表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
純白のギャンブラー~王都カジノの少女賭博録~  作者: レブラン
4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/69

68話 友達という幻想、雨と抱擁

 パチパチと、乾いた拍手が響いた。

 あたし達は釣られるように静まり返る。

 そうだ、この戦いの結末をローズさんとリーシャ様が見届けていたんだ。


「感動的だね。まるで死地から舞い戻った真の戦士みたいじゃないか」


 あたし達のギャンブルを観覧していたローズさんが、穏やかな口調でそう仰った。

 リーシャ様も「ええ、そうね」と同意するように頷いた。


「ムエルニ、あなたの勝利ね。これからは幹部の席を座りなさい」

「ありがとうございます、リーシャ様。今後よりいっそう忠義を誓いますの」


 ムエルニは勝利の熱そのままに、自信に満ちた表情をしていた。

 あたしは彼女の揺るぎない自信を、とても羨ましく思えた。

 リーシャ様は「さて」と言うと、氷のような視線をあたしに向けた。

 なんだろう。あたしにもなにか健闘を称える言葉をかけてもらえるのかな?


「フェル。あなたには私の予想を超える期待をしていたのだけど……残念ね」

「え?」


 あたしはそんな事を言われるとは予想していなかった。胸を突き刺されたような感覚に、思わず声が漏れた。

 選定戦は本気で戦い、本気で健闘したはずなのに。リーシャ様からしたら、あたしは次も勝ち残り幹部になれると確信されてたから、この結果は期待外れだったのだろうか……。

 そんな事を考えていると、ムエルニが一歩前に出る。


「リーシャ様、お言葉をお返しして申し訳ありません。リーシャ様からしたら私たちのしたことはお遊び程度にしか思えないでしょう。しかし、私が本気で戦い抜けたのも、最終試合で本気で戦えたのも、フェルがいたおかげなのです」


 ムエルニの意外な擁護に、リーシャ様はわずかに驚きの表情を見せたのをあたしは見た。

 そして、口元に微かな笑みを浮かべる。


「珍しいわね、あなたがそこまで言い切るなんて。そうね……ムエルニあなたの言う通り私の考えを改めさせてもらうわね」

「ありがとうございます」


 あれだけ心酔してくれたリーシャ様に対して楯ついてまであたしを庇うなんて、ムエルニありがとう。そう心から感謝を送った。


「さて、リーシャ。そろそろいいかい」

「ええ、そうね。ローズあなたは賭け代を払ってもわらなくちゃね」

「賭け代? お前たち2人はなにかギャンブルしてたのか?」


 ダリオが疑問気に質問した。

 ローズさんは冷たい視線のままユエルに向かって歩き出し、ユエルの前に立ち止まる。

 ユエルはビクッと震える。その表情は、まるで恐ろしいものを見るような怯えを帯びていた。

 だけどローズさんはユエルになにもしない。


「リーシャ。約束通りこの子を出場させる。それでいいわね」

「ええ」


 ユエルはポカンとした表情になり「いいんすか? ローズさん」と言った。

 「ええ、全てあの女にバレていたし。それにあの女と賭けをして負けたから仕方がなくね」とローズさんは返事をする。

 その言葉を聞いた瞬間、ユエルの顔からそれまでの怯えが嘘のように消え、晴れやかな安堵が広がった。

 初対面ではなく、まるで昔からの知り合いだったかのような話をしている。

 あたしは2人のやり問答がなにかわからず混乱していた。


「ユエル、どういうことなの? 説明して」

「あー、フェル。今まで騙していてごめんなさい。実はですね、自分『スパイ』だったんですよ」

「スパイ……って?」


 繰り返した自分の声が、どこか遠くから聞こえる。

 あまりに唐突な裏切りの告白に、頭の芯が痺れたようだった。言葉の意味を脳が拒絶し、喉の奥から絞り出した声は、自分でも驚くほど細く上ずっていた。


「はい、簡単に言えば、ローズさんに言われて他カジノギルドに潜入していたんです。ただ難易度が高くて潜入するのも一苦労したんですよね。あのバニーギルドでリーシャとフェルが仲良くなっていたのを見て、もしかしたらって思えたのが大成功。近づけた直観力を褒めておきたい所」

「嘘よ。あなたがスパイなんてガラじゃないじゃないの。今まで馬鹿みたいにやっていたのだって演技だと言うの?」

「あー、まあ今も昔も変わらない。けどトレンド・マーケットの最中、ムエルニあんたにも言ったすよね。自分諜報員として得意だって。信じて貰えてなかったのにはショックでしたっすけど」


 ユエルはヘラヘラとした様子で喋る。

 

