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14 お守りになるかしら


 「 やっぱりおチビちゃんは私をよく見てくれているんだね 」




 どうやらイリスの見解は間違っていなかったらしい。 アランの表情を見れば理解できた。




 「 なぜ隠していたの? 」




 「 母さんが隠した方がいいって教えてくれたからね。 あのクソ親父に神聖力の強さがバレたら私に二度と会えなくなると危惧したらしいよ。 」




 「 ――お母さまが? 」




 「 うん。 案の定神聖力が強かったらローシェスのスペアにするつもりだったようだし、隠して正解だったよ 」




 イリスの問いに肩を竦めて呆れるように苦笑した。




 「 それじゃ今はお母様とは会えているの? 」




 「 勿論! 神聖力が弱いと判断された日に報告しに行ったよ。 私のスキルを使えば抜け出すのなんて簡単だからね 」




 ヘレインの問いにもニカっと歯を見せて笑うアランを、イリスとヘレインは顔を見合わせて ふふっ。と小さく噴き出した。




 「 流石アーティね! だったら本当は神聖力はどのくらい強いの? 」




 誇らしげに話すイリスに笑みを返すと、アランの身体から眩しい光が溢れでた。




 「 ――え?! 」




 想像以上に強い神聖力の光にイリスは眩しくて目を瞑りそうになってしまう。


 今まで幼い頃一緒にいた時、一度だって彼女の身体から光が溢れているのを見たことなどなかったというのに、今は眩い光の中に微かにオーロラが見えるような気もする。


 イリスは自分以外で強い神聖力を持つのは教皇だけだったので、この光を見てアランの母親がなぜ隠すように言ったのか理解できた。




 「 アーティ! 貴方聖下よりずっと神聖力が強いじゃない!! 」




 「 なんですって?! アーティ本当なの?! 」




 イリスの驚く声音に、神聖力の光が見えないヘレインも困惑してアランをじっと見つめた。




 「 イリス程強くはないけど、多分この国で二番目くらいには強いと思うよ? 」




 誇らかな顔でニヤリと笑うアランを、二人は尊敬の眼差しで見つめた。




 「 それじゃ……聖女様の精神操作にも負けなかったという事ね? 」




 「 愚門だね! あの女の神聖力なんてメルと似たり寄ったり程度だから負けるわけないよ。 ついでに脅してやったしね 」 




 「 脅したの? やるじゃない! 」




 してやったりな顔をするアランに、ヘレインまでニヤリと悪女顔を浮かべてアランを褒めた。




 ――そういえば……ヘレインは悪役令嬢設定だったわね




 普段は品行方正で淑女然なヘレインだが、たまに悪い顔をすると悪役令嬢設定を思い起こすような姿を見せるので、イリスはドキリとしてしまう。





 「 無事だったから良かったけれど……無茶はしないでね? 」





 「 勿論だよ。 私はあのクソ親父共を滅するまでは死ねないからね! 」




 心から心配するイリスの頭を撫でながらも、物騒な考えはずっと変わっていないようで溜息を吐いた。




 「 アーティにそこまで言われるほどの事をオルフェルク一族はしているの? 」




 「 してるよ。 まだしっぽは掴めていないけど、おおよそはわかってる  」




 「 おおよそ? まさか、こちらへ拠点を増やしたのもそれが理由? 」




 「 うん。 多分あのクソ一族はやっちゃいけない事をしているようだからね 」




 「 なんで確信できるの? 」




 怪訝な眼差しを送るイリスに、ヘレインは黙って様子を窺うことしかできない。


 アランはじっと見つめ返すが、しばらく逡巡しているようだった。




 「 これだよ 」




 ポケットに入る程の大きさの革袋から取り出したのは、綺麗な石の小箱だった。




 「 ――これは? エイハルンでできた……箱? 」




 「 そうだよ。 結界の力を奇石で作った小箱で封印している 」




 アランが封印している、と言った事で、その小箱の中身がゲシュールに関係するものなのだとすぐにわかった。




 「 この中にオルフェルク一族のやってはいけないことの証拠が? 」




 「 うん、アイツらは手を出しちゃいけないことに手を出していたからね。 クソ親父だけじゃなく一族揃って何代にも渡ってだから腐りきってる 」




 「 そんな―― 」




 皮肉を込めた言葉の中には、隠し難い侮蔑の念が伺えた。


 オルフェルク一族は、ロワイトス王国の建国から教会を設立し、国の安寧を願うため尽力してきた神の眷属の一族だ。


 その一族の者たちが、何代にも遡る頃からレクシュトル神を裏切る行為をしていたことになる。 もしかしたら聖女の件も関係がないとは言い切れないのではないか、と頭の中を過った。




