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魔女会の決起集会

アデル様の後ろについて、静まり返った森を歩く。太陽はすっかり沈んでしまった。

お母さんは魔女会を抜けているということで、留守番をすることになった。

「この森は魔女か魔法使いといないと迷うから、ちゃんとついていらっしゃいね。」

今晩は満月だからか、木々の間から光が差し込んでいて、森の中なのにあまり怖くない。


「アデル様、一つ聞いてもいいですか」

「いいわよ」

振り返らずにアデル様が答えた。

「お母さんの魔力は衰えていないのに、魔女会に戻ることはできないんですか」

アデル様はあら、と小さく呟いた。

「サラは、ヴィオラに魔女会に戻ってほしいの?」


どうだろうか。魔女ヴィオラとしてのお母さんを私は全然知らない。お母さんがこの二十年をどんな気持ちで過ごしてきたかも知らない。

だから、これは私の勝手な考えだけれど。

「アデル様とお話ししているお母さん、いつもより感情が豊かで、幸せそうだったので。もしお母さんが、お父さんと私を気にせずにいられたら、魔女会に戻りたいと思っているなら、叶えてあげたいです」


アデル様が立ち止まる。

「掟についての話は、決起集会が終わった後にしましょうか」

視界が開けた。森の中心部くらいだろうか。広場があった。


黒の大魔女、アデル様。

紫の大魔女、オリヴェット様。

緑の大魔女、クラリス様。

青の大魔女、エレオノール様。

赤の大魔女、ジュリー様。

そこには大魔女が全員そろっていた。

魔女会に詳しくない私でも知っている顔ぶれだ。

決して威圧感があるわけじゃないのに、圧倒されてしまう。


ほかにもたくさんの魔女、魔法使いがいる。中心の近くには、私と同世代に見える子もいる。

決起集会って、魔女会の全メンバーが集合する集会なのかな。

「ここでちょっと待っていてね」

アデル様が、入り口に私を置いて、まっすぐ中心に歩いていく。


「全員そろっているかしら」

「ああ、早速始めよう」

クラリス様だ。

中世のお姫様のような顔立ちをしているのに、あんなにかっこいい言葉遣いで話すんだ。意外。

麗人って言葉がピッタリの声だ。


「今日の議題は次の侵略者の襲撃についてだ」

「調査隊の報告によると、次の侵略者の襲撃は、今日からちょうど一月後になるみたいなの」

「そして、この襲撃は、今までで一番大規模になるとの推測が立っている」

何か所かでどよめきが起こる。

そんなに一大事な感じなんだ。


「具体的には……?」

すっと手が上がる。

顔は見えないけれど、その顔を隠しているフードでわかる。エレオノール様だ。

彼女の写真はあまり出回っていないし、ネットに流れている画像は全てフードを深くかぶっているから、顔は不明。不思議な人だ。


「いつもの三倍くらいと見ているわ」

空気が張り詰めたのがわかる。

でも、普段の魔女会の情報を知らなさ過ぎて、いまいち私にはピンとこなかった。


「なんとかなるわよ~」

間延びした声でその空気を壊したのは、オリヴェット様だった。

肩に就くくらいの茶髪を揺らしながら、アデル様よりも小さい身体でぴょんぴょんと跳ねている。

あんなにかわいらしい雰囲気だけれど、魔女会一位、二位を争うほどの実力者だ。

「そーだよ!とにかく早く作戦立てちゃお!」

ジュリー様は思っていたより明るい人だった。腰まである栗色の髪とたれ目が特徴だから、勝手にもっとおっとりしている人かと思っていた。


個性的すぎる大魔女を中心に集会が進行する。