「嘘だよね? だってユエルは家族のために頑張ったんじゃ……」

「あー、それも嘘ですね。あんな分かりやすい嘘をついてもフェル騙しやすいんですから楽でしたよ」


 ユエルは悪びれる様子もなく、笑いながら話す。

 あたしはその言葉を聞いて、頭を殴られたようなショックを受けた。


「それにしてもリーシャにはバレていたのはビビりましたよ」

「だってあなたがムエルニとギャンブルに参戦するとき私は言ったじゃない。「あなた知らないわね」って」

「あっちゃ~、その時からか~」

「私はあの場で一通りは確認していたのだけど、被害者の中にはいなかった。そこでリベルに調べてもらって確定したのよ。皆に説明してくれるかしら」


 リベルさんは手に紙を持ちながら会場に入ってくる。

 重い空気の中、皆の前で紙に書かれていることを読み始めた。


「俺の調査では、数度ブラックローズの職員と思わしき人物との接触を確認。情報の見返りに金銭のやり取り。この前の休みではブラックローズのカジノへ入るとVIPへ通されたそうだ。それ以外にも」

「あー、もういいです。もういいですよってか、よく調べましたね。警戒はしていたのに」

「なら認めるのかしら?」

「そうですね。リベルさんにここまで言われたのなら認める他なりませんねって、うお!」


 突然、ダリオさんが飛び出し、ユエルに向かって殴りかかろうとする。

 予想していなかったせいで、止める者がいない――かに見えた。

 ユエルとの距離はまだある、だけどピタリと指先すら動かせず固まっていた。

 ダリオさんはこれが誰の仕業かは理解していた。


「おい、リーシャ止めるな! こいつは俺たちを裏切ってたんだぞ!」

「それはだめよ。今この場にいるのはブラックローズの代表選手なんですもの。手を下したら私たちの負けになるわよ」

「はぁ? 代表? なに言ってんだ」

「ユエル・タニアは王都主催の大博打大会の代表選手になっているの」


 大博打大会?

 あたしには聞き馴染みのない言葉だった。

 だけどあたし以外の全員には理解しているようで、驚きの表情を見せていた。

 特にユエル本人が一番驚きを見せた。


「ローズさんそれは本当なんですか? 自分が代表に選ばれるなんて」

「本当よ。この女と私は賭けたの。あなたの優勝を賭けてね」

「けどそれでなんで自分が代表にしたんですか?」

「ユエル、私から説明してあげるわよ」


 リーシャ様はユエルの疑問に答える。


「ユエル、あなたが優勝すればこのままギルドの幹部として迎え入れるし、ブラックローズに情報を流すのも黙認すると。代わりに優勝しなければ、セブンズミラーをクビにする代わりに代表に選出させるって条件をね」


 ローズさんは「はぁー」とため息をついた。


「ただそれだけじゃなく、勝てば技術の無償提供もあったわけ。とても破格な条件だったのだけど、負けたのだからおとなしく条件を飲むわね」

「なら連れて行って頂戴。そうしないとダリオみたいに今にも襲い掛かりそうな状況だから」


 横を見るとダリオさんを筆頭に、ミラン、ムエルニともにユエルを睨んでいた。

 リーシャ様が止めに入らなければ悲劇の惨状になっていたのは確かだろう。

 なら、あたしは?

