私が|魔女《ソルシエール》?!
ちょっと前に一人で楽しむ用に書いていた3万字の小説を改訂して文字数を増やしながら、ちまちま載せていく予定です。
どのくらいで1エピソードを切るのが読みやすいのか、悩ましくて試行錯誤中です。
「ねえサラ、聞いた?今夜、魔女会の決起集会があるんだって」
ホームルームが終わって帰ろうとしている私、西森サラの元に幼馴染の橘瑞樹が隣のクラスから走ってやってきて言う。
魔女会。それは町や人の平穏を保つために、地球外から侵略してくる理から外れた存在「侵略者」と戦っている集団。
基本的に森の中に住んでいて、私たちみたいな普通の人間には使えない不思議な力、いわゆる魔法を操る人たちだ。
私が住んでいる地域の魔女会も、例にもれず侵略者との戦闘時以外森の中から出てこない。
「大量の侵略者が向かってきてるんだっけ?いつものことながら大変だね」
「そう!それでね!今回指揮を執るのがアデル様らしいの!」
瑞樹は机をバンバンと叩きながら叫んだ。
魔女会は表立って動いている集団ではないけれど、颯爽と箒で夜空を飛びまわる姿や身体を張って侵略者と戦う姿に多くのファンがついている。
むしろ、オープンな組織じゃないからこそ、そのミステリアスな魅力に取りつかれる人たちが多いのかもしれない。
メディアに出たりはしないから、熱心なファンは、魔女の姿を見ようと森に近づいたり、決起集会があるという噂がながれると夜中に出歩いたりしているらしい。
それはどうなんだ。危ないでしょ。
瑞樹は魔女会の中でも特にアデルという大魔女が好きで、よく私に魅力を熱弁してくれる。
「よかったね。またアデル様の写真がSNSに沢山あがるんじゃない?」
「当たり前!アデル様は魔女会の中でもトップクラスにかっこいいんだから。魔女会を見かけた全人類が写真あげてほしいくらいだよ。夜は外に出ちゃいけませんってママが許してくれないから、あたしは生で見れないし」
うなりながら頭を机にこすりつけている。楽しそうで何よりだけれど。
「いつまでそうしてるの、一緒に帰るんでしょ。おいて帰るよ」
家に着くまでの間も、瑞樹はずっと魔女会の話をしていた。
そんな熱量をもてるなんてすごいなといつものことながら思う。
瑞樹曰く「こんなに布教してるのに、魔女会に全然興味ないサラの方がすごいよ」らしいけれど。
だって、魔女会って会ったこともないし、遠い存在すぎて現実味がないんだもん。
ああいう誰かのために頑張っている人たちにあこがれる気持ちがないわけじゃないけれど。
「じゃあねサラ、また明日!」
ブンブンと手を振っている瑞樹に手を振り返して家に入る。
手を洗う前にお母さんにただいまを言おうと、リビングのドアを開けた……ら、長いふわふわの銀髪と裾の長い紺色のドレスがトレードマークの小柄な女性──さっきまで瑞樹が散々話題にしていた、アデル様が立っていた。
え?なに?どういうこと?!
ダイニングテーブルについた私の目の前に、アデル様とお母さんが並んで座っている。テーブルの上には焼きたてのクッキーと紅茶。今日の紅茶はダージリン。
さっきまで魔女会は遠い存在だから、とか考えていたのに、そのメンバーと一緒にティータイムだなんて、一体これはなにごとだろうか。
「ごめんなさいねぇ、びっくりさせちゃって」
ティーカップを置いたアデル様が口を開いた。
さっき私と目が合った時から、ずっとにこにこと笑っている。ネットで出回っている写真は、どれもきりっとした顔をしているから、こんなに笑う人なのは意外かも。
対してお母さんはちょっと困り顔。珍しい。いつもはなにがあっても朗らかに笑って流すのに。
「わたくしのことは知っているかしら?」
アデル様がクッキーをかじりながら、小首をかしげて言った。
瑞樹は「アデル様は世界一かっこいい」っていつも言っているけれど、もしかしたら可愛さも兼ね備えている人なのかもしれない。
手にしたクッキーも相まって、メルヘンな雰囲気を感じさせる。
「魔女会のアデル様ですよね」
「えぇ、いかにも。わたくしが魔女会のメンバーであり、貴女のお母さん、ヴィオラの師匠でもある大魔女アデルよ」
……え、今なんて?ヴィオラ?師匠?
