52話 市場動向と、ダイスの取捨選択
「どうするっすか?」
「1.5倍なんて客からすればもってこいのようなもの。間違いなく注目度は上がるわね。ただしこのまま放置してれば間違いなく、他の参加者に差をつけられる」
「ダイス使う?」そう言いながらあたしは画面に指をさす。
「そうね。フェル、あなたの言う通り下手に残しておくのも悪手。だけど2回しか使えない以上、慎重にしなくちゃ。ミランあなたの意見も頂戴」
「……使うのは賛成……ランダムは今は損」
「損? どうしてかしら」
「……敵資金情報」
「なるほどね。確かに今は確実に欲しいのは市場情報。選択式のを使うとしても、時間制限がどうなるかね」
ムエルニはゴーレムを掴もうとしたら、ゴーレムからダリオさんの声が聞こえてきた。
『さっき質問が出たが、情報ダイスで分かるのは数字ではなく、大まかな市場動向だ。仮に次のイベントでスロットなら「スロット大幅注目」、ポーカーなら「ポーカー大幅下落」といった感じだな』
確実にこの情報を掴みたいっていうことはできないんだ。
『再度説明するが情報ダイスを使うなら、どちらも時間制限はある。市場情報はこれから直近のイベントやそのとき他の動きの予想とか。もちろん更新するから開示時間が終了したあと、実は次のイベント更新してましたなんてのもありえる』
「使いどころを考えないと情報部分で大損してしまうってわけね」
『使いどころを考えないと情報部分で大損してしまう、となるわけだ』
まるでこれまで長年連れ添ってきた夫婦かのように、一言一句間違えずに二人はタイミングよく同じことを言った。
そんなムエルニは顔を紅潮させて、地団駄を踏んだ。
『もちろん使わずにイベント上手く乗り切って稼げることが一番だが。健闘を祈る』
そうしてゴーレムは沈黙した。
「……時間制限……今のうちに使うのが得」
「そうだね。今はイベントが来るとわかってるから、先に使えばどの台が開始されるのか先に情報を得られるわけだし」
「自分もフェルとミランの考えに賛同です」
「わ、わだじもざんぜいよ」
怒りのあまり、力の限り踏み続けていたからか、少し喉が枯れている。
ムエルニはゴーレムを通じて、新たな飲み物をダリオさんに用意させた。
あたし達の手に飲み物が運ばれ、ムエルニが落ち着くまで飲みながらゆっくりした。
「さて、そろそろ情報ダイスを使うわよ」
操作画面から情報ダイスを選択しムエルニは押した。
画面にはランダムと選択式という2つのダイスが表示され、選択式、次に市場と敵情報の2択が表示された。
「もちろん市場よ」
市場ボタンを押すと、あたし達の画面や壁に表示されている映像に表示が現れた。
ギャンブル台、注目度数値と変わらないが、それぞれの隣に大幅下落可能性、大幅上昇可能性の二種類が新たに表示されていた。
その大幅上昇可能性のギャンブル台はポーカー。
「ポーカーね。台自体はそこそこあったはずだから注目度は結構表示されるわね」
「……150以上はかたそう」
「時間的にまだだけど、結構上がってる今なら260を賭けたブラックジャック以外を回収しても良さそうかしら」
「どうして260のは残すんっすか?」
「保険と言うべきかしら。260は注目度最低値から賭けたの、仮に今後ブラックジャックのイベント開催されるときは間違いなく爆上がりする。その時に利益確保するためよ」
「……情報ダイスは残り1つ」
「そうね。またイベントがあったりしても気軽に使えない。それにランダムなんだから場合によっては市場よりも敵情報が出ちゃうの」
確かにムエルニの情報には説得力がある。
ムエルニは確認するようにあたし達に視線を向けると、あたし達も同意するように頷く。
全員の合意を得たムエルニはブラックジャックの260以外を全て回収した。
現在の画面表示はこうなる。
スロット▲230、ブラックジャック▲42、ポーカー▲35、バカラ▼19、ミニ競馬▲15、ダイス▼15。余剰資金1302。