今回取り仕切るのは、瑞樹が言っていたようにアデル様。補佐はクラリス様がつとめるらしい。

てきぱきと議題と指示が出されていく。

どこで迎え撃つか、先陣をどの部隊が切るかなど、細かい内容が詰められていく。

これは、私が聞いていい内容なんだろうか。

そんなことをぼんやりと考えていたら、集会の終了と解散が告げられた。


「今日はこれでおしまいよ。みんなおつかれさま。ゆっくり休んでちょうだい」

ぞろぞろと魔女や魔法使いが思い思いの方向に帰っていく。

「サラ、ごめんなさいね、待たせてしまって」

アデル様がこちらに向かって歩いてくる。

「あっ、セヴェール、貴方は残って」

アデル様がすれ違った一人の魔法使いに声をかけた。

「はい」

その人が振り返る。

きれいな顔の人。でも、ちょっと冷たい感じがする。

切れ長の目がすっと私を見た。

ちょっと、いや、かなり怖い。


「みんなも来て」

アデル様に呼ばれて、大魔女四人が近づいてくる。まって、心の準備がなに一つできていないです。

十個の瞳がじっと私を見ている。

「紹介するわ。ヴィオラの娘のサラよ」

誰もなにも言わない。木の葉がすれる音が聞こえるほどの静けさ。

そう思ったのも束の間。一斉に会話が飛び交い始めた。


「ヴィオラって、あのヴィオラか?」

「ええ、二十年前にこの森から飛び出していったヴィオラよ」

「アデル……、家を……知っているの……?」

「あたりまえでしょう。わたくしはあの子の師匠兼親だもの」

「アデル、ずるいわ~。わたしもヴィオラにあいたい~」

「行けばいいと思うわ。今度一緒に行ってみる?」

「元気そうだった?変わってないって感じ?」

「ええ、ちっとも」

会話の勢いに置いていかれる。


どういうことだろう。お母さんは、掟によって森を出たはずなのに、アデル様以外も大魔女全員に今でも大事に思われているみたいだ、

「サラ、だったか。どうしたんだ?」

困惑していると、クラリス様が声をかけてくれた。

「いえ、お母さんは掟を破って、魔女会を抜けたと聞いていたのに、随分好かれているなと思って……」

「あれ~、アデル、ヴィオラにあったのになにもいってないの~?」

オリヴェット様が首をかしげる。

「そういえば、ヴィオラが、私が怒っていると思っていたみたいだったから、その誤解だけ解いて、肝心なことを言わずにかえってきちゃったわね。」

「それじゃあまるで……わたしたちは怒ってるみたい……」

エレオノール様が、アデル様の二の腕を人差し指でつんつんと押す。

「わざとじゃないのよ」

「まあ、言えなかったことは仕方ない。今は、サラに説明するべきだろ」

クラリス様が会話の軌道修正を図ってくれる。ありがたい。

魔女会といえばアデル様の印象が強かったけれど、この五人を取りまとめているのは、クラリス様なのかもしれない。


「サラは~おきてのないようをしってるの~?」

「魔女は魔法使いと、魔法使いは魔女と結ばれなければならない、と聞きました。破れば魔女会を出て行かなければならない、とも」

「そう。ただその後半の方はそう言う慣習になってるだけっていうか。掟の一文じゃないんだよ」

「どういうことですか?」

「人間との恋愛をあきらめさせるための脅し文句ということだ」

「私たちが七十歳くらいの時にこの掟を作ったのだけれど」

「えっ、作った……?」

「ああ、この掟を作る前は何人か、魔女とか魔法使いと人間の間に生まれた子、半魔がいたんだが、魔女会に属していた半魔が全員死亡したときに、あたしら五人で掟を作ったんだ」

どうして、そんな掟をつくったのだろう?


