101号室 佐野 泰成
平子は薄暗いマンションに配達に来ていた。
配達員をしていると他の人では気づかないことに気づくことがある。
平子は薄暗い小さな3階建てのマンションの前にトラックを止め、慣れた動きでトラックから降りた。その時、メガネをかけた男性がゴミ捨て場にゴミを捨てているのを平子は目撃した。ゴミを置くと「ガシャン」という高い金属音がした。ゴミ捨て場には燃えるゴミと書かれていた。ふと、平子はある貼り紙が目に留まった。それはゴミの分別をしてない人への注意の貼り紙だった。ゴミの分別をしない犯人はその男性だったのだ。気づいた時には男性はいなくなっていた。我に返った平子は宛先に「佐野泰成」と書かれたダンボール箱と「流川翼」と書かれた小さな荷物を抱えながら101号室のインターホンを鳴らした。すると、さっきの男性が出てきた。佐野は受け取りサインを書いている。平子は何気なく佐野の部屋を玄関先から覗いた。そこにはスパナやドライバーなどの工具がきっちりと机に並べられているのが見えた。佐野が書いた受け取りサインを見ると丁寧に書かれていた。平子はおそらく佐野は普段からきっちりした人なのだろうと推測した。だが、ゴミの分別はしない。自分さえ良ければそれでいいタイプなのだろうと平子の頭の中で勝手な想像が広がった。平子は「流川翼」宛ての荷物を届けるため階段を上った。流川翼は留守だった。
配達センターに戻った平子は「転生探偵」の話を石飛にしていた。
「今日のトリックはすごかったんですよ!出てきた登場人物の名前を並べると犯人の名前になってたんです!石飛さんも読んだ方がいいですよ!」
平子は興奮を抑えきれない様子で「転生探偵」の話をした。ここ最近はずっとその話をしている平子に石飛は自分の小説のページを見せた。
「だったら俺のも読んでくれよ〜。」
頼む石飛に平子は冷静に言う。
「石飛さんのは転生ものの良さが出てないんですよ。転生ものってみんながなりたいなって思うようなものに転生するから面白いんですよ。」
平子は石飛にダメ出しをした。
「うわ、ちゃんとダメ出しするじゃん。ダメ出しされるにしてもまだ心の準備出来てないのに…!」
ショックを受けたのか石飛は拗ねた子どものようにぶつぶつ言いながらスマホに目を向けた。