 「 聖女の事もだけど、放置できない状況でさ。 他の部下たちは神聖力が使えるわけじゃないから、動けるのは私くらいなんだよね 」




 大した報告が出来なくてごめんね、と言わんばかりに肩を竦めて見せたアランだったが、これは十分すぎる程の教会の闇だった。――それを独りでアランはずっと調べていたのだろう。




 「 ……何も知らなくて……手助けもできなくてごめんなさい 」




 教会を注視はしつつもそこまで疑っていたことはなく、国の為に必死で動いてきたつもりだったイリスは自分が不甲斐なく思えて項垂れた。


 傍に寄ってイリスの肩を抱きしめ宥めるヘレインも、特大の機密に安易に触れるわけにもいかず、無暗に追及はしなかった。




 「 一族の恥はその血筋がけじめ付けなきゃだからね。 イリスにもメルにも敢えて言わなかったんだ。 だから悔やむ必要はないよ。」




 「 でも―― 」




 「 ――それに、教会の連中はかなり慎重に事を進めていたから、報告できるネタを掴んだのも最近んあんだよね 」




 ヘレインに抱きしめられたままのイリスの頭をアランも優しく撫でる。 四阿の中に吹き抜ける風さえも、イリスを慰めるように頬を擽った。



 

 「 それなら、今ゲシュール化した魔獣が増えて討伐隊が組まれたことすら、協会が関与していそうね 」




 「 ……そうかもしれない 」



 アランは煮え切らない返事だけを返した。




 「 さっきまでヘレインと討伐の悩みを話していたの……私は王宮を守らなければいけないだろうから…… 」




 「 あー……確かに陛下はメルが出征するのに、おチビちゃんまで一緒に行かせる気はサラサラないだろうねぇ―― 」




 「 ――でも聖女様とメル兄様は一緒に出征するのよ! 絶対に危ないでしょう? 」




 「 そりゃあまぁ……魅了されちゃうだろうねぇ 」




 「 魅了? 」




 「 精神操作の能力の一つだよ。 多分あの力は惑わせてターゲットを意のままに操る『 魅了 』の能力だと思う 」




 「 ……確かに惑わせていたわ……私にはお守りを渡すことくらいしかできないのだけれど、アラン何か良い案はない? 」




 「 お守り? 何かメルたちに渡すつもりなの? 」




 目を瞬かせたアランの前に、一つの装飾の施された箱を開いて置いた。


 アランの目に映ったのは奇石エイハルンで作られたブレスレット。 小指の先くらいの大きさの幾つかのエイハルンを、精緻な金細工を施した台座とチェーンで繋げて作られていた。





 「 先日の採取したエイハルンで作ったの? 」




 「 えぇ、王宮用だけじゃなく、少しだけ拝借して四つ作ったのよ! 」




 含み笑いを浮かべるアランと、とぼけてクスリと微笑んだイリス。 すかさずヘレインは言葉を挟んだ。




 「 ――もしかして、私の分もあるのかしら?! 」




 期待を膨らませたようなキラリと瞳を輝かせるヘレインに、イリスはコクリと頷く。




 「 なんて優しい親友なの!! 」




 感極まってぎゅうっとイリスを抱きしめると、イリスもまた優しく抱きしめ返した。




 「 当たり前よ。 特にヘレインは神聖力がないから心配だもの! メル兄様を聖女様が狙っている以上、ヘレインが手を出されたっておかしくないでしょう? 」




 「 ……メル様を狙っているなら……確かに婚約者の私に接触してきてもおかしくはないわね 」




 今のところヘレインは特に聖女から何かされたわけではないようだが、ストーリー通りならあの出会いの夜会で、恋に堕ちたメイロードと聖女を目の当たりにしたヘレインが暴れるシーンがあった。 しかし、実際には二人が恋に堕ちることはなく、むしろ聖女は魅了でメイロードを惑わそうとしたのだ。 ――イリスの力で阻止したのだが。




 「 今後も接触してこないとは思えないわ。 だから念のためにも身に付けていてね? 」




 「 わかったわ。 ありがとう 」




 ヘレインはイリスから自分用のブレスレットを受け取るとすぐに身に付けた。 女性用だからか、更にチェーンは繊細で普段使いにも適した意匠だった。 


 嬉しそうにブレスレットを見つめるヘレインを、慈愛の籠った眼差しで見つめるイリス。 二人のやり取りは信頼し合っているからこそ想いが溢れ、澄みきった空気も更に心地よく感じる程幸せに包まれていた。




