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第32話 王との『一騎打ち』

『レウー・テヴァフ

 《殺戮の刻だ、刮目せよ》』


 玉座に腰かけていた闘技場の王(ラスボス)が、観戦者であるゴブリンたちに向けて腕をかかげた。


『『『ギャギャギャギャギャギャギャッ!』』』


 瞬間、場内がさらに湧き立つ。


 王はその様子を見て満足そうに笑うと、


――ダァァアンッ!


 座ったままの姿勢から、強烈な跳躍。


 闘技場の中心に降り立った。


『ボー・エライ!

 《さぁ挑戦者たちよ、かかってこい!》』


 腕を組んで仁王立ち。

 俺たちを真っすぐ睨みつけている。


 相変わらず何を言ってるのかよく分からない。

 でも、なんとなく「かかってこい」と言っているような気がする(正解)。


「皆はあそこに座って、俺の戦いを見ていてくれ」


 俺が戦っている間、皆にはゆっくり休んでほしい。


 そう思っていたら、ちょうど観客席に空きがあったので、俺は皆にそこへ移動するよう促した。


 ゴブリンと横並びで座ることになるが、座れるだけマシだろう。


 そう思ったのだが、


「本気で言ってるんですか、アニキ!

 アイツら絶対襲ってきますよ!」


 ミゲルが拒否感を示す。

 モンスターと一緒に座るのが嫌なようだ。


 けれど、


「わたし、ゆっくり座って観戦したい。

 ゴブリンの隣はミゲルに任せるわ」


 ルナリアはそう言って、さっさと観客席の方へ飛んでいってしまった。


「「「あ、じゃあ、俺たちも」」」


 他のメンバーも、ルナリアの後に続く。

 彼女と一緒にいた方が安全だからだ。


「え、お前らヒドくないか!?」


「何かあったら、わたしが何とかするわ」


「クッ……ルナリアのアネキがそう言うなら」


 ミゲルにとって、

 俺はアニキで、

 ルナリアはアネキだ。


 舎弟は舎兄に逆らえない。


 ミゲルはしぶしぶ、ゴブリンの隣に腰をおろした。


『ギャッ!?』


「あ、ちす……」


 あそこだけなんか気まずそう。




(よし、やるか!)


 闘技場に1人残った俺は、意気揚々と前へ出る。


 相対するは、ゴブリンの巣食う迷宮の主。

 ゴブリンの完全上位種『悪鬼《オーガ》』である。


 ジェネラルゴブリンより、ひと回りもデカい。


 全長4メートル超えの、黒光りする巨体。

 鍛え抜かれた黒鉄のごとき肉体は、そこらの防具よりよほど堅牢そうであった。


 手には武器を持っていない。

 ステゴロで戦うつもりなのだろう。


『アタ・マザルゼル?

 《貴様、舐めているのか?》』


「……(だから、なんて言ってるんだ?)」


『アニ・メレフ! ロー・トゥカル・レヴァド!

 《我は王!貴様1人では話にならない!》』


「……(誰かホンヤクコンニ○ク持ってない?)」


『クラム・アライ!

 《全員でかかってこい!》』


(……なんだコイツ、めっちゃ興奮してるな)


 マジで何言ってるか分からない。


 分からないが、俺の返答は変わらない。


「グダグダ言ってないで、はやく殺《や》ろうぜ!」


 相手がステゴロでくるなら、俺もステゴロでいく。

 俺は軽く構え、手でクイクイと挑発してみせた。


『ティペシュ!

 《愚か者が!》』


 格下だと思っている相手の挑発。


 オーガは激昂し、


『グランド・スタンプ!』


 地面を力強く踏み抜いた。


――ゴゴゴゴゴゴオッ!


 瞬間、地鳴りとともに闘技場全体が大きく揺れる。

 震度7はあろうかという揺れだ。


「うお、めっちゃ揺れる!」


 完全に虚を突かれ、思わず体勢が崩れる。

 その一瞬の隙を、オーガは見逃さない。


『レイジ・フィスト!』


 オーガの右腕が灼けた鉄のように輝く。


 次の瞬間、


 オーガはとんでもない速度で距離を詰め、

 燃える拳を振り下ろしてきた。


「さすがラスボス!

