第8話 妖精たちの『歓待』
扉を開けると、その先には今いる場所と同じような夜の草原が広がっていた。
丈の短い草花が見渡す限り広がっており、空には圧巻の星空が煌めいている。
見慣れた光景すぎて、最初、そこが別の場所(階層)だと気が付かなかった。
だが、『星の妖精』たちが楽しそうに会話しているのを発見し、扉の先がセーフエリアではないことを理解する。
『ネアセ、オト、サリーフ
《丸焼きにしよう》』
『バマイム、タブイー、オト
《いやいや、水責めだ》』
『ネハレーク、オト、レハーミシャー
《まずは5つに分けよう》』
『ケーン、ナアセ
《そうしよう》』
星の妖精。
クリスマスツリーの頂上に乗ってる星の装飾に、天使の人形の首から下を切り取ってくっつけたような、可愛らしい見た目の(たぶん)モンスター。
赤や青、緑といった様々な色がいる。
向こうも俺の存在に気がついているようで、こちらを見ながらよく分からない言語で打ち合わせを行っている。
(めっちゃ楽しそうなのは伝わってくるけど、
何言ってるのかぜんぜん分からん。
でも、嫌な予感はする。
見た目はファンシーだが、ここはダンジョン。
あいつらを刺激しないよう静かに動きつつ、
いつ襲ってきても良いように警戒はしておこう)
俺はそっと中に入り、ゆっくりと扉を閉める。
そろり、そろり。
妖精たちから視線は逸らさずに、次の扉を探す。
『ゲイル・サイズ!』
「やっぱ攻撃してくるよな!」
やり過ごせるかと思ったが、そんなことはなく。
緑の妖精たちが、一斉に鎌鼬を飛ばしてきた。
風の斬撃が、プロ野球選手のピッチング並みの速さで迫ってくる。
普通なら、目で追うだけで精いっぱいの速度だ。
(あれ、なんかスローモーションに見える?)
不思議なことに、動体視力が尋常じゃないレベルで上がっている。
攻撃が描く軌道を、瞬時に理解できた。
俺は冷静に、横へ飛んで回避する。
―――ドォォォンッ!
背後にあった木が風の斬撃によって倒れた。
反射神経もおかしい。
格闘技の世界チャンピオンよりも精錬された動きで、攻撃を無駄なく回避することができた。
俺はまったくの別人に生まれ変わったみたいだ。
(俺の体すげぇ!
贅肉消失&筋肉質になって動きやすくなったと思ってたけど、予想以上だ。
今なら、どんな競技でも世界1位を取れる!)
恐怖もまったく感じていない。
あるのは、口角が上がってしまうほどの全能感と、この力を何かにぶつけたい闘争心のみ。
無論、ぶつける対象は『妖精さん』だ。
「武器がないなら、殴ればいいか」
マリーアントワネットもびっくりの発言。
こんなこと言っておいてアレだが、
個人的には、相手がモンスターだからと言ってむやみに暴力はふりたくない。
家に入ってきた虫も、殺さず逃がしてやっている。
そんな平和主義者な俺だが、
向こうから手を出してくるなら話は別だ。
可愛らしい見た目をしていようと関係ない。
刃物を投げつけられても怒らない奴なんてこの世界には存在しないし、攻撃的なモンスターを笑って見過ごす奴も、現代の日本人のなかには1人もいない。
たぶん。
「まずはお前だ」
次々と飛んでくる鎌鼬を避けながら、殴れる距離まで接近する。
そして、1番近くにいた緑の妖精に顔面フルスイングを決めた。
―――パリンッ!
妖精の顔面に拳をぶち当てると、ガラスが割れるような音とともに、星型の頭が盛大に砕け散った。
『キャャャャャャャャャャッ!』
頭を失った妖精は甲高い断末魔をあげた後、
霧のようにスゥ〜と消えてしまった。
『ニルツァフティ!
《仲間が殺されてしまった!》』
『ロ・エスラハ!
