↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/45

第45話 副将戦は『ルナリアVS銀老』・中編

【引き続き、ルナリア視点】


Q:体毛を操るモンスターの対処法は?


A:丸焼きにすればいいんじゃない?


 実に短絡的で、理想論的なアイデア。

 だが、私にはそれを実行するだけの魔法《ちから》がある。


「ソル・プロミネンス!」


 杖の先から、太陽フレアの如き極大の炎が迸《ほとばし》る。

 狙うは、無数の銀腕を蠢《うごめ》かせる老猿――銀老。


『受けて立とうぞ!』


 長年封印されていた銀老は、

 久方ぶりの強敵に嬉々として嗤う。


 体毛で編み上げられた腕を前へと突き出し、先端を掌のように大きく広げて炎の波を迎え撃った。


――バアァァァァァァァンッ!


 灼熱の爆発が空間を揺らす。

 濛々と立ち込める爆煙。

 やがて煙が晴れると……。


 そこに、銀老の姿はなかった。


(消えた……!?)


 見失った。

 警戒しながら、敵を見つけ出すために目を凝らす。


 だが、最悪の気配は――


『――後ろじゃよ』


 背後から、鼓膜にへばりつくような粘着質な声。


「プロテクション・ドーム!」


 私は咄嗟に振り返り、

 半球状の防御結界を展開した。


『千手銀剛《せんじゅぎんごう》・蹂連拳《じゅうれんけん》!』


 ドンッ! ドガンッ! ズガンッ!!


 四方八方から、結界が乱打される。


『ホホホホホホホホ!

 叩いて叩いて、

 肉を柔らかくほぐしてやるわい!』


――キィィィィィィィッ!


 結界が悲鳴を上げる。

 このままでは近いうちに破られてしまう。


 何か次の一手を打たなければ。

 私は結界の中から、冷静に敵を観察した。


 結界を殴りつけている銀色の剛腕。

 それは、全部で42本ある。


 そしてよく見ると、

 そのうちの26本は、

 先端が黒く焦げ落ちている。


 ここから導き出される考察は2つ。


 つまり、さきほどの『ソル・プロミネンス』を防ぐために必要な腕の本数は26本だったということ。


 そして、たとえ焼き払ったとしても、毛根さえ残っていれば瞬時に再生されてしまうということ。


(……すっごくやっかいね)


 この術を封じるには、『ソル・プロミネンス』を超える火力で、毛根一つ残さず焼き尽くすしかない。


 ただ、そうなってくると一つ大きな問題がある。


(こんな場所で超火力の魔法をぶっ放しちゃうと、みんなを巻き込んじゃう……!)


 今、私の周囲では、

 いたるところで激戦が繰り広げられている。


 仙猿皇《せんえんこう》と楽しそうに殺し合っているサトー。

 赫猿魔《ゴア・エイプ》の群れに決死の突撃を仕掛ける竜人たち。


 彼らのためにも、

 この場所から急いで離れなければならない。


(そのためには――)


 必死に思考を巡らせているなか、


――不意の違和感。


 突然、足元がぐらりと揺れた。

 何かが、地中深くで蠢《うごめ》いているような嫌な感覚。


「フライ!」

「シェル・ベール!」


 本能が告げる危険信号。


 私はすぐに飛行魔法と、

 自身を包む薄皮の防御魔法を展開した。


 次の瞬間。


――ドォォォォォォンッ!!