お母さんに説明してもらおうと顔をあげたら、額を押さえてうつむいている。そんな顔見たことない。本当に珍しい。
「先生、私、この子に一切何も言っていないんですよ。勝手に色々ばらさないでください」
アデル様はふふ、と笑って、
「それなら今から説明したらいいわよ」
と言った。
お母さんが、大きく息をついた。
「先生は相変わらずですね……」
それからたっぷり一分は悩んだ後に、ようやく私と目を合わせた。
「あのね、サラ。これから驚くことばかり言うと思うけれど、落ち着いて聞いてね」
「大丈夫。学校から帰ったら家に大魔女がいた時点で、驚きすぎてむしろ落ち着いてきたから」
頼もしい子だわ、と笑ったお母さんの長い指がテーブルをトントンと叩く。
「何から話せばいいかしらね……」
「絶対ヴィオラの件からでしょ。私十四年間、お母さんの名前を菫だと思って生きてきたんだけれど」
「ああ、そうね」
お母さんは言葉を切ると、カップに口をつけた。
「ヴィオラがお母さんの本名なの。ここだと少し浮くかしらと思って、お父さんと暮らすようになってから、菫って名乗っているのよ」
ああ、確かヴィオラって菫って意味だっけ。
切れ長の目と長い黒髪ストレートがよく似合うお母さんだから、ヴィオラでもハーフなのかなって誰も気にしないと思うけどな。
「そういえば、これまでお母さんの生まれについてとか聞いたことなかったな」
「魔女会から抜けて、魔女として働く機会がなくなったからね。話題にするきっかけがなかったの」
やっぱり。師匠ってことはそうかなとは思っていたけれど。
「お母さんが魔女だったなんて、全然気づかなかった」
お母さんが少し得意そうに胸を張った。胸元のペンダントが光を反射する。
「お母さん、昔から隠し事が得意だったのよ。魔法の失敗だって、先生以外にばれたことなかったんだから」
アデル様が銀色の髪を揺らしてうなずいた。
「ヴィオラは飛びぬけてよくできる子でねぇ。みんなからは天才だ、逸材だなんて言われていたの。確かに生まれ持った才能もあったけれど、それだけじゃなかった。でも、努力を知られるのを嫌がって、まるで初めからできたみたいに振舞っていたわ」
「だって、その方がかっこいいでしょう」
あ、なんかいつものお母さんが戻ってきたかも。
思い返してみたら、私もお母さんがなにかに手こずったり、失敗してたりしいるところって見たことないかもしれない。
「そんなによくできたのに、どうして魔女会を抜けたの?」
「雅俊さんと結婚しようって決めたからよ」
お母さんが頬杖をついた。
ちなみに我が家の両親は、娘の私が引くくらい相思相愛である。互いが幸せであることを何よりも願っている、いつまでたってもラブラブカップルなのだ。
「魔女会の掟として、魔女は魔法使いと、魔法使いは魔女とと結ばれなければならない、って決められていてね。どうしても破るなら魔女会にはいさせられないって言われたから、魔女会を抜けて魔女もやめるって即決したの」
「ヴィオラったら、わたくしに相談の一つもせずに、その日のうちに森を出たのよ」
アデル様が唇をとがらせている。やっぱり可愛い人だな。一つひとつの仕草がよく似合う。
「先生だって反対していたじゃないですか。あれからもう二十年も経つのに、会うのは今日が初めてですよ。せっかく手塩にかけて育てたのに、って怒ってるんだと思っていました」
「人間と結ばれるために魔女会を抜ける魔女なんて、掟ができてから、ヴィオラが初めてだったのよ。心配に決まっているでしょ。怒ってなんかないわ。わたくしがヴィオラを大事に育てていたのは、ヴィオラに幸せになってほしいからだもの」
芯があって、他人がどうであれ自分を貫く。お母さんらしい行動だ。
「今まで会いに来なかったのは、ヴィオラが自分で見つけた生き方を、尊重しようと思っていただけよ」
なんとなく、先生と言うより、親みたいなことを言うんだな、と思った。
「そういえば、お父さんはお母さんが魔女だって知ってるの?」
「もちろん。雅俊さんが森に迷い込んで侵略者に襲われそうになっていたのを助けたのが、私たちの出会いだもの」
それも知らなかった。今日は初めて知ることが多すぎる。
「それでね」
アデル様が真面目な顔でまっすぐお母さんを見つめた。
空気が張り詰めたのがわかった。
そうだ、びっくりすることが多すぎてすっかり忘れていた。大魔女のアデル様がどうして我が家にいるんだろうか。
「ヴィオラ、今回の侵略者討伐に力を貸してくれないかしら」
「ごめんなさい。お断りします」
即答だった。
大魔女相手にお母さんがそんな態度を取ったことに驚いて、勝手に背筋が伸びた。