《ゆるせない!》』
仲間を殺された妖精たちは、興奮しながら謎の奇声をあげる。
(相変わらず何言ってるのか分からないが、
たぶん怒っているんだろう。
そっちが先に手を出してきたんだから、
キーキー逆ギレされても困るんだけどな)
『パイロ・スフィア!』
『アビス・パール!』
赤の妖精が特大の火球を、
青の妖精が特大の渦潮を、
俺めがけて飛ばしてきた。
どうやら妖精たちの色と、扱う魔法の属性は連動しているらしい。
緑なら風属性、赤なら火属性、青色なら水属性。
大変分かりやすくてありがたいが、結局のところ、属性関係なく直撃すれば只では済まなそう。
俺はベテランパルクーラーも驚きの身のこなしで、すべての攻撃を避ける。
そしてそのまま、
―――パリンッ!
―――パリンッ!
―――パリンッ!
―――パリンッ!
妖精たちを破壊し尽くす!
キラキラと爆散する演出。
気持ちのよい効果音。
彼らには申し訳ないが、とても中毒性がある。
俺はものの数十秒で、8体の星を殴り壊した。
「ふぅ。
アクションゲームみたいでストレス発散になるな」
額の汗をクイっと拭う。
とりあえず、見える範囲のモンスターは倒した。
このくらいの相手なら、余裕を持って戦える。
次の階層に進んでも大丈夫だろう。
「次の扉を探さないと。
―――って」
不意に、視界の端に『流れ星』が映った。
それは、満天の星空からゆっくりと降下し、
音もなく地上に降り立つ。
『ゼ・ロ・ニグマール
《まだまだ終わらないよ》』
流れ星は大量に降り注ぐ。
「弱いと思ったら、無限湧きかよ」
倒した数の倍を超える妖精が、新たに出現した。
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「あった、やっと見つけた!」
倒してもキリがないと分かってから、
俺は次の階層へ続く扉を探すことに集中した。
学校の校庭ほどの広さしかなかった第6階層とは違い、第7階層は静岡県の浜名湖くらいの面積を有していた。
暗闇の中、広大な草原にポツンと設置されている扉を、モンスターの攻撃を避けながら探すのは容易ではない。
1時間以上、モンスターの攻撃を避けて、逃げて、時々、ぶん殴ってストレス発散して、少し疲労が溜まり始めた頃に、やっと見つけた。
『アル・タナハ・オト!
《絶対に逃すな!》』
『サン・バースト!』
強烈な光線がスーツの端を焼いた瞬間、
その輝きが夜の草原に佇む扉を照らした。
茶色のペンキで塗られた、何の変哲もない扉。
この階層に来る時に通ったのは白い扉だったので、あれが次の階層の扉であると瞬時に理解できた。
セオリー通りであれば、
次の階層にはもっと面倒な敵がいるはず。
深く潜るほどモンスターが強くなっていくのは、日本人なら誰でも知っているダンジョンの常識だ。
そのため、このまま無理に突き進むよりかは、一度、セーフエリアに引き返して体勢を整えた方が得策ではある。
「だが、俺は突き進む!」
魔王と出会って母の遺言を思い出す前の俺なら、もしかしたら、石橋をコンクリートで舗装してから渡っていたかもしれない。
母に楽をさせてあげるために、『勉強を頑張って上場企業に就職』することを選択するくらいには、俺は堅実な道を選ぶ男だ。
だが、
今の俺には明確な『勇気』と『決意』がある。
魔王との賭けに勝利した自信が『どんな状況でも己を奮い立たせる勇気』を育み、大好きだった母の願いが『この世界で己を貫き通す決意』を燃やした。
本当に危なくなったら、その時に引き返せばいい。
まだ余裕があるのに尻込むのは違うだろう。
それじゃ、いつまで経っても自由にはなれない。
俺は絶対に、自由を手にいれる。
俺はドアノブを掴んで一気に扉を開き、勢いよく中へ飛び込んだ。
『アッハ、フー・バラフ・ラヌ
《あーあ、逃げられちゃった》』
『ラツィーヌ・レホリグ・オトー・ビヤデイヌ
《僕たちの手で殺したかったのに》』
『バトゥアハ・イットハレート
《でも、彼はきっと後悔するだろうね》』
―――キャキャキャキャキャ。
扉を閉める直前、
背後から、妖精たちの笑い声がした。
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『アイテムポーチ』(新着欄)
・星妖精のインク(緑) ×7
・星妖精のインク(赤) ×9
・星妖精のインク(青) ×6
・星妖精のインク(銀) ×6
・星妖精のインク(茶) ×8
・星妖精のインク(黄) ×5
・星妖精のカケラ ×3
・マナストーン(小) ×2
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