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第8話:魔導鉄道(リニア・ゴーレム)の衝撃

 グラード峡谷に築かれた巨大ダムから放たれる青き魔力は、導魔線を通じてネオ・グラードの隅々まで行き渡り、都市に不夜城の如き輝きを与えていた。

 エネルギーの自給自足。それは、都市が「生存」の段階を終え、広域経済圏の「中心ハブ」へと脱皮するための絶対条件だ。


「……さて、心臓と血管は整った。次は『脊髄』だ」


 俺は執務室で、かつてないほど長大な図面を広げていた。

 それはネオ・グラードを起点とし、隣領や王都、さらには大陸の主要都市を結ぶ広域輸送ネットワーク――『魔導鉄道』の初案だった。


「アレン様。魔導バスの成功で交通渋滞は解消されましたが、今度は隣領からの物資搬入が追いついていません。街道を走る馬車が列をなし、荷降ろしに数日待たされるのが常態化しています」


 リディが持ってきたのは、物流の飽和を示す報告書だ。

 ネオ・グラードの消費能力は、もはや馬車という中世的な輸送手段の限界を遥かに超えていた。一頭の馬が運べる荷物の量と、その移動速度。それがこの世界の経済発展を縛る「物理的な鎖」となっていた。


「リディ。馬一頭の力(馬力)に頼る時代は今日で終わりだ。これからは、数千トンの物資を一度に、かつ魔導バスの数倍の速度で運ぶ時代になる」


「数千トン……? そんな重いものを動かせる魔物など、この世には存在しませんよ!」


「魔物を使うんじゃない。俺たちが道そのものに『意志』を与えるんだ」


 俺はバルカスを連れ、ダムの電力を直接引き込んだ実験場へと向かった。

 そこには、地面からわずかに浮いた状態で設置された、二本の並行する金属性のレールがあった。レールには緻密な魔法回路が刻まれ、ダムからの魔力が流れ込むたびに「反発」と「吸引」の波動を交互に放っている。


「アレン様、この鉄の棒は何だ? ただのレールにしては、魔力の流れが複雑すぎる」

 バルカスが不思議そうに覗き込む。


「親方。これは『リニア・ゴーレム方式』の軌道だ。車輪で走るんじゃない。レールと車両の間に発生させた磁気……いや、魔力反発によって、車両を数センチ浮上させる。摩擦をゼロにし、さらに推進力を魔法陣の連続起動で得ることで、理論上は音速に近い速度まで加速できる」


「浮いて……走る? 冗談だろう」


 俺は実験用の無人貨物車両に魔力を流し込んだ。

 キィィィィン、という高周波音が響き渡り、数百キロの鉄塊が凄まじい加速でレールの彼方へと消えていった。わずか数秒で、それはリディたちの視界から消え去った。


「な……ッ!? 今、何が起きたのですか!?」

 リディが目を丸くして叫ぶ。


「これが『魔導鉄道』だ。摩擦がないから、重い荷物も軽々と運べる。さらにこのレールは、ダムからの魔力をそのまま車両に伝える送電線も兼ねているんだ」


 俺が目指したのは、単なる輸送手段ではない。

 前世で見た新幹線やリニアが、日本の国土を一つに繋ぎ、経済を爆発させたように、この広大な大陸を「時間的」に圧縮することだ。


「バルカス親方。ネオ・グラードから隣領の商業都市まで、馬車で一週間かかる距離を、私は一時間で繋ぐつもりだ」


「一時間だと……!? それじゃあ、朝に隣領で採れた新鮮な魚が、昼にはここのショッピングモールに並ぶってことか?」


「それだけじゃない。人が、情報が、そして富が光の速さで循環し始める。グラードは、この大陸のすべての富を吸い込むブラックホールになるんだ」


 工事は即座に開始された。

 土魔法で地盤を完璧な水平に均し、その上に金属性魔力で精密に精錬されたレールを敷設していく。高架橋やトンネルの建設には、あの3D魔法プリンティングが大活躍した。

 そして、ダムからの高圧魔力を各区画へ分配する変電所ならぬ「変魔所」を駅ごとに設置。


 数ヶ月後。

 ネオ・グラードの玄関口に、白亜の巨大なターミナル駅が完成した。

 そこに入線してきたのは、流線型の滑らかなボディを持つ、銀色の車両『リニア・ゴーレム一号機』だ。


 開通式の日。

 招待された周辺領地の領主たちは、窓の外の景色が飛ぶように過ぎ去る光景に、恐怖すら抱いていた。

「アレン殿……これは、魔法を超えた、何か別の恐ろしい力ではないのか?」

 隣領の主が、震える手で座席の手すりを握りしめる。


「いいえ。これはただの『効率』ですよ。あなたがたの領地で眠っている資源を、最も価値のある場所へ、最も速く運ぶための道具です」


 俺は、時速五百キロで疾走する車両の中で、優雅に茶を啜った。

 かつて「不毛の地」と呼ばれた辺境領は、今や大陸の「脊髄」となった。

 鉄道が通った場所には新しい街ができ、駅を中心に新たなビジネスが生まれる。


「アレン様、王都からの苦情が……いえ、今回は苦情ではありませんでした。国王陛下自ら、この『魔導鉄道』を王都まで伸ばしてほしいとの親書が届いています」

 リディが、信じられないものを見るような目で手紙を読み上げた。


「……ふん。ようやく利便性に気づいたか。だがな、鉄道を引くには『土地』が必要だ。陛下には伝えてくれ。線路を通す場所の地権者交渉は、すべて王家が責任を持って終わらせておいてくれ、とな」


 俺は窓の外に広がる、急速に変化していく風景を見つめた。

 エネルギーを手に入れ、交通を制し、今や物流の王となったネオ・グラード。

 だが、急速すぎる進化は、ついに「国家」という枠組みすらも超えようとしていた。


「次は……『空』かな」


 アレンの独り言に、リディが「もうこれ以上はやめてください!」と叫んだが、その顔には、新しい世界への期待が隠しきれずに溢れていた。

 魔導鉄道の開通。それは、異世界が「近代」の産声を上げ、アレンの理想とする「究極の都市」が完成に向けて大きく舵を切った瞬間であった。

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