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意識高い系女子登場

ー午後23時ー


おれは電車の中吊り広告に掲示されていたグラビアアイドルをボーッと眺めながら先程会議で言われたことを思い出していた。


「謝罪を受けてくれなかったのはお前の誠意が見えなかったからだ」

「挽回のチャンスをもらわなかったのか」

「やる気はあるのか」


2時間に渡る会議(説教)を終え、上司に命じられるがままの顛末書を作成したおれは、クタクタになってようやく帰路に就く。


何が悲しいかって、罵倒されて悔しかったり、自分は精一杯やったのにって腹が立つことすらしないことだった。


歳のせいからなのか、独身で養う家族がいないからなのか、一体この感じはなんなんだろう。

10年後もこのままの人生でいいのだろうか。目標も何も持たず、ただ毎日同じ日々の繰り返しを生きる。

まぁ考えるだけ無駄なことだし、余計な思いは断ち切ろう。


おれはもう一度中吊り広告に目をやる。


ただ…こんな可愛いアイドルみたいな子と付き合ってみたかったな。


おれは短くため息をつき視線を正面に戻す。


あれ?そういやおれの真向かいで本を読んでる女、あのグラビアアイドルにそっくりだな。

どんな本を読んでるんだろう。


おれは何気なく女が持っている本のタイトルを見た。


『とにかくまずは苦手をなくそう

〜本気で自分が変わるための本〜』


うわ。自己啓発本かよ…

おれの今まで生きてきた経験上、自己啓発本を愛読するような女とはまず仲良くなれない。


相手だってこんな意識低い系の男は嫌だろうし、おれ自身まず一緒にいてすごく疲れる。

一度ツレに紹介してもらった女と飯に行った時、四六時中夢について語らせられたのを今でもよく覚えている。

夢なんてねーよ。


頭の中は下心しかなくて、その女に必死にありもしない夢を語ったっけな。


「よく分かんないけど、今の自分を変えて とにかくビッグになりたい」

「あら、素敵な夢じゃない。じゃあ、その夢はいつ叶えるために今何をやっているの?」


そんなこと聞かれてその後なんて答えたか覚えていない。

もちろん、その日以来その女とは連絡を取り合うことはなかった。


ああいう人種って、自分が頑張ってるのは結構だけど人にまでそれを強要しようとするんだよな。何のメリットがあってそんなことするんだか。


それにしてもこの子は可愛い子だな。


健気に頷きながら読んでいる姿が可愛い。

社会人になりたてだろうか。

白いジャケットにタイトなスカートを着ているが、仕事が出来そうというよりは、仕事をとにかく真面目に頑張っていますというような雰囲気が出ている。

見たところまだ20代前半だし休日なんかはもっと派手な服を着るんだろうな。


そんな風に思っていると、電車が大きく揺れ、その拍子に女のカバンから天然水の入ったペットボトルが飛び出しこちらに転がって来た。


「あぁ…すみません」


転がって来たペットボトルを拾うと女はふらつきながらも慌ててこちらの方まで取りに来る。


「いえ、足下大丈夫ですか?」

「ありがとうございます。電車内で歩くのに慣れなくて…」

「なるほど…

それならとにかくまずは苦手をなくそう」


「えっ…」


しまった。

読んでた本を捩ってちょっとしたジョークのつもりで言ったのだが、なんで自分が今読んでる本をおれが知っているのだと不審に思っただろう。


「いや、おれもその本読んだことあって、読んでるのを見つけて嬉しくなってさ…」


おれが言うと女は途端に明るくなる。


「えー!この本読んだんですか?この本、たまたま知人に勧められて読んだんですけどすごく嬉しいです。じゃあ、この著者の『やる活は二度付OK』はもう読まれました?」


「あ…あぁ、昔借りて読んだよ。いいこと書いてたよね。」


なんじゃそのタイトルはと思いながらもついウソをついてしまう。

何よりキラキラしているこの子がすごくかわいくて見栄を張りたい気分になる。

おれの悪い癖だ。


「えーさすがです!やる気がある方って素敵ですね。お仕事もいつもこれくらい遅いんですか?」

「まぁ今日はたまたまだよ。仕事でデカい契約が取れてそれの対応に追われててね」


一応ウソはついていない。


「そんなに仕事も充実してて、いろんな本も読まれてるなんてすごくカッコいいです。

よかったら仕事で行き詰まってる私にいろいろ教えてほしいです」

「教えれるほどのことなんてないけどおれでよければ。じゃあ、連絡先でも交換しよっか」

「えー!いいんですか!お願いします」


サラッと言い退けたが内心すごく嬉しい。

連絡先なんてここ最近キャバ嬢としか交換してなかったからな…


お互いの連絡先を送信し合う。


「西野優奈ちゃんね。おれにもオススメの本とかあれば教えてよ」

「是非是非。真鍋さんですね。今後共よろしくお願いします。

あ、私この駅なんで失礼します。またお会いしましょう」


電車の急停止に優奈はまたもやふらつきながらも笑顔で去って行った。


歳は10歳くらい離れてるが、すごく明るくて可愛らしい子だったな。


おれは今日何度も見た中吊り広告に再度目をやりながら思い出す。


それにしてもおれはさっきまで何を悩んでたんだっけ。

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