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第11話:ネオ・グラード独立宣言と、新国家の設計図

 王都から届いた「領空権侵犯」を理由とする最後通牒は、アレンにとって驚きですらなく、単なる「工程の遅延要素」に過ぎなかった。

 

 ネオ・グラードの執務室。中央のホログラム・テーブルには、ダムの電力と地下の魔導通信網によってリアルタイムで更新される、大陸全土のインフラ・マップが投影されている。青く光る鉄道網、点滅する空港、そして網の目のように広がる魔力供給ライン。


「アレン様、王都の近衛騎士団、および魔導軍団が国境付近に集結しています。その数、およそ三万。彼らは『叛逆者アレンを捕らえ、グラードのすべての施設を王領として接収する』と宣言しています」


 リディの声は震えていた。三万という数は、これまでの小競り合いとは次元が違う、国家総力戦の規模だ。だが、アレンは手元の端末を操作し、淡々とデータの照合を続けている。


「リディ。彼らは勘違いしている。この街は、壁を高くして守る『城』じゃない。世界そのものを支える『心臓』なんだ。心臓を止めたら、その個体がどうなるか……解っていないようだな」


「戦うのですか? この街の自警団だけで、王国の正規軍を相手に?」


「いいや、戦い(戦闘)は非効率だ。私は『構造の変更』を行う」


 アレンは立ち上がり、バルコニーに出た。

 眼下には、魔導バスが走り、人々がモールへ向かい、空港から飛空艇が飛び立つ、活気に満ちた「完成された都市」がある。


「親方、準備はいいか」


 通信用魔導具の向こうから、バルカスの野太い声が返ってきた。

「いつでもいけるぜ、アレン様。ダムの出力は最大、魔導鉄道の全レールに『独立コード』を上書きした。あんたが指を鳴らせば、この街は世界から切り離される……いや、世界をこっちから切り離すことになるな」


 アレンは深く息を吸い込み、魔導放送のスイッチを入れた。

 その声は、ネオ・グラードの街角だけでなく、魔導鉄道の各駅、飛空艇の船内、そして王都の通信所にも同時に響き渡った。


「グラード辺境伯、アレン・フォン・グラードである。王国政府に告ぐ。貴殿らの最後通牒に対し、私は一つの『設計変更』をもって回答する」


 王都の司令部が騒然とする中、アレンは冷徹に言葉を続けた。


「本日この瞬間をもって、ネオ・グラードは王国からの『行政的・経済的独立』を宣言する。これより、本領は新たな国家形態――『都市連合メトロポリス・ユニオン』へと移行する」


「な、何を言っているんだ、あいつは……!?」

 王都で通信を聞いていたバルトロメウス伯爵が叫ぶ。だが、アレンの「工事」は止まらない。


「独立に伴い、インフラの利用規約を改訂する。第一に、王領に繋がる魔導鉄道の全ゲートを封鎖する。第二に、ダムから供給される魔力の対外輸出を停止。第三に、グラード空港を経由するすべての物流を凍結する。……現在、王都の魔力の80%、食料の60%が我が領のシステムに依存していることを忘れないように」


 アレンが指を鳴らした。

 次の瞬間、王都を照らしていた魔導灯が次々と消え、鉄道の車両は原野の真ん中で沈黙した。王宮の豪華なシャンデリアも、魔法式の厨房も、すべてがただの置物と化した。


「これが私の『新国家の設計図』だ。国境という名の壁で囲う古い国はいらない。インフラという名の絆で繋がり、効率と合理性を共有する者たちだけのネットワーク。それが、私の創る新しい国だ」


 近衛騎士団が国境の「壁」を壊そうと突撃を開始した。

 だが、彼らの前に立ちはだかったのは、兵士ではなく「物理的な断絶」だった。

 アレンがダムの膨大な魔力を使い、国境沿いの大地をわずかに「浮上」させたのだ。地下迷宮の浮遊技術を応用した、大規模な土木魔法。

 王国の軍勢は、突如として現れた「底の見えない断崖」を前に、一歩も進むことができなくなった。


「バカな……。山を切り開き、谷を埋めて道を造るのが建築ではないのか!? 道を消して国を分けるなど、そんなのは……!」


「親方、言っただろう。都市計画の極致は、国家すらもインフラの一部にすることだと」


 アレンは、茫然と立ち尽くすリディを見た。

「リディ。君には新しい仕事がある。新しい国の『憲法』を書いてくれ。ただし、それは法律の条文ではなく、『システムの利用規約』としてだ。この街のサービスを受けたい者は、血筋や身分ではなく、規約への同意と、都市への貢献デポジットを条件とする」


「……アレン様。あなたは、世界を一つの『巨大な会社』にしようとしているのですか?」


「いいや、世界を一つの『機能的な家』にしたいだけだ。誰もが蛇口をひねれば水(魔力)が出て、暖かい部屋で眠れる家だ。……それを邪魔する連中がいるなら、その接続アクセスを遮断する。ただそれだけのことさ」


 独立宣言から一夜明けて。

 王都は暗闇と混乱に沈み、一方でネオ・グラードは、これまでと変わらぬ輝きの中で朝を迎えた。

 人々はパニックを起こすどころか、「ようやくあの腐敗した貴族たちと縁が切れた」と、領主の英断を支持する祝杯をあげていた。


 アレンがバルコニーで見つめる先。

 そこには、既存の国家という概念が崩壊し、機能と契約によって結ばれた、まったく新しい文明の形が芽吹いていた。


「さて、独立の記念パーティーの予算を組もう。……リディ、花火の打ち上げは空港の管制に影響が出ない範囲で頼むぞ」


 アレン・フォン・グラード。

 かつての追放貴族、そして元ゼネコン社員。

 彼はついに、一領地の開発を超え、この世界の「OS」そのものを書き換えるという、前人未到の工事に着手したのである。

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