少しの沈黙の後、アデル様が肩を震わせた。
「ふふふ、サラ、そんなにおびえなくてもいいわ。そう言うとは思っていたし、ダメ元で来たのよ。
「もう、先生、あんまりサラをいじめないでください」
よかった。本当に一触即発の状況なのかと思った。
椅子に腰かけなおしたアデル様が、クッキーをまた一つ口にした。
「まあ、一応理由だけ聞いておこうかしらね。この二十年間、魔法を使ってこなかったわけじゃないんでしょ?」
お母さんもクッキーを手に取る。
「魔女会に属さないのに魔女として働けって、それってつまりはただ働きでしょう。割に合いませんから。それに私になにかあった時に雅俊さんとサラを遺していくのは困ります」
「報酬って意味なら、わたくしが個人的に出すけれど。そうね。魔女会に属していない以上、魔女になにかあった場合の家族へのサポートは受けられないわ」
クッキーがどんどんなくなっていく。お母さんの作るお菓子はどれもおいしいから、二人に食べきられないように私の分を確保しなきゃ。
「それをわかった上で、私に要請しにいらしたんですか」
「ええ。だからダメ元って言ったでしょ。今度の戦い、人手はあるだけ嬉しいのよ」
ティーポットが空だ。クッキーにベリーが入っているし、次はアールグレイを淹れてもいいかも。
キッチンで紅茶を淹れてリビングに戻ると、クッキーはもうなくなっていて、テーブルには代わりに水晶玉が置かれていた。
星空が描かれているクロスの上で、球体が淡く光っている。
「これは……?」
「魔力量を量る水晶よ。魔女にとって、己の魔力量を把握することはなにより重要だからね。久しぶりにヴィオラも量るべきだと思って持ってきたの」
「もう魔法は、虫を家から追い出すためくらいにしか使ってないから必要ないですって言ってるのに、聞いてくれないのよ」
窓から差し込んだ夕陽が水晶の中で揺れている。
私は思わず手をかざした。
「きれい……」
「あら、サラも興味あるなら量ってみる?流れている血は半分だけど、ヴィオラの子だもの。ある程度はあると思うわ。ほら、ヴィオラ、やり方の見本見せると思って、さっさと量って」
「はいはい」
「はい、は一回よ」
お母さんが、仕方なさそうにため息をついた。
「それ、先生に一番言われた言葉だわ。先生からうつった癖なのに」
「わたくしはいいのよ、もう。これだけはずっと直らなかったわねぇ」
いつも完璧なお母さんが注意されてる。変な感じ。
お母さんは深呼吸を一つすると、水晶を持ち上げて目を閉じた。
ゆっくりと水晶が紫色を帯びていく。太陽が沈む直前の空みたい。
一分くらい経った頃には、水晶は濃い紫色に染まっていた。
「あら、全然魔力衰えてないじゃない。今すぐにでも復帰できるわよ」
「だからしませんってば」
嬉しそうなアデル様に苦笑して、お母さんは水晶玉から手を離した。
「ほら、サラもやってみたら」
水晶がこちらに寄せられる。美しい紫色はすっかり消えて、元の透明な水晶玉になっている。
「両手で持つだけでいいから」
うながされてそっと水晶に手を伸ばす。つるつると手触りのいい球体は、不思議と温度を感じなかった。
私は、さっきのお母さんみたいに目を閉じた。
沈黙が流れる。
アデル様はさっきある程度はある、なんて言っていたけれど。私は今までそんな力を感じたことがない。まさかね。
二人がなにも言わないから、きっと光らなかったんだろうと思って目を開ける。
けれど、予想と反して、水晶は中心部だけ強い緑色をしていた。目を凝らしてみると、その緑色がゆらゆらと揺れているのがわかった。
「緑色だし、全部に色がついてない……。これ、あんまり魔力量が高くないってこと?」
お母さんは複雑そうに眉を寄せて笑った。
「逆よ。お母さんと同等か、それ以上くらいあるわ。水晶玉全体が光らなかったのは、力の制御ができていないからよ」
アデル様を見ると、真剣な表情で何かを考えこんでいる。
そして、なにかを言おうと口を開いた。それを遮って、
「サラを魔女にはさせませんよ」
とお母さんが言って、水晶玉を私の手からテーブルに戻した。
「ヴィオラ」
アデル様が、静かに名前を呼んだ。
お母さんは、私をかばうみたいにすっと前に出た。
「この子は、ずっと普通の生活をしてきたんです。これからもそうあるべきです」
「普通、ねぇ」
アデル様が、小さくつぶやく。
「ええ。危険なことに関わらせるつもりはありません」
二人が真剣に見つめ合っている。邪魔しちゃいけないってわかっているけれど。でも。
「待って」
気づいたら、口が動いていた。
