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第9話:地下迷宮のジオフロント化計画

 魔導鉄道の延伸工事は順調に進んでいた。

 だが、王都へと続く山脈の直下を掘削していたシールドマシン(大規模掘削魔法陣)が、突如として強固な「障壁」にぶつかり、停止した。


「アレン様、緊急事態です! 掘削ルートの先に、未発見の巨大な地下迷宮ダンジョンが出現しました。内部からは高濃度の魔力反応と、多数の古代生物の気配が。冒険者ギルドからは『工事を放棄し、封鎖すべきだ』との勧告が出ています」


 リディが届けたのは、土木工事において最も忌まわしい「埋蔵文化財……ならぬ、埋蔵厄災」の発見報告だった。

 この世界において、ダンジョンとは攻略するか、さもなくば封じるべき呪われた場所だ。


「放棄? 冗談じゃない。ここを通らなければ、王都への最短ルートが描けないんだ。それに……」


 俺は現場から送られてきた地下の立体スキャンデータを見つめ、不敵な笑みを浮かべた。

「これだけの容積、これだけの恒温性。そして、天然の防壁。……ここは呪われた場所なんかじゃない。最高の『未利用空間』だ」


「……まさか、アレン様。ダンジョンを『開発』するおつもりですか?」


「その通りだ。コードネーム『ジオフロント・グラード』。ダンジョンを攻略するのではなく、再開発するぞ」


 俺はバルカスを連れ、武装したゴーレム部隊と共に、シールドマシンが穿った穴からダンジョンへと足を踏み入れた。

 内部は、古代の魔法文明が残したと思われる石造りの広大な空間が広がっていた。天井は高く、通路は無数に枝分かれしている。


「おいおい、アレン様。ここは魔物の巣だぜ? ほら、向こうから『岩石蜘蛛ロック・スパイダー』の群れが来やがる」


 バルカスが槌を構える。だが、俺は片手を挙げて彼を制した。

「無駄な殺生は必要ない。彼らもこの空間の『先住権』を主張しているだけだ。リディ、あらかじめ用意しておいた『忌避魔法陣』の杭を各所に打ち込め」


 俺が考案した杭は、魔物が嫌う特定の周波数の魔力を放つ。これは現代の「鳥避け」や「害獣対策」の応用だ。

 襲いかかろうとしていた魔物たちが、嫌悪感を示して奥へと退いていく。


「さて、まずはこの空間の『用途変更コンバージョン』だ。親方、見てくれ。この第一階層の気温は、一年を通じて15度前後で安定している。これは、生鮮食品やワイン、魔導薬の『天然の冷蔵倉庫』に最適だ」


「倉庫だと? こんな不気味な場所にか?」


「不気味なのは、照明と空調がないからだ。すぐにダムからの電力を引き込み、LED魔法灯を設置しろ。壁面には3Dプリンティングで断熱材と防水層を吹き付ける。ここはネオ・グラードの食料自給を支える『大深度地下物流センター』に生まれ変わる」


 俺のこだわりは止まらない。

 ダンジョンの深い階層にある強力な魔力溜まりを、そのまま「地熱・魔力ハイブリッド発電」の熱源として利用。さらに、複雑に入り組んだ迷宮の構造を逆手に取り、音響効果を計算した「地下コンサートホール」や、地上よりも静粛性が高いことを活かした「精密魔導機器の工場」まで設計図に描き加えた。


「アレン様……これでは、魔王の住処がショッピングセンターの地下街のようになってしまいます」

 リディが、呆れ半分、感心半分で呟く。


「それがジオフロントの真髄だよ、リディ。地上の土地には限りがある。ならば、縦に伸ばすか、下に掘るかだ。ダンジョンは、神が与えてくれた『ボーナス・スペース』なんだよ」


 数週間のうちに、かつての地下迷宮は、白亜のパネルと明るい光に包まれた近代的な空間へと変貌した。

 魔導鉄道の軌道は、この地下空間のど真ん中を貫くように敷設され、地下駅「グラード・ダンジョン・ターミナル」が誕生した。


 地上では、夏場に悩まされていた生鮮食品の腐敗が、地下倉庫の稼働によって一気に解消された。さらに、冷房完備の「地下街」は、夏の猛暑から逃れたい領民たちの新たな憩いの場となった。


「冒険者が命をかけて潜る場所で、奥様方がお茶を飲んでいるなんて……。歴史学者が卒倒しますよ」

 リディが、地下街のカフェで楽しそうに過ごす人々を見てため息をつく。


「いいじゃないか。攻略されるのを待つだけのダンジョンより、人々の役に立つ地下街の方が、ダンジョン自身も本望だろう」


 だが、この地下開発の成功は、思わぬ副産物を生んだ。

 地下深くを掘り進めた結果、俺たちは古代の「通信記録媒体(魔導ディスク)」を発見してしまったのだ。そこには、この世界の物理法則を根底から覆すような、超高度な「浮遊技術」の断片が記されていた。


「……アレン様。もしや、これを使えば……」


「ああ、リディ。鉄道の次は、『空』の番だ。大陸すべての距離をゼロにする、真の広域都市計画が始まるぞ」


 アレンの視線は、もはや地下から空へと向いていた。

 地下迷宮を都市のインフラとして手懐けた男は、ついに重力という名の制約すらも、自らの「設計図」の中に組み込もうとしていたのである。

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