宿泊研修当日③
「ふぁぁー」
欠伸をしながら肩をぐるぐると回す。寝起きでまだ目はしぱしぱしているし、寝癖が酷いのが鏡を見なくても分かる。
皆まだ寝ているから、布団の間をくぐり抜けるように歩いてから洗面所に向かう。
「んしょ」
櫛を取って髪の毛をゆっくりととかしていく。たごまっていた髪の毛が柔らかくほどけていくのが分かる。
髪の毛をとかし終えてから、カーテンを開けるためにもう一度部屋に戻った。
あ、でもまだ寝ているから開けたら迷惑かな?じゃあ、開けるのはもう少しあとにしよう。
ううん。と、小さく伸び。皆寝てるけど、もう眠たくないしこの暇な時間をどうしよう。そうだ、お茶でも沸かそうかな。
寝起きだから身体を暖めるのにも良いよね。
こぽこぽ、とお湯が沸く音を聞きながらやっぱりこの音が心地良いなぁと和んでいたら、この柔らかい雰囲気を壊す音が突然響いた。
「アナタ!学級代表の会議が始まっても集まらないってどう言うことなんですの!?」
学年代表が私の部屋のドアを力強く開けて叫んでいた。
寝ていた同じ部屋の同級生は眉間にシワを寄せながら起き始め、この騒ぎの原因を知ろうとしている。
勿論、私も突然の訪問に驚いていた。
「学年代表さんどうしたんですか?」
「……ふ?」
叫んだはずの彼女はポケーっとした顔で、不思議そうな顔をしていた。いや、不思議なのは私達ですよ?
「はっ、何で私はここに!?」
顔を覆って驚愕の表情で私を見る彼女を呆然と眺めていると、彼女は急に顔を赤くしてあわあわ口を開閉させたかと思うと走って逃げ出した。
「何だったんだろう……?」
起きてしまった同室の二人も顔を傾げていて、不思議そうだった。
☆ ☆
朝のバイキング。
学年代表の急な叫び声の真相が分からないまま、不思議な気持ちで私は会場にきてご飯を食べていた。
特に私が好きな林檎を沢山頬張っていると、狼くんが隣に座ってきた。
「……おはよ」
「ん、おはよ。昨日はちゃんと寝れた?」
「……おう」
「同室の人と少しは話せた?」
「……」
返事が帰ってこなかったから、話せなかったんだと解釈してこの話は止めることにした。
「狼くんは何食べるの?」
「……凛子さんのご飯が食べたい」
「食べたいって言ってくれるのは嬉しいけど、私のご飯は家でも食べれるでしょー」
くすくすと笑いながら言うと、狼くんは黙りながらも林檎を食べていた。しゃくしゃくと咀嚼音が私にまで聞こえてくる。
だから林檎は好きなんだよね。食べてる感じがするからね。
「じゃあ、良いよ。凛子さんのご飯食べられない代わりに林檎さん食べてるから」
…………?林檎さん?どういう意味だろう。
「もしかして、凛子と林檎を掛けたの?」
まさかそんなおじさんみたいなダジャレ狼くんが言うはずないよね?なんて、思っていたら図星だったみたいで顔を赤くさせた。
けど、あくまでも平然とした顔で私から目を離して林檎を見ている。
「……だったら、悪いか」
「ぷっふふ」
「……笑うな」
「だって、狼くんが可愛くって。…狼くんがそんな面白い洒落を言う人だって皆にも知ってもらいたいな」
遠く、皆が食べているのを眺めながら、狼くんが皆に囲まれながら笑っている姿を思い浮かべていた。
その狼くんはいつも私といる時みたいに優しい笑顔で楽しそうにしているように思えた。
「俺は別に、凛子さんとだけこうしてたい」
狼くんがぼそりと呟いた。
「ありがとう。そう言ってくれるのは嬉しいよ」
一旦林檎を食べていた手を止めて狼くんの頭を撫でると狼くんは顔をしかめた。
「凛子さんの手、林檎でべたべた」
「あらごめん、っふふふ」
狼くんの頭を撫でた手をおしぼりで拭くと「今更遅い」と怒られた。確かにそうだね。
「ここ、良いかしら」
笑い合う(?)私達の前に現れたのは学級代表さん。お皿を持って立っている。
「あら、学年代表さん。どうぞ」
「……座るんじゃねぇ」と言いかけた狼くんの口を塞ぎながら隣に座ることを勧める。
彼女は何も言わないから、狼くんと私の林檎の咀嚼音がしゃくしゃくと流れる。……心なしか狼くんの方から舌打ちが聞こえるのは気のせいということにしよう。
「……朝のは」
「ん?」
「朝、アナタの部屋に行ったのは悪いと思っているのですよ。つまりは、ですね。寝ぼけていたのです」
「そう、よくありますよね」
「同じ部屋の人に、……起こして悪かったと伝えて下さらない?」
「はい、良いですよ」
「ふ、ふん。朝は、忘れなさい」
「じゃあ、林檎あげますよ」
「ん?話が繋がってないから分からないのですよ」
「美味しいものは共有したいって気持ちですよ」
「ふうん?まあ、良いわ。食べてあげようじゃないの」
「はぁい」
口元に林檎を運ぶと「あんむっ」と頬張る姿が小動物みたいで可愛かった。彼女自信の手を使わずに私の手から食べるから更に小動物感を増していた。
「っち」
狼くんが再度大きく舌打ちをした。
「どうしたの、狼くん?」
「何か……楽しくない」
「よしよし、そんなこと言わないの。ほら林檎食べて」
開いている方の手で狼くんに林檎を持っていくと「はぐっ」と咀嚼した。
ところで、何で二人とも私の手から林檎を食べるんだろう。二人を餌付けしている気分で何か、変だよ。
しゃくしゃく食べ終えてから学年代表は赤い顔を震わせてから「別に、林檎は好きじゃないし……」と言ったから彼女なりの言い方で「林檎が大好きっ」てことが分かった。