 「 それで? 残り三つは誰に? 」




 「 勿論メル兄様とザッシュとアーティによ! 貴女は神聖力が強いからいらないかもしれないけれど……貰ってくれる? 」




 期待の眼差しを向けるアランに問えば、ぱあぁっと瞳は輝き嬉しそうに微笑んだ。




 「 私の分も用意してくれたんだ……嬉しいよ。 大切にする! 」




 まさかアランの神聖力が教皇より強いとは思わなかったので、ブレスレットを用意してしまった。 しかし、きゃっきゃと嬉しそうにはしゃぐブレスレットを身に付けた二人を見ていると、イリスは贈って良かったと心が温まった気がしたのだった。


 チェビルの泉訪問から2日しか経っていないとはいえ、音沙汰がなかったのでイリスはアランのことが心配で堪らなかった。


 王宮に戻ってからすぐに細工師たちに依頼してブレスレットを作って貰い、やっと今日神聖力も込めて用意できたばかり。 このままアランから連絡がなければ、自分から拠点を訪ねる心づもりでいた。





 「 あと、メル兄様の分はヘレインから渡してもらえない? 」




 「 私? 自分で渡さないの? 」




 急なイリスからのお願いに、ヘレインは目を瞬ききょとんとさせて問う。




 「 出征まであと五日しかないでしょう? ……私はザッシュにも渡さないとならないし、他にもやることがあって。 ヘレインからメル兄様に渡してくれたら凄く助かるのだけれど―― 」




 『 駄目? 』とおねだりするようにヘレインを見つめれば、あっさりとヘレインは快諾した。




 「 イリスがそんな気を使わなくても、ちゃんと会いに行くつもりだったわよ? ……でも……ありがとう 」




 ほんのり眦を朱に染めて、ヘレインは嬉しそうに微笑んだ。


 あの夜会からイリスだけでなくメイロードも慌ただしく動いている為、空気を読むヘレインなら遠慮してメイロードに会うのを控えるのではないかと心配しての配慮だったが、喜んでくれたことにイリスはホッとした。




 「 それで、話を戻すのだけれど、このブレスレットをお守りにしても、せいぜい一週間程度しか守れないと思うの 」




 「 確かにこのエイハルンの大きさなら一週間持てば良い方だろうね 」




 「 だから心配なの……恐らく半月以上戻ってこられないだろうから、きっとブレスレットだけじゃ守り切れない。 何か良い案はないかしら 」




 不安を隠せない表情のイリスの頭をアランは再び優しく撫でる。




 「 おチビちゃんの不安はよくわかるよ。 ……ただ、どうやって聖女から守るかだねぇ 」




 不安気に瞳を揺らすイリスを見下ろしながらアランは考えを巡らせた。




 「 ……大した力になれないけど、メルとザッシュのブレスレットの神聖力が尽きる前に、私が神聖力を込めにこっそり行ってあげようか? 」




 「 アーティもジーサロンド領へ行くの?! 」




 「 そりゃローシェスが聖女に付き添って行くんだから行かなきゃでしょ? 」




 驚愕したイリスだったが、アランの言葉ですぐに納得した。


 今回の出征には王宮からメイロードとザッシュウェルの率いる討伐隊の他、教会からも神聖力を持つ聖女や神官が同行することになっている。 その聖女の補佐役として、ローシェス・オルフェルクも同行するのだ。


 異母兄が行く先で何か起こるだろうとアランが目を光らせるのも肯けた。




 「 ――確かに。 それじゃ……ブレスレットの件、お願いしても良い? 」




 「 任せて! ただ、聖女にもクソ兄にも自分の神聖力の件はバレたくないから、状況を見ながらになると思う 」




 アランの状況を把握できたので、無理は言えない事は理解していた。 『 ありがとう 』と感謝の気持ちを伝えると、気持ちを同じように返された。


 

 恐らくこのゲシュール討伐は大きく状況が一変する可能性が高い。


 異常な程魔獣が増えている状況は明らかにおかしく、聖女までゲシュール神の加護を受けた魂に乗っ取られた。 それだけでなく、教会がレクシュトル神を裏切っているかもしれないという。


 メイロードを自分で護れない不安は拭うことができなかったが、それでもアランやヘレインの支えで気持ちを整える事が出来た。



 アランはひととき薔薇の香る紅茶を楽しんだ後、メイロードたちに報告の為二人との時間を惜しみつつも去って行ったのだった。




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