。


「あれ、凛子。おかえりー」


 突然、聞こえた声が加奈だと分かったのは数秒後。エプロンを着ながら、私に手を振っていた。


「ごめんねー、長く空けてて。大丈夫だった?」

「ん。大丈夫よ。あんたが考えてくれたレシピがあるからね。なんとかなるわ」

「なら良かった。迷惑かけてたらどうしようかと思ってたの」

「迷惑かけてないわよ。どちらかというと、今私の方が迷惑かけてるかも。ほら」


 加奈が私の後ろに向かって指差した。すると、眉間にシワを寄せながら早く終わらせろオーラを漂わせる狼くんが。


「こら、狼くん。ちゃんとしなさい」

「……ちっ」


 軽くたしなめると、狼くんは私の制服の裾を掴んで一歩後ろに下がった。


「なんか、変わったわね。何かあったの?」


 加奈が私の耳元で囁くように聞いた。心当たりがありすぎて、思わず口が震えた。


「な、何が?」

「距離が近いというか、何というか。……とにかく、なんか良い変化があった感じがする。ビンゴでしょ?」


 返事はしなかった。出来なかった、のに自然と顔が赤くなったのが返事となった。


「ふふーん。私は応援するけどー?」

「なっ!応援ってなにさー」

「それは、自分の胸に聞いてみなさいよ」


 それか、生瀬くんの胸にでも聞いてみる?と憎たらしい笑顔で加奈は言った。幸い、狼くんに聞こえるような声の大きさではなかった。

 加奈は最後に「そう言えば、私達のクラスの発表もう少しで始まるみたいよ。二人で行ってくれば?代表なんだし」と、半強制的に背中を押した。



「発表って体育館だよね?」


 狼くんを見ると、モゴモゴ口を動かしていた。言いたいことを吟味しているみたいな不思議な動作。


「あー、さっき、何話してた?」

「そんなこと気になるの?男の子なんだから、気にしない。気にしない」

「じゃあ、俺今から男を止める」

「たったあれだけのことで男を止めるの!?ってことは、狼くんが狼ちゃん?……良いかも」

「良くねーよ。図体があり得ないだろ」

「はっ、確かに。こんな大きな女の子は怖いねー」

「で、本題忘れてないか?」

「ん?なんのこと?」

「っち。すり替えやがって」

「最近、狼くんは口が悪いよ。もっと柔らかい口調で!」

「どうでも良いよ。凛子さん以外の奴なんて」


 ぷいっ、と頬を膨らませながら狼くんは先に歩いてしまった。狼くんが先を歩くと私の歩調に合わせてくれないから大変なのよ、とぶつぶつ文句を言えば振り返ってゆっくり歩いてくれた。


「今回だけだからな」

「ん!」


 そう言いながらも次も狼くんはゆっくり歩いてくれるのだろう。優しいから。

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