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凛子さんと狼くん  作者: 太郎
学級代表の関係性
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宿泊研修当日②

 

 しばらくしてふれあいコーナーのウサギから離れ、私達の班は動物園を見て回っていた。


「ふぉわぁぁぁ!!こっちには羊さんがいる!」

「……凛子さん。どうして動物を見るとヨダレを垂らすのさ」

「凛子、煩い」

「……ごめんなさい」


 (ろう)くんと加奈に一蹴されて私は謝った。うーん。私は可愛いものがいるとヨダレが垂れる習性があるのかな?

 ウサギも可愛いし羊も可愛いからヨダレが出てしまう。あ、これは反射ってことなのか!脊髄反射。だから、出ても仕方がない。


「凛子さん、そんなところで止まっていると置いてかれるよ」

「ふぉあっ。気づいてなかった!」


 ぼーっと考え事をしていたせいで皆から一歩遅れたところで立ち止まっていた。皆はそれに気付かず歩いているが、狼くんだけは振り返って私を見ていた。


「奇声発しすぎ」

「そうかな?」

「……そうだよ。凛子さんは一応性別は女性なんだから奇声を発すると恥ずかしいよ」

「い、一応……?」

「ほら行くよ」


 狼くんは私を置いてすたすたと歩き出してしまっていた。


「ちょ、置いてかないでよー」


 歩幅の違いすぎる狼くんに追い付くには私は走るしかなくて、前も確認しないでひたすらに走った。

 すると─どすん、と人にぶつかってしまった。かろうじて分かるのは香るシャンプーの匂いと柔らかさから女性だってことだけ。


「ごめんなさっ……」


 その人は私よりも大きな身長だったから顔を覗くように上を見ると、そこにいたのは学年代表さんだった。

 ひくひくと眉を動かしながら私のことを睨んでいる。けれどもそんな表情すら美しい。(深い意味はなく)


「ちゃんと学級代表勤めているんですの?」

「びっくりし、た」

「びっくりしたではないのですよ?ガキの様にパタパタと走って、その上人に衝突しておいてびっくりしただなんて私を馬鹿にしているのですか!?」

「ぅう……すいません」


 今にも噛みつく様な迫力で私を怒る学年代表さんは酷い剣幕でとても怖かった。そう言えばどことなくパンフレットに載っていたミーアキャットに似ているな、なんて言ったら更に怒り出すと分かったから自粛。


「だいたい何でここにいるのです?」

「え、班行動だからですよ。そういえば学年代表さんはどうしてここにいるのです?班行動じゃ?」

「うっ!!違うのです!私からあの人達がいなくなったと言うか……勝手に消えたと言うか、つまりっ、そう言うことなのですよっ!!」


 学年代表さんは顔を赤くして飛び跳ねた。何かを隠しているみたいにパタパタと顔を扇いで誤魔化そうとするが、少し分かってしまった。


「もしかして、はぐれたんですか?」

「違うわよ……」

「なら、私達の班と一緒に回りましょ!」


 ぎゅっと手を取って、私の班のメンバーの元へ無理矢理連れていく。途中で彼女は私の手を振り回したりと抵抗していたけど、終いには大人しくなった。


「ねえ、学年代表さんがはぐれちゃったみたいで一緒に回っても大丈夫?」

「は、はぐれたんじゃ……!」


 慌てる学年代表の言葉を遮るかの様に加奈が言った。そして、他の班員(狼くん除いて)も賛成の意を示す。


「うん、良いわよ」

「良いと思います」

「……むむ」


 皆、良い答えを出してくれたけど狼くんだけは顔をしかめていた。だけど、狼くんのことは無視して学年代表と手を繋いで一緒に移動することにした。



 自由時間は終了して、学年代表さんは彼女の班に帰っていった。帰る時はモジモジと恥ずかしそうにしていたからもしかしたらと思って、「トイレはあちらですよ」と言ったら怒られた。散々罵倒された。でも、照れ隠しみたいな怒り方で嫌じゃなかった。

 その後ホテルに行ってお土産を買ったり、各自部屋に戻ったり、ご飯を食べたりと自由時間を過ごしていた。

 だけど、私と狼くんは人のいないホールで二人でぼーっとしていた。何故かこのまったりとした雰囲気と狼くんがいるという安心感だけで眠くなる。


「狼くんは自分の部屋に戻らないの?」

「俺は、帰っても暇だし。そう言う凛子さんこそ」

「私は何となくかなぁ?」

「ご飯も食べたし、あとは風呂だけ」


 狼くんは風呂、と言った瞬間に、顔を赤くさせてそっぽを向いた。お風呂にも入ってないのに、狼くんの頬は蒸気していて今にも湯気が出そうだった。


「どうしたの?」

「ぃや、ちょっと思い出して、あの……」

「お風呂、お風呂、お風呂……あ!狼くんが私がシャワー入っている時に扉開けちゃったことを言ってるの?」

「……そ、んな大きな声で言うなよ」


 狼くんは赤い顔を更に赤くさせたから、図星なんだと思った。むっつりさんねぇ。と、つついて遊ぶ。


「にひひ」

「何だよ、その笑い」

「何でもない…ひひっ」


『○○高校は風呂の時間です。繰り返します。○○高校は風呂の時間です』

 突然、アナウンスがなり響き私達にまで聞こえた。


「お風呂……だって」

「じゃあ、行こうか。凛子さんも行かないと」

「うん、行かないと、だね」


 狼くんが立ち上がったから私もつられて立ち上がり風呂場に向かった。やっぱり狼くんの歩幅は大きくて、少し追いかけるのに疲れた。

 ちらりと見えた狼くんの右の頬はまだ先程の赤さを残していた。



「「あ」」


 狼くんと離れてから一番最初に見つけたのは学年代表さんだった。お互い口をあんぐり開けて止まる。


「……何でここにいるのよ」

「一回自分の部屋に戻って荷物取ってからお風呂行くつもりだったんだけど、学年代表さんは?」

「同じよ」

「そう、じゃあ」


 学年代表さんと別れて自分の部屋に戻り荷物を取り、お風呂に行こうともう一度廊下に戻ると学年代表さんはまだそこでうろうろしていた。

 先程と同様、手ぶらのままでどうもお風呂に行くとは思えない格好だった。


「行かないんですか?」

「……って」


 彼女は俯いたままぼそぼそと喋った。しかし、余りにも聞こえなくて聞き返すと彼女は私を睨んだ。


「……お風呂ってどこなのです?」

「あ。なるほど。迷子ですか」


 納得した。彼女がここらをうろうろしていた理由が。動物園ではぐれて迷子になっていたように、今も迷子になっていたんだ。


「じゃあ、行きましょうか」

「に、にやにやするなぁ!」


 あら、どうやら私はにやにやしていたみたいで学年代表さんに怒られてしまった。そして私はぶつぶつと文句を言う学年代表さんとお風呂に向かった。



「ふんっ、奢ってくれて嬉しいなんて思っていないんですからねっ」

「はいはい」


 ふふふっと笑顔になりながら彼女とお風呂あがりの牛乳を飲みあう。うん、美味しい。

 彼女とお風呂に入ってだんだんと分かってきたけど、彼女は本当のことを言えない性格のようで、今言った言葉も私に感謝しているのだ。

 無口な狼くんと同じで感情表現が人とは違う彼女の気持ちも少しずつだけど理解できるようになってきた。


「はいはい、じゃないわよ……」


 文句を言いながらも目元が柔らかい彼女の顔は風呂上がりで少し赤かった。

 やっぱり風呂上がりの牛乳は最高でした。



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