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純白のギャンブラー~王都カジノの少女賭博録~  作者: レブラン
3章

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37話 ルクス・ルウェン

「あたし、何してたんだっけ……」


 薄目を開けると、ぼんやりとした意識で天井を見つめていた。

 横を向くと、テーブルに一体のゴーレムが鎮座していた。

 次第に意識が覚醒すると、自分がどうしてここにいるのかを思い出す。


「あ、そうだ。あたしリーシャ様を待っていたら眠くなったんだった」


 眠気眼をこすりながら起き上がろうとすると、身体にタオルがかけられているのに気づく。とても良い匂いがして、肌触りも良く、高級感もある。

 これで包まれながら寝られたら、さぞかし気持ちが良いんだろうなと想像できる。

 でも、眠る前は確かタオル自体はなかったはず。誰かが部屋に入ったのだろうか?

 もしかしたらリーシャ様が……と淡い期待をしながら身体を起こした。辺りをキョロキョロと見回すも、誰もいない。

 タオルを掴みながら、ソファーから腰を上げた。


「どれくらい寝たんだろう……」


 窓から差し込む薄暗い光が部屋全体を映し出す。

 完全に夜中だった。明け方まで、あと何時間あるのか見当もつかない。

 このまま待っていてもリーシャ様は帰って来ないかもしれない――そう思いながら部屋を出る事にした。


「だいぶ暗い……」


 光は足元だけ、等間隔に灯っている。

 到着したときとは印象がまるで違う。

 静まり返った廊下に足音がコツコツと響き、余計に不安が募った。

 一度、一階フロアに行けば誰かがいると思い向かう。


「誰もいない……ユエルもムエルニも帰ったのかな?」


 フロアの中に入ると、人が誰もいない広間を見て寂しさが広がった。

 台に視線を向けると、コインの入ったコインケースに隣にはトランプが置かれていた。

 あたしはふとあることを思い出した。


「ミランのお兄さんとムエルニ勝ったのかな?」


 あの後ミランは戻ったはずなのだけど、誰もいないこの現状を見れば帰ったのかもしれない。結果などは後日聞けばいいか。

 それにリーシャ様もいなさそうなので、ここにいる理由がなくなった。

 そう思いあたしも出ていこうとすると、カーンと金属音が遠くで鳴り響いたのが聞こえた。


「え? 誰かいるの?」


 ギルドは五日間休館のはず。

 このギルドにはあたし一人しかいないはずなのに……。

 喉をゴクリとならし、フロアを後にした。


「ど、どこにいるんだろ……」


 気のせいかもしれない。そう、思いながら帰るのもいい。

 ただもしそれが泥棒だったりしたら……もし魔物だったとしたら……。

 足は震えるが、確かめに行く必要性がある。

 持っているタオルをギュッと握りしめ、少しずつ進んだ。

 地下に降り廊下を突き進むと、扉から光が漏れているのに気づく。


「誰かいるのかな?」


 近づくにつれ、静寂だったはずのあたしの耳に異形の響きが聞こえてくる。


「ま、魔物だったらやっつけてやるんだから……」


 声が小さくなっているのがあたしにも分かる。

 ゆっくりと静かに、中を覗き見ると誰かいた。


「魔物? 人?」


 困惑した。

 あたしより長い黒い髪の毛のような何かが、座っているせいか床に広がっている。

 まるで生き物のようにな触手が魔法石を掴み持って、笑っている様子。

 人間……だと思うけど確信はなかった。

 あたしは勇気を振り絞って中に入ろうとした時、ギギギギとドアの音がフロア全体に広がった。

 その生物は音とともにピタリと止まる。

 中に踏み入ると、勇気を振り絞り声を上げた。


「あ、あの! ここで何をしているんですか?」

「ヒヒヒヒヒとあいふ! ヒャんでいフェヒフホオオオ!」

「キャアアアアアアアアアアアアアァァァ!」


 なに言っているのかわからず、あたしに突撃してくる。

 人か魔物かもわからない!