「すごい……1000超えた! 確か余剰資金は資金と同列となるはずだよね?」
「厳密にはちょっと違うのだけど、おおむね正解よフェル。その驚きもわかるわよ。初期資金の1000を上回ったのだから」
これは、底を尽きかけた数値が、短時間で回復したことに対するこのギャンブルの本質なのかもしれない。
他の参加者も、もしかしたら似たような経験を味わったのかもしれない。
「資金が戻ってきたし、どのタイミングで投資するんすか?」
「まだ時間はあるのだけど、できるだけ低いタイミングがいいわね。資金は……そうね、何が上がるのかわかっているのだから、可能な限り多くても1100は入れたほうがいいかも」
投資する先は決まった。
現在のポーカーの数値は▼30。
しばらく見続けていても、数値は30台から動かない。
一刻一刻時間が経つにつれ、何度かこのタイミングなら良いのではという流れは来ていた。ただ、すぐに跳ね上がりタイミングが掴めない。
「……時間がないぞ」
「わかってるわよ。黙ってて」
ムエルニに焦りの顔が見え始める。
見極めタイミングがわからないからだ。
「……フェル頼むか?」
「ミランいいの?」
「今のままだと見失う」
ムエルニは苦虫を嚙み潰したような表情をするものの「頼むわよ」とあたしに託した。
あたしは1100と数字にする。
重要な瞬間、どのタイミングで押せばいいのかわからない。
少し減り▼25になった――今!
“エントリー確定”そんな表示が画面に映ると、もう後戻りはできない。
「これでどうなるんだろ」
「……神頼み」
『今からイベントを開始する』
「始まるのね」
「緊張するっす」
「……流れに身を任せる」
「失敗しませんように」あたしは心の中で祈る。
あたし達は視線は数値を見ながら固唾をのんで、ダリオさんの発する言葉を聞く。
数値は次第に下がり始め▼20を下回る。
もしかして失敗!?
数値が1ずつ下がるのを見るとあたしの胸は締め付けられる気持ちになった。
『最初の開催イベントはポーカーだ』
そういった瞬間、ポーカー数値は100を超える爆音のような急激な爆上がりを見せた。更に伸び続けるポーカーと余剰資金の数字。壁に映る映像全体が熱を帯びたように見え、ついには200台を突破。安心したからか、安堵のため息をあたしはついた。
「やりましたねフェル!」
「……流石だ」
「やるわね。フェル、あなたは私が褒めてあげてもいいわよ」
「さっきまでどうするかオロオロしてたのに急に態度変えるっすね」
「ユエル、あんたねえ!」
「ひぇ~、魔物ムニムニが来るっすよ~」
ムエルニとユエルは追いかけっこするように走り回った。
そんな二人を見てあたしは微笑ましく思えた。
現在の全ギャンブル台はこのようになっている。
スロット▲31、ブラックジャック▲9、ポーカー▲281、バカラ▼9、ミニ競馬▲3、ダイス▼0。
注目度が300台の大台も目前。
そのとき、ゴーレムから再び不吉な宣言が放たれた。
『えー、今の数値変動により4チームが失格となった。残り6チーム』
4チームも……。
皆はあたし達と同じようにイチかバチかを賭けたのだろうか。それともそのままにした結果となるのか。どちらにせよ、他チームの情報はわからない。
ただ、他にあたし達にはしなくちゃいけない事がある。
このままもっと数字上がり続けてほしいけど、そうもいかないよね。
「ミラン、これってどこまで上がると思う?」
「……ムエルニさん」
「ええ、分かってるわ。確かポーカー台ってこのギルドじゃ他と比べて少し少ないわよね」
「……台数少ないが……300は可能で400は厳しい」
「私も同意見。間違いなく300は超えるけど、350いくかどうかね」
ギルドを知り尽くしている二人の意見が合うのだから、間違いない。
あたしはそのまま食い入るように数字の変化を見続けて、緊迫感のなか遂にボタンを押した。




