55話 ユエルの機転と、運命の託され
ダリオさんの宣言と同時に市場が揺れ始めた。
スロット▲303、ブラックジャック▼42、ポーカー▼47、バカラ▼40、ミニ競馬▼18、ダイス▼32。
「なんなのこいつ!」
「スロットが300まで急上昇したし、早くしないとダメっすよ!」
「……完全に予想外」
「もう300超えてる。まだまだ上がってるけど、もう投資するの無理……」
あたし達は予想の的を外して混乱に陥っていた。
すると再びゴーレムから聞こえる声はダリオさんの焦りだった。
『え……ルクスなんだって? スロットはできないって? 嘘だろ? ちょ、ちょっと待った待った待った! 今のなしなしなし。スロットも出来ると思ってたから……え? 1階はライネスが叫んで止めてくれたけど、代わりに怒りでこっちに来るって? 止めてくれ、あいつ本気でやると殺されるから誰か止めてくれぇ!』
ダリオさんの声はプツリと途絶えた。
ドームの中でもちょっと揺れてる気がする。
なにをされているのは容易に想像できちゃう。
「完全に自業自得ね。こういうときのために、ちゃんと取り決めをしときなさいって、あれほど言ったじゃない」
「……恥ずかしい」ミランは俯いてそう呟いた。
あたしは彼女の肩をポンポンと叩き慰めた。
市場は戻り落ち着きを取り戻すも、あたしは違和感を感じていた。
「あれ? 余剰資金が増えてる?」
余剰資金は28790で9000以上増えていた。
指でトントンとされ、そちらに向くとユエルが片手を腰に当てて、えっへんと胸を張っていた。
「ふふん、気が付きましたかフェル」
「え? もしかしてユエルがやったの?」
「はいです! あのとき皆混乱していましたし、少ない金額ですけど言われてた低い値で投資して今買い戻しました」
あたしはユエルの頭を撫でて、心から喜んだ。
ユエルも照れくさそうに、嬉しそうな笑顔で応える。
「やるじゃないの。よくあの状況で賭けれたわね」
「冷静に対処できる。これが自分の極意!」
「全くなに言ってんのかしらね……ん?」
「どうしたっすか?」
「あなた、さっき買い戻したと言ったわよね?」
「ええ、言ったっすよ?」
ムエルニは頭を抱え、指で眉間に皺を寄せていた。
「フェル、自分なにかまずいことしましたか?」
「大丈夫だとは思うけど……」
「……本来ならバカラはイベント時に回収する予定としてた」
「あぁ、そうだった……」
自分の仕出かしたことに対してユエルは落ち込んだ。
「いいのよ。どの道、回収しなきゃいけなかったわけだし。ユエルありがとう。あなたのおかげで結果的には良くなって射程圏内に入れたわね。これからは逆に落ちた台を狙って賭けましょ」
ゴーレムから再び声が聞こえ始めた。
『えー、テステス。さっきはすまなかった。情報ダイスを消費したチームもいたらしいが、残念ながら返還することはできない。あくまで市場は刻々と変化をしているから運が悪かったと思っててくれ』
確かにあの時は多数決とはいえ、あたし達は自分の判断で、自分達が決め、自分達が実行した。もう戻せない。
ただ市場情報ではなくライバル情報なのが不幸中の幸いでもあった。
今のところ、ユエルのおかげでライバルとの差はかなり縮んだはずだし。
『ただ、こちらの不手際とは言え何もなしとなるのは申し訳ないと思ってる。そこで詫びとして次の予告イベントは事前に宣言して最後になると思っててくれ。もちろんスロットやミニ競馬など、しない事にさっき決まった』
最後ってつまりは、最終戦ってこと?
最後の稼ぎをするならそこを狙えって言ってるようなものだよね。
ただ、どれに賭けるか皆と決めなくちゃ。
「どれに賭ける?」
「そうね。私はまたポーカーがきそうかしら」
「……バカラ」
「それじゃあ自分はダイス」
「ならあたしは残りのブラックジャックかな。まだ260賭けてたのも残ってるし」
あたし達はバラバラな意見を言った。
実際にどれも少なからずありえそうなのが否定できない意見ばかり。
市場数値を見たら、現場ではお客さんの数が多いと分かる。
スロット▼258、ブラックジャック▲72、ポーカー▲87、バカラ▼37、ミニ競馬▼17、ダイス▲47。
賭けているのはムエルニとミランに任せて、あたしはどうするかを考えながら見続けていると、順番に数値が下がったり上がったりするのに気づく。
その程度なら普通なのだけど、誰かが通った際にそっちに視線が向いて下がる規則正しいと言う感じ。
すると、全体的に▼となりどんどん数値が下がっていき始めた。
「あれ? 全体的に下がってない?」
「どういうことかしら」
「もしかしたらまたなにか説明入って、注目度が減ったとか?」
「……ありえる」
市場数値が以下のようになった。
スロット▼138、ブラックジャック▼32、ポーカー▼43、バカラ▼27、ミニ競馬▼10、ダイス▼27。
再び予告も前触れもなく突如、急激に市場の注目度が全体的に下がり傾向に入ったことで、現場ではなにか異常事態が起こったこと。そして、あたし達は現場を見なくても容易に想像できた。
そしてゴーレムから再びあの言葉が聞こえた。
『2チーム脱落だ。残り4チームとなる』
最初は16チームあったのに、いまや残り4チーム。
落ちたのは一番資金の持ってる人達か、それとも低い人達か。
情報ダイスもない今、あたし達は知る余地もなかった。
「何があったんすかね、これ」
「わかんないわよ……とりあえずこのチャンス見過ごさず賭けるわよ」
「どの台がいいんすか」
「わからないとしか言えない。波打ちすぎてて予想ができないのよ」
確かにムエルニの言う通りどの台もきそうではある。
どれも正解で、どれも不正解。
ただどれかを選ばなくちゃいけない。
迷っている最中、ミランから一つの提案が上がった。
「……こういう時はフェルに任せるのが良い」
「え、あたし?」
突如ミランは決定権をあたしに振ってくる。
「けど、あたしも間違うかもしれないよ?」
「……大丈夫。フェルなら正解を選べる」
「そうですよ。自分も今までフェルのなら信じますよ」
「そうね。ただし分散させず一点集中させましょ。そうしたほうが稼ぐ効率はあるから」
困惑したあたしに更なる追い打ちをかけるように、ムエルニとユエルは言った。
どうしよう……皆の期待の眼差しが辛い……。