 嘘をついていたことに対する怒りは湧いてない、代わりにただ悲しさだけが残っている。


「リーシャそいつは敵だ! それに今こいつを殺せばなかった事にすぐできる」

「それはダメよダリオ。だってこの取引は【クァース】で守られているのだから。もしこの場でユエルになにかあればあなたたち死ぬわよ」


 リーシャ様から衝撃の事実が放たれた。

 クァースって、あたしはあの時の状況を思い出す。

 あんな事を起こさせるのはだめだと。

 それでも動こうとしていたダリオさんに、あたしはゆらゆらと一歩ずつ歩き腕を掴んだ。

 ダリオさんはあたしの顔を見ると、動こうとするのをやめた。

 今この時のあたしはどんな表情をしているのかわからない。

 ただ、あんな事を起こしてほしくない、そう思っていた。

 そんなあたし達を嘲笑うかのように、手を振る。


「さあ、行きましょうローズさん。このままいてもしょうがないですし」

「そうね。それじゃリーシャ。また大博打大会で」

「ええ、ローズ。大博打大会で」

「それじゃ、今まで楽しかったですよ。バイバーイ」


 ローズさんとユエルはそのまま会場からいなくなった。


「ちくしょう!」


 ダリオさんは悔しさや己の不甲斐なさから床を思いっきり叩きつけた。


「あの馬鹿、あたしたちを騙すなんて絶対に許さないの」


 ムエルニは手は握りこぶしを作りワナワナと震えている。


「フェル、大丈夫か?」


 ミランは怒りよりも、あたしを心配してくれているのか体を持ち支えてくれた。

 そんなあたしは未だにユエルが裏切ったと未だに信じ切れていなかった。

 まだ実はなにかあってなど思考を巡らす。


「さて、色々あったのだけど、これで幹部7席は埋まり元通りね。さて」

「リーシャ。さっき言ってた大博打大会だけど俺とムエルニを代表として出せ」

「どうしてかしら?」

「あいつに気づけなかった俺にも責任はある。それにそもそも他の奴らじゃ、役割が違い過ぎてできない」

「そうね。ただ今は保留しましょう。それよりも」


 リーシャ様はこっちにやってくる。

 目の前に来ると、指で無理やりあたしの顔を上げさせた。


「あなたはどうするのかしら? お友達だと思っていたのはあなただけの幻想。もしあなたが参加すれば対戦できるかもしれないわよ」

「あたしは……」

「リーシャ様やめてください!」


 ミランが手を払いのけてあたしを守るように庇う。


「確かにフェルも私もムエルニさんもここにいる皆、あの子は友達だと思っていた。実際そう思うしかなくて疑いようがなかった。もしかしたら何か事情があったかもしれないが」


「そうだよね……」あたしは小さく呟いた。


「フェル?」

「もしかしたら、ユエルは実は別の理由があってあんな事をしていたのかもしれない……」


 あたしはミランを押しのけて走り出した。

 突如の行動に驚いたかもしれないけど、誰もあたしを止めはしない。

 誰しもがあたしがどうするのか理解してくれただろう、目的はユエルに会うため。

 未だに彼女があんな風にしたのか信じられてはいない。


「ユエル……」


 今ならまだ近くにいるはず。あたしは走った。

 地下1階、1階と続き、見つからない。

 途中、あたし達のギャンブルを視聴していた従業員の人から褒められたりもしたが、今はそんなことはどうでもいい。

 ユエルがどこにいるのかと聞くと、さきほどローズ様と一緒に外へと出たらしい。

 あたしは急いでギルドの外へと出た。

 雨が降っているせいか、視界が少し悪い。


「ユエル……いた!」


 あたしはユエルとローズさんを発見する。

 ローズさんの上空には膜のようなものが張られ、それを中心として左右に水滴が落ちていた。

 雨などは通常ローブなどで体を覆い、水滴から身を守ることが普通。

 そんな準備もする暇もなかったあたしはずぶ濡れの中、急いで駆け寄った。


「ユエル!」

「うわ、ビックリした。フェルじゃないですか。ずぶ濡れじゃないですか」

「嘘よね。実は無理やりスパイをやらされていたんだよね。あなたは本当はそんなこと……」


 ユエルはため息をつき、頭をかいた。


「またですか……説明しましたよね。スパイしていたのは本当だって。それに兄妹への仕送りも嘘。全く」

「嘘だ……あの時、あたしが落ち込んでいたのを元気付けてくれたのも」

「あんなチャンスを不意にするの勿体なかったわけですし。元気づけたのは本当。それによってフェルがあそこまで健闘してくれたのは正直ビックリしましたよ。ムエルニを下してリーシャの信頼を勝ち取ったんですから。だから自分も入れる事ができた。これが、無理なら別れて別の方法を模索するだけでしたよ」

「嘘だ……なら、あたしと友達になってくれたのも……」


 これは嘘ではないのであってほしい。

 じゃないとあたしは……あたしは……。


「友達……?」


 ユエルは少し考えたあと、「あー」っと思い出したかのように言う。


「フェル。あなたは自分を友達にしてくれたのは嬉しかったですよ」

「なら」


 あたしの言葉を遮るようにユエルは口を開いた。


「ただ、自分からフェルの事を友達(・・)、なんて一言もいいましたか?」


 え……?

 あたしは今までのことを思い返し始めた。



 ユエルは確かに――一言も言ってない(・・・・・・・・)



 あたしは心が崩れるような感覚を陥り、膝が崩れ落ちた。


「勝手に友達認定したおかげか、周囲も勘違いしてくれたから助かりましたよ」

「そろそろ行くわよ」

「……それじゃフェル。また大博打大会で」


 あたしを置いてローズさんとユエルはそのまま彼方へ消えた。

 未だ土砂降りの中、全身雨で濡らしその場に呆けていた。

 顔は雨で濡れ涙を流していたのかもしれないがわからない。

 すると、あたしの周りでは雨が避けられるように当たらなくなった。


「要件は済んだかしら」


 顔は見ずとも声からしてリーシャ様だと分かった。

 あたしは未だ放心状態が続いていたが、ふと暖かい感触を肌で感じた。

 抱きしめてくれていたのだろう。

 雪解けのようにあたしは放心状態から少しずつ戻る感覚が理解する。

 目頭に熱いものが込み上げ、ついに堤防が決壊したように大声で泣いた。


「ふふ、あなたはこれから先どうするのかしらね。期待する働きをしてくれるのか、それとも――」


 なにを言っているのか理解してはいなかった。

 ただ分かるのはリーシャ様があたしを優しく抱きしめてくれていたことだけ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