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凛子さんと狼くん  作者: 太郎
学級代表の関係性
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宿泊研修当日①

 

 そんなこんなで宿泊研修当日がやってきた。


「分かってますの?アナタ達は学級代表なんですよっ」


 学校の門の前で学年代表さんが私たちに向かって言った。わざわざこうやって言ってくれるなんて優しい人だなぁ。


「ありがとうございます。あと、おはようございます」


 ペコリと礼をすると彼女はぐ、と蛙の様に鳴いた。あら、蛙に例えたら失礼かな?じゃあ、蛙の中でも美人な蛙みたいに鳴いた。ってことで。


「……凛子さん、行こ」


 突然、(ろう)くんは後ろにいたはずなのに私の前に出てから私の手を引いて歩いてしまった。

 後ろで学年代表さんが文句言ってるのに良いのかなぁ?とか思いつつ私は対して反抗もせず狼くんのなすがままにされた。


「もうっ、何で狼くんは人が話してたのに言っちゃうのかな?」

「……あの人は好きじゃない」

「人には好き嫌いあるけど、表に出しちゃいけないんだよ」

「……分かった」

「えへー。分かってくれたなら良かった」


 皆仲良く、皆手を繋いでらんらんるーが一番だよね。したっけ皆が救われ皆がハッピー。あ、このままだと凛子教が出来るかも!

 あ、肝心の彼女の声が聞こえないところにまで来てしまったけど彼女も言いたかったことは言っただろうし許してくれるかな?


「……って、今日は宿泊研修なんだね」

「それは昨日も言ってたよ」

「うーん。お仕事が沢山だねー」

「凛子さんのせいだけどね」

「ううっ」


 狼くんは鋭いことを言うなぁ。まあ、確かに私が学級代表になったからこんなに仕事があるんだけども。


「一日目は特にないけど二日目が多いみたいだ」


 狼くんがペラペラと宿泊研修の冊子をめくりながら言った。


「ほー。頑張らないとねー。狼くんの目標の為にも」

「俺は特に目標ないし……凛子さんの作戦の為でしょ?」

「な、なんでバレてるの……!?」


 ぎくうっ!と心臓が鳴る。狼くんお友だちウハウハ大作戦を(今命名した作戦)知っているというの?!


「バレるも何も、凛子さんのその態度で丸分かりだよ」


 な、なんですと。私の作戦がバレバレだったとは……!でも、狼くんだったら優しいし私の言ったこと聞いてくれそうだから別に良いか。

 作戦がバレても心配ない。


「まあ、良いや」

「ふぅん」


 狼くんは教室へ向かう足を止めずに小さく呟いた。



「えっと、大きい荷物をバスに入れるからその準備をして下さい」「一旦体育館で開会式をするので集まります」「順番は出席番号順で並んで下さいっ」「開会式が終わったらバスに乗り込みます」「ここに並んで下さい」「狼くんっ、皆を呼んできてくれる?」「……」「うん、分かった。自分でやるね」「はーい。バスに乗り込んで下さい」「班長はメンバーが揃ったら私に連絡して下さい」「目的地に着くのは二時間後です。その間はレク係が楽しい時間を提供してくれます」

「皆さん、良い宿泊研修にしましょうね!」


 怒濤の30分間のお仕事が終わった。冊子には『教室からの移動、開会式の運営、バスへの移動』と、簡単に書かれていた。

 しかし実際は色んなところをバタバタ走り、大きな声で話すというよりはずっと叫んでいた。

 学級代表だから大変だろうとはこんなにも疲れるなんて思ってもいなかった。



 とてとてと自分の席に戻ると狼くんが座っていた。そう言えば狼くんとは同じ班にしてもらったんだ。


「……お疲れ様」

「ありがとう。お疲れ様」

「……ごめん」

「ん?何で謝るの?」

「……俺は何にも出来なかったから」

「んーん。狼くんが一緒にいてくれてるって事だけで救われたから大丈夫だよ」

「ほ、ほう」

「狼くんが好きな時に仕事を手伝ってくれれば良いよ。大体私が無理矢理狼くんを代表にしたみたいなところもあるし」

「……ありがとう」

「どういたしまして」


 そう言った後、狼くんは窓に顔を向けた。恐らく寝たのだろう。なら、私もすることないし眠っておこう。あとの行事のためにも体力温存しなくちゃね。

 レク係が何か楽しいことをしてたらしいんだけど(後から聞いた)寝ていた私には分からなかった。



「ふぁー……」


 どうやらもう少しで目的地に着くみたい。皆が動物園楽しみだね、とか会話しているのが聞こえてきたから。


「狼くん、起きて。もう少しで着くよ」

「ん……ああ」


 狼くんがもぞもぞと動いて顔を見せた。険しく眉間にシワを寄せて目を細くさせている。ああ、こんな顔(悪い意味ではなく)を他の人が見たら泣いちゃうんだろうな。もしくは狼くんを怖がってしまうかも。