二人が同時にこっちを見る。
「私……まだ何も知らないし、説明も全部受け終わってないんだけど。二人で話、進めないでもらってもいいですか」
自分でもびっくりするくらい、落ち着いた声だった。
「一旦、全部教えてほしい」
二人は顔を見合わせた。
アデル様が席に着く。
「そうねぇ。順番に話しましょうか」
お母さんも座った。
「少し長くなるけど、ちゃんと聞いてね」
私も座って、背筋を伸ばす。
「まずは、魔女会についてね」
アデル様が、ゆっくり話し始めた。
二人の話を要約すると。
まず一つ目に魔女会について。魔女会は魔女、魔法使い、その子供を含めた総勢約百人の集団。今の魔女会の内訳は──大魔女五人、魔女四十人、魔法使い三十五人、子供が男女合わせて十四人。
大魔女は魔女会をまとめ上げている、長寿の魔女会の中でも特に年配の精鋭たち。全員で五人いて、アデル様はそのうちの一人。侵略者にどう対応するかの指揮は、大魔女が持ち回りで担当している。今回指揮を執るアデル様もおかあさんとあまり変わらない見た目だけれど、数百年は生きているらしい。
魔女は実戦担当。侵略者との戦いに直接赴いて、森や街を守るために力を尽くしている。街からでもよく見えるから、空中戦が得意な魔女たちが有名だけど、他にも地上から魔法を打って戦ったり、他の魔女を陰ながら支えたりと沢山の魔女がいる。
魔法使いは戦闘以外のあらゆる面で魔女をサポートする専門職。侵略者の調査や戦闘時の連絡役のほかに、子供たちへの教育を担当している人もいる。
いつも話題にあがるのは魔女だけだし、その魔女も十数人とかだから、そんなに大きい組織だなんて知らなかった。
そして、私のお母さん──ヴィオラは、前面に立って侵略者を攻撃する魔女だった。まだ年若いのに、次の大魔女候補として名前があがるくらい、的確な判断能力と魔法技術を持っていたんだって。
二つ目。水晶の色について。水晶で見れるのは得意な傾向にある魔法と、その魔力量。魔女会は、水晶の色によって担当する役割を振っている。
お母さんみたいに水晶が紫色に光った紫の魔女は、自分の魔力を元に攻撃する魔法が得意なタイプ。つまりは戦闘向きということ。温厚なお母さんが戦闘系っていうのは信じがたいけれど、本当なんだろうか。
アデル様が水晶を持つと、球は深海のような真っ黒に染まった。これは飛行を得意とする魔女の特徴。空中からの攻撃はもちろん、侵略者をおびき寄せたりする、囮役を担うこともあるみたい。
私みたいに緑色に光った緑の魔女は、自然や生命に関わる魔法が得意。植物を操って侵略者を捕縛したり、怪我した魔女を治癒したりする魔法に向いている。魔力量が強ければ、捕縛だけじゃなくて、攻撃ができる人もいるらしい。
他にも防御の魔法が得意な青の魔女と、戦闘している魔女にバフをかけるのが得意な赤の魔女がいて、それぞれのタイプに一人ずつ大魔女がいる。つまり、黒の魔女の中で、一番力があるのが、黒の大魔女であるアデル様、と言うことだ。
最後に三つ目。これが一番の衝撃。なんと、アデル様はお母さんの師匠兼育ての親だった。元々、お母さんは優秀すぎて、魔法使いの先生から学べることを早々に吸収しつくした後に、大魔女のアデル様に師事していた。
私は、おじいちゃんおばあちゃんは亡くなったんだよと聞かされていたけれど、実際にお母さんの両親は、侵略者との戦いで命を落としたらしい。
そこで、孤児となったお母さんをアデル様が引き取ったとのことだった。つまり、私にとってアデル様は実質的なおばあちゃんということだ。こんなの瑞樹が知ったら衝撃で倒れちゃうよ。
話し終えて一息つくと、アデル様は静かに微笑みながら言った。
「サラ、貴女にこんなにも魔力があるのは想定外だったわ。半魔の貴女に純血と変わらない魔力があるなんて思ってもいなくて。もっと早く会いに来るべきだったわねぇ」
現実味のない話をたくさん聞いた興奮だろうか、速くなった鼓動が戻らない。
本当に私にも魔力があるのだろうか。
アデル様がお母さんを一瞥する。
「ヴィオラ。力を使うかどうかは一旦置いておくとして、サラは力を自覚して、制御する方法を学ぶべきよ。わかるでしょう」
「……サラが戦闘に出ないなら」
「ええ、サラが出るって言わない限り、前線で働かせるなんてことしないわ」
「たとえ言っても、働かせるのは認めませんよ」
ついていけていない私を置いて、また二人が勝手に話を進める。
アデル様が立ち上がって、私の手を取った。
「ちょうどいいわ、今日は決起集会だもの。サラもいらっしゃい」
え、私が魔女会の決起集会に参加するの⁉