 地中から巨大な銀色の腕が突き上がる。


 プロテクション・ドームの弱点。

 それは、『足元』からの攻撃だ。


 間一髪で結界を解除し、

 飛行魔法で攻撃の隙を縫って空へと離脱する。


 だが、完全には避けきれなかった。


「ッ……!」


 右足の太ももを、鋭い剛毛が掠める。


『おしい!』


 シェル・ベールで全身を覆っていたおかげで致命傷にはならなかったが、皮膚の下を強く殴られたような鈍い痛みが走る。


『まだまだじゃあ!』


 逃がすまいと、

 銀老がさらに無数の腕を上空へと伸ばしてきた。


「ソル・プロミネンス!」


 迫り来る銀腕の群れを炎で焼き払い、

 強引に道をこじ開ける。


 私はそのまま、

 一気に上空へと逃れることに成功した。


『ハエのようにちょこまかと逃げ回りおって。

 撃ち堕としてやるぞ。

 千手銀剛《せんじゅぎんごう》・蝶腕翼《ちょうわんよく》!』


 眼下で、

 銀老が自らの体毛を操り、

 巨大な蝶のような羽を形成した。


 白銀の羽自体はとても美しい。


 だが、それが『体毛』でできていることと、

 本体が『醜悪な老猿』であることを思うと、

 控えめに言って最悪のビジュアルだ。


 銀老が羽ばたき、猛烈なスピードで追尾してくる。


(ちょうどいいわ。

 このまま飛んで、この場所から離れる!)


 超火力の魔法をぶっ放すための、安全圏へ。


『逃げるな小娘!

 千手銀剛《せんじゅぎんごう》・銀砲弾《ぎんほうだん》!』


 銀老の腕が筒状に変形する。


 そこから放たれたのは、

 闘気で極限まで圧縮された強烈な毛玉の大砲だ。


 体毛を操るという一見地味な能力だが、闘気と合わさることで恐ろしいまでの汎用性を誇っている。


 ヒュンッ! ドガンッ!


 空気を引き裂きながら、

 無数の砲弾が殺到する。


 私は飛行魔法を駆使し、

 バレルロールで躱し、

 急降下で軌道を逸らす。


 頬を掠める砲弾に背筋を凍らせながら、

 必死で空を駆け抜けた。




 かなりの距離を離れた。


 人影はない。

 眼下に広がるのは、雄大な大河だけ。


(……ここまで来れば大丈夫。

 ――さぁ、決めるわよ)


 私は空中で反転し、

 猛追してくる銀老と正面から向き合った。


『……もう逃げないのか?』


 獲物を追い詰めたと確信したのか、

 銀老がいやらしい笑みを浮かべる。


 私は静かに杖を構えた。


「えぇ、このあたりがちょうどいいわ。

 あんまり遠くへ離れると、

 あなたを倒した後、帰るのが大変だもの」


――場は整った。出し惜しみはしない。


「ソル・ネメシス」


 私が扱える、最大火力の炎属性魔法。


 全魔力量のおよそ8割を消費する代わりに、

 すべてを灰燼に帰す絶望の炎。


 銀老の眼前に、

 小さな、

 本当に小さな火球がフワリと現れる。


 次の瞬間。


――バアァァァァァァァアアアアンッ!!!


 火球は一瞬にして何百倍にも膨張し、

 大気を呑み込み、

 視界を白に染め上げた。


 空中に第二の太陽が生まれたかのような、

 圧倒的な閃光と熱線が弾け飛ぶ。


 私は自身に防御魔法を二重にかけ、

 凄まじい衝撃波と熱波に耐える。


 轟音が過ぎ去り、

 すべてを焼き尽くした衝撃が静まった後。


 私はゆっくりと前方を確認した。


 何もない。

 銀老の姿は、完全に消滅していた。


(倒した――)


 いや。

 私は微かに残る、銀老の闘気を感知した。


 視線を向ける。


 約300メートル先の林に、巨大な『丸い綿』のようなものが引っかかっていた。


 表面は真っ黒に焦げているが、

 綿の中身は無事な様子だ。


 その綿がシュルシュルとほどけていく。


――そして中から、あの老猿が姿を現した。


 爆発の直前。


 奴は全身の毛を限界まで伸ばし、

 自らを包み込む巨大な綿帽子を形成したのだ。


 その結果、爆発による突風を帆のように受けて後方へと吹き飛ばされ、致命的な熱線をやり過ごしたというわけだ。


『ホッホッホ!

 ちと激しい爆風じゃったが、

 この通り、無傷じゃ』


 長い髭を撫でながら、

 銀老は底意地の悪い笑みを深める。


『さて、娘っ子のほうは――

 ホホホ、すっかり燃料切れじゃな!』


 銀老の嘲笑が、森に響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。