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凛子さんと狼くん  作者: 太郎
学級代表の関係性
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宿泊研修準備

 

「宿泊研修……ですか」


 先生が言ったことを復唱してみた。けれども、現実味がなくて、その言葉はふわふわ浮いた。


「そう、宿泊研修。で、今日の昼休み宿泊研修について話し合う代表会議ってのがあるから行くように」


 先生は適当に言う。

 宿泊研修があるのは知っていたけどこんなにも早く来るとは思ってなかった。他のクラスは前から言われてたらしいけど私のクラスは今、知らされたし。

 さっすが、適当な先生(良い意味でも悪い意味でも)。でも、適当にすると私達学級代表が大変な思いをするんですよ、という言葉は飲み込んで。


「……分かりました」


 ただただ頷くしかなかった。


 ☆ ☆


「……だってさー。昼休みに一緒に行こうね」


 (ろう)くんに向かって話しかける。すると狼くんは机に突っ伏したまま低い声で言った。


「……めんどくせー」


 最近狼くんは進歩してきた。他の人がいる前でも私とだったらこうやって話してくれる。

 狼くん、偉いね。私よりも先に大人になって何処か行っちゃうのは悲しいけど、成長を感じると嬉しくなる。あら、私ったら狼くんのお母さんみたい。


「代表だから行かないとダメだよ」

「……代表になるんじゃなかった。いや、でもそれだと凛子さんを守れないし。俺以外のやつが凛子さんと一緒にいるのは嫌だから良いのか……」

「何、ぶつぶつ言ってるのー」

「凛子さんに関係あるような、ないような」

「狼くんが分からないなー。もっと頭の悪い私にも分かるように教えてくれないと」

「分からなくて良いよ」


 狼くんは拗ねた様な小さな声で言った。


 ☆ ☆


「宿泊研修は私達代表が一番仕事があります。皆をまとめて先導することから司会まで勤めます。詳しくはさっき配った紙に書いてあるので見てください。役割等も私の方で決めました」


 すらすらっと学年代表が述べた。その後、後ろに束ねた黒髪ポニーテールを首を振って揺らす。


「では、解散です」


 彼女がぱんっと手を叩いたことにより皆が各自の教室に戻っていく。それを見て私達も同じく戻ろうとしたら誰かに髪を引っ張られた。

 くんっと頭が後ろに持ってかれ転びそうになった。


「……っ」


 振り向くと学年代表と目があった。あらー、美人。とか、思っていたら彼女の手に私の髪の毛が握られてるのに気がついた。

 新しい人の呼び方?それとも彼女なりのコミュニケーション?全く接点がない私達へ何か用?

 頭の中では疑問が飛び交ってうるさいが、私は至って冷静に頭が痛くならないよう動かないでいた。


「ちょっと待ちなさい」


 仁王立ちで彼女が言うと同時に私の髪を解放した。彼女は綺麗な美人だからそんな姿も様になってしまう。


「待てっつーだけなら髪引っ張らなくても良いだろ」


 狼くんが私の前に立って彼女を見えなくさせた。

 一瞬、私のことを守っている様に思えた。だって、人に話すのが苦手な狼くんがこうして話しかけてるんだもの。そう思うじゃない。


「調度良い。彼女に話にあるのです。少年も残りなさい」

「少年じゃ……」と今にも噛みつきそうな狼くんの腰に思わず抱きついて制止してから彼女の言葉を促す。

「気にしないで。で、話って何ですか?」

「はっきり言うとアナタ達が学級代表で締まるとは思えないのです。第一、今までの代表会議で一度も集まったことがないでしょう。それ自体で論外。代表辞退したらどうですか?」


 びしっと指を差された。あ、爪綺麗だなー、とか考えるのは今はやめにする。

 今まで代表会議があるなんて聞いたことないし、勿論一度も参加したことない。きっと先生が言わなかったんだと思う。

 あの先生なら何か有り得そうと思ったら何だか笑えてきた。


「ふふふっ」

「な、なぜ笑うのですかっ。私をバカにする気なのですか」

「違います。思い出し笑いをしてて」

「ふんっ。そうですか。私は忠告したのですよ。覚えてなさい!」


 一昔前の捨て台詞を叫んだかと思えば彼女は一目散に走っていった。そんな彼女の後ろ姿をぼんやり眺めながら口を開けた。


「何だったんだろう?」

「きっと俺らが代表に見えないから牽制しに来たんだろ。凛子さんが気にする必要ないよ」

「ケンセイ……?それにしても彼女綺麗だったねー。近くで見たの初めてだからドキドキしたよ」


 聞きなれない言葉に首を傾げた。バカにする訳じゃないけど、狼くんったらそんな難しい言葉知ってて大人みたい。


「凛子さん……緊張感ないね。覚えてなさいよって言われたのに」

「覚えてなさいってことは向こうも私の事を覚えててくれるんでしょう?良いことだよ」


 るんるん気分で鼻歌を歌うと狼くんは小さく呟いた。


「それよりも……」


 狼くんが私を見下ろしながら服を引っ張った。

 あら、そうだ。私ったらずっと狼くんに抱きついてたんだね。彼女に気を取られてすっかり忘れてた。


「忘れてた。ごめんね、狼くん」


 ぱっ、と離れると狼くんの背中で温められていた胸がむき出しになって、涼しくなる。


「いや、別に謝られるような事をしてないけど」


 振り返った狼くんは眉間にシワを寄せて口元を隠した。耐えてるみたいなその表情。なぜかは分からないけど、取り敢えずイイコイイコ。


「狼くんは偉いねー」


 ……しようと思ったが身長差で届かなかったから、頬っぺたに触れた。すると狼くんが目を反らす。誉めすぎて照れたのかな?


「じゃあ、教室に戻ってご飯食べよう」

「……おう」


 狼くんと一緒に教室に戻り、昼ごはんの続きを再開した。





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