 今後、狼くんの寝起きの顔は見せないでおこう。


「寝起きの顔は私以外に見せちゃダメだよ」

「え、それって……どういう意味?」


 狼くんが顔を隠そうと手を顔の前に移動させたが、手の間から狼くんの赤い顔が見えた。林檎の様に赤い。


「ん、熱あるの?」

「……いきなり凛子さんが変なこと言うからだ」

「変な狼くん」

「……変なのは凛子さんだ。俺の寝顔を凛子さん以外に見せるなってつまりはそう言うことじゃないか」

「あ、バスが遅くなってきた。もうすぐ止まるんだね」


 窓の外に目線を向けると、その視線の前にいる狼くんはゆっくり手を下ろした。


「ヒトの話聞こうよ……まあ、良いけど」

「何か言った?」

「何でもない」

「ふぅん。あ、一班から順にバスから降りて外で並んでいて下さい」


 忘れていた自分の仕事、指示を出すとざわつく生徒の何人かがはーいと声をあげてくれた。


「狼くん、私たちも行こっか」

「……おう」


 狼くんは眉間にシワを寄せた。



「わあぁぁー!」


 私たちは動物園に入り班毎に自由に見て回っていた。そんな中、私はふれあい動物ゾーンを見つけて興奮していた。

 だって、目の前には小さくてわふわふのウサギやヒヨコやモルモット達がその身体にお似合いの小さなあんよでてちてち歩いているんだもの!


「……凛子さんヨダレ出てる。あと、動物怯えてる」


 あら、本当。目の前にいる私を見て小さなウサギ達がビクビクと震えていた。中には隅に隠れている子も。そんなに怯えなくても大丈夫なのに…とは思いつつも可愛いからオールオーケー。


「可愛いね。ね、加奈ここ行っても良い?」


 同じ班である加奈に聞いてみた。答えは実に良いものだった。


「良いわよ。皆も行きたいみたいだしね」


 加奈が他の班員の顔を見ながら言った。あ、因みに班は男子二人女子三人で構成されているのです。加奈と私とみつあみの子と、狼くんと眼鏡の男の子。と、まあ他の班が驚くくらい地味な雰囲気で構成されている。


「ありがとう。狼くん行こうっ」

「……ちょ、手を引っ張るな」


 狼くんが慌ててる気がするけど気のせいだと考えてウサギ達の元へダッシュ。そして。


「わふわふー」


 ウサギの一匹を抱き寄せて頬にすりすりと擦り付けると、ウサギが慌てて逃げた。に、逃げることないのに。動物愛護団体に怒られるって?そんなの知らないよ。


「おいで、おいで。怖くないよー」


 落ちていたニンジンを片手にウサギを呼び寄せようとするが誰も来なかった。落ちていたのだからかな?それとも私が嫌がられているのかな?どちらにしようと。


「ガァーンッ!」

「凛子さん何してるの」

「狼くん、何でそんなに好かれてるの」

「……勝手に寄ってくるんだよ」


 顔をしかめる狼くんの足元にはウサギ達が集まっていて、自身の身体を狼くんに擦り付けている。好きだ好きだと言えば言うほど私は嫌われる傾向にあるのか、なるほど。


「羨ましい。あっ、狼くんがウサギを抱いて私が狼くんに近づけば良いのかっ!」

「動物に好かれない凛子さんに最適な案だね」

「うん、その言葉結構傷つくね」


 狼くんは私の言葉を無視してウサギを抱き上げた。そして私に向けた。愛らしいウサギのつぶらな瞳に私が映る。


「はい」

「ふぁぁー。何で小動物ってこんなに可愛いんだろう」


 私はふわふわのウサギを撫でながらだらしなく笑顔になった。ウサギは寂しいと死ぬっていうもんね?だから、沢山撫でて寂しくさせません。

 ふと、狼くんが口を開いた。


「凛子さんみたいだね」

「ん?どう言うこと?」


 ウサギを撫でながら狼くんの顔を見上げると思ったよりも近くて鼻先が触れるかと思った。


「い、今の忘れて」


 狼くんは少しどもって言うと顔を反らしてしまった。だけどこんなに近くにいるから見えているのに、狼くんは気づいていないのが可笑しくて何故か嬉しくなる。


 さっきの言葉だけど、私が小動物ってことはつまりは小さいってことを遠回しに言っているのかな?悪口ってこと?

 なら、狼くんは顔を赤くしているんだろう。悪口を顔を赤くして言う訳ないしねー。狼くんは時折分からない行動をとる。



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