 血がたぎるなぁオイ!」


 ジェネラルゴブリンなんか目じゃない。

 明らかに格の違う強敵を前にして、俺の興奮は一瞬でMAXまで跳ね上がった。


『アイアン・ボディー!』


 俺は咄嗟に、防御スキルを発動する。


 アイアン・ボディー。

 肉体の強度を一定時間、飛躍的に上げるスキル。


 これは本来、被ダメージを抑えるためのスキルだが、俺は防御する気なんてサラサラない。


 これは、オーガを迎(・)え(・)撃(・)つ(・)ための肉体強化だ。


「どっちが強いか、力比べしようぜ!」


――ガキィィィィンッ!!


 攻撃スキルで強化されたオーガの拳と、

 防御スキルで強化された俺の拳。


 2つの拳が、衝撃波を生みながら激突する。


『『『ギャギギッ!?』』』


「「「うおぉぉぉお!?」」」


 地震+衝撃波で、観客席は騒然となる。


 そんな外野の反応には目もくれず、

 俺とオーガは互いの拳に集中していた。


「痛ってぇ〜!

 ――けど、力比べは俺の勝ちだな!」


 わずかだが、俺の方が押し勝った。


 全長4メートルの筋肉ダルマ相手に力比べで勝つとか、我ながら意味が分からない。


 俺の肉体、おかしすぎるだろ。


『……マ・ハコアッハ・ゼ?

 《……なんだ、その力は?》』


「戦いは始まったばかりだろ?

 まだまだ殺《や》るよなぁ!」


 完全にキマっている。

 もう、俺の衝動は止められない。


 先攻は譲った。

 なら次は、こっちの番だ。


――ダダダダダダダッ!


 こうして、激しい肉弾戦が幕を開けた。




『ガァァァ――ガグッ!』


――ズザザザザザッ!


 オーガの横腹に、俺の蹴りが突き刺さる。

 その衝撃で、巨体が数メートル吹き飛んだ。


 戦況は圧倒的にこちらが優勢である。

 パワーもスピードも、完全に俺が上だった。


 オーガは何度も地面に叩きつけられ、

 起き上がるたびに息が荒くなっていく。


「そろそろ、ケリをつけようか」


 ラスボスといえど、所詮は☆1ダンジョン。

 星画天蓋のラスボスの方が厄介だった。


 これ以上戦っても、俺の欲求は満たされない。


――そう思っていたが、


『……マキール・ アタ・ハザク。

 《……認めよう、貴様は強い》』


 オーガは蹴られた腹を押さえながら、ゆっくりと幽鬼のように立ち上がった。


『タヴィウ・エト・ゼ!

 《アレを持ってこい!》』


 仲間のゴブリンたちに、何かの合図を送る。


 次の瞬間、


――プゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!


 闘技場全体に響く、巨大なラッパの音。


 その直後、


――ズチャ、ズチャ、ズチャ、ズチャ。


 4匹のジェネラルゴブリンが、まるで神輿のように巨大な斧を担いで現れた。


「武器を使うのか。

 じゃあ、俺も」


 愛剣『ナイト=ペイン』を取り出し、構える。


 オーガはその大斧を両手で握り、


『ヨトゥン・アックス』


 大木を叩き切るような一撃をくりだした。


(もう一度、力比べか!

 いいぜ、何度でもやってやる!)


 その攻撃に合わせて、俺も剣をぶつける。


 力も速度も、今までなら俺が上だった。

 だから今回も押し勝てる。


 そう思ったが、


――ダアァァァァンッ!


 吹き飛ばされたのは、まさかの俺だった。


 視界が回転し、両腕に強烈な衝撃が走る。


 オーガのパワーが、明らかに跳ね上がっていた。


「サトー、大丈夫!?」

「アニキ!」


 仲間たちが心配の声をあげるが、その声はゴブリンたちの大歓声によってかき消される。


――ガラガラガラ。


「いてぇなぁ――だが、」


 俺は瓦礫にもたれかかりながら、


「そう来なくっちゃツマラネェよな!」


――アハハハハハハハハハハハッ!


 歓喜の雄叫びを上げた。

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