考えが顔にそのまま出てしまったらしい。

「どうして~ってかおしてるね~」

オリヴェット様がくすっと笑う。

「昔はね~、人間との恋愛、全然禁止されてなかったのよ~」

オリヴェット様が、少し遠くを見るように言った。

「だから、はんまのもけっこういたんだよ~」

「みんな……、同じように育って……、同じように教育を受けた……」

「うちらみんな仲良しだったよね!」

「ああ。だが、あいつらは……人間の要素が強く出ることが多かった」

「魔力がさ、あっても半分くらいなんだよね」

ジュリー様が指をひらひらさせる。

「寿命も人間と同じくらい。魔女基準だと、めっちゃ短命」

「……」

「べつに、それがわるいなんてことはいっさいないのよ~」

オリヴェット様が少しだけ強く言う。

「友情にそんなことは関係ないからな。でも、」

クラリス様の声が、低く落ちる。

「最後に一人残った半魔の友人が、自分たちは、皆と違った。迷惑をたくさんかけた。私たちは、魔女会にいるべき存在ではなかったと、そう言ったんだ」

胸が、ぎゅっと締めつけられる。

耳の奥で血が流れる音がよく聞こえた。


「うちらは気づけなかったけど、きっと大変な思いをたくさんさせちゃってたんだよ」

ジュリー様が続ける。

「寿命の差、でかすぎるじゃん?魔女と人間って、だいたい五倍くらい違うし」

「同じ時間を……過ごしてるはずなのに……、自分だけ先に死んでしまう……」

エレオノール様の小さな声。

「やるせないだろうな」


誰も、すぐには言葉を継がなかった。

「だから、」

クラリス様がはっきりと言い切る。

「魔女は魔法使いと、魔法使いは魔女と結ばれなければならないってことにしたんだ」

掟ができた理由は分かった。じゃあ。

「その、さっきの脅し文句、というのは」

アデル様が眉尻を下げる。

「掟を破る場合、その子に残った道はここを出ていくか、人間との恋をあきらめるかの二つに一つしかないでしょう」

「今まで後者を……、取った子は……、いなかった……」

「だから~、こいをあきらめさせるために~、おきてをやぶったらでていかなきゃいけないよ~っていうようになったんだよね~」

「魔女会に属する者にとって、ここ以外に居場所はないからな」

「ヴィオラだけがさ、ぜーんぶ捨てて、恋を選んだってわけ」


全員少し、表情が暗い。

「ヴィオラには……、かわいそうなことをしたわ……」

「もし、あの時、ちゃんと会話ができていたら、魔女会から完全に抜けない方法を探せたかもしれないって、今なら思うわ」

「まあ、つまり、魔女会を抜けなければならない、なんて簡単に脅しに使っていい言葉じゃなかったってことだな」


随分と重い話を聞いてしまった。

心のどこかで、今どき自由恋愛が許されないなんて、と思っていた自分を恥じる。

お母さんにこの話を、どうやって伝えよう。

そう思った時。


「それで、」

ずっと黙っていた魔法使いが、初めて口を開いた。

「私はなぜ呼ばれたのですか」

「ふふ、それはね」

アデル様が、得意げに笑う。

「セヴェールにサラの先生をしてもらおうと思って」

アデル様は昼間の水晶玉を取り出して私の手のひらに乗せる。

「サラ、もう一度見せてちょうだい」

瞼を閉じる。

おお、というつぶやきが聞こえた。


「ね。セヴェールが適任だと思うのよ」

「いい案だ」

セヴェールさんがなにかを言う前に、クラリス様が満足そうに首を二回縦に振った。

「いえ、私は今、クラリス様の補佐を、」

「それは、生徒がお前を怖がって、お前が先生役を果たせないからだろう。最後に生徒をもったのはもう何年前だ?」

「……」

セヴェールさんの目が少し泳ぐ。

「手が一番空いているのも、サラと一番相性がいいのも、セヴェールかなと思ったから。どう?引き受けてほしいのだけれど」

「というより、緑の魔法使いの先生は、セヴェール以外今誰も手が空いていないんだ。お前がやらなくて、誰がやるんだ」


反論が思いつかなかったのか、セヴェールさんはようやくうなずいた。

「承知、しました」

「セヴェール先生復活ね」

戸惑う私の背中を、クラリス様がさすった。

「サラ、安心していい。セヴェールの指導者としての腕は、この魔女会一だから」

はは、とから笑いがこぼれる。

腕がよくても、怖いと言って今まで拒否されてきた先生に教わるのは、私も怖いです、とは言えなかった。


「いい訓練場所は、もうほかの子供たちが使っているよな」

「そうねぇ」

アデル様が、ほほに手を当てて考える仕草をする。お母さんもよくするポーズだ。

「この広場を……、使えばいい……」

エレオノール様の提案に顔を見合わせた。

「いい案だ」

「空からよく見えるのが悪いとこだけどね〜」

「魔力がもし暴発したらすぐに見つけられるもの。むしろその方がいいわ」

私とセヴェール先生をよそに話が決まっていく。

「よし、じゃあとりあえず今日は初回授業と言うことで」

「サラ……、がんばって……」

「終わったら呼んでちょうだい。送っていくから」

「なかよくね~」

その言葉と、セヴェール先生を残して、大魔女五人は行ってしまった。

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