 あたしは持っていたタオルを咄嗟に投げつけ、恐怖心のあまりわけわからずその生物の腹と思わしき部分に思いっきり殴りかかった。


「ブヒャ!」


 殴った所が急所に入ったのか、奇音を吐いて地面に倒れた。

 倒れこんだままピクリとも動かない。

 あたしは深呼吸で落ち着かせると、ゆっくりとタオルを摘まみ上げた。


「あっ……人だ」


 しばらくして、彼女は気絶から目を覚ます。

 起き上がると、「あっ」と声を出した。


「目を覚ましましたね。ごめんなさい、ビックリして殴ってしまって」

「え、え、え、えっと……」


 フェルは少し息を整え、状況を理解しようとする。


「あなたここセブンズミラーの職員ですよね? あたしと同じ制服着てたので、てっきり泥棒かと……勘違いしてました」

「……あっ……ん、うん」

「そういえば、どうしてここに一人で残っているんですか?」

「し、し仕事を……」

「ゴーレムを使って掃除ですか?」


 彼女は首を横に振る。


「きょ、今日はゴーレムの……せ、性能確認」


 彼女はゴーレムに指を向ける。

 ゴーレム同士が持ち運ばれたり、椅子を動かしたりなどしているゴーレムも何体か確認した。


「性能確認ってなにするんですか?」

「ど、どこまで動かせるかの口頭テストに、魔法石を検証。過去のテストデータを含む実験」

「難しそう……」

「そ、そんなことはない。きょ、今日集まったデータがここにある」


 ギャンブル台の上に紙の束が山のように置いていた。

 あたしは1枚手に取り、そっと中身を確認した。



 実験番号:G-04

 記録者:ラベン・トレジャー

 使用個体:ゴーレム試作4号機

 ・材質:黒曜石(魔力伝導率72%)

 ・魔力供給者:ラズベリー(男性)、ジュディ(女性)

 ゴーレム稼働実験記録(G班)

 実験条件

 ・床材:石畳

 ・魔力注入回数:28回

 ・稼働環境:室内、椅子の上での運用

 観察結果

 ・命令反応:良好

 ・動作内容:椅子の上りを確認、掃き掃除

 ・飛距離:最大約10cm

 ・歩行速度:通常

 ・掃除能力:通常

 ・稼働時間:1回あたり約30分

 備考

 ・テーブル上での掃除後、落下時に可動部分から異音を確認

 ・稼働中、眼部の光量は徐々に安定。可動部の摩耗はわずかに確認



「なんだかよくわからなかったですが、すごい細々してる」


 戻そうとする紙を彼女は掴み奪い去ると奥へと向かう。

 すぐに戻って来たとき、ゴーレムも一緒に持ってきた。


「こ、こうして1枚ずつ確認して。ち、調整の悪いゴーレムは、悪ければ、わ、私が直す」

「直せるんですか!? 確かそのゴーレムは可動部分がおかしいとかあったような」


 彼女はゴーレムの可動部分に手を当て、何やらブツブツと呟く。

 すぐに魔法石をゴーレムに挿入させると、ゴーレムは立ち上がった。


「な、直ったから命令してみて」

「じゃあ、こっち来て」


 ゴーレムはトコトコと子供のように歩き、あたしの目の前に到着する。

 その姿を見てあたしは思わず抱きしめた。


「すごいすごい! なんにも変な音も聞こえないし問題なく動いてる。これって錬金術ですよね?」

「こ、ここのゴーレムは自己修復機能が備わっているけど。わ、私はそれを手伝っただけ……た、大したことはしていない」

「それでも凄いよ! 村にいたとき、そういう事をできるっていう人は聞いていましたが、内容はあんまり理解できてなかったんです。今初めて見ましたよ!」


 あたしの言葉に彼女は少し照れくさそうにし、髪の毛の隙間から見せるのはぎこちない笑顔だった。

 笑顔自体があんまり慣れていない印象を感じた。

 抱きしめながら、ふと思い出した。リーシャ様の部屋にあったゴーレムも……。


「そう言えば、リーシャ様の部屋にあったゴーレムが一体あったんですが、あれは直さないんですか?」

「あ、あれはもう直したゴーレムだから。リーシャ様に確認してもらうために置いた」


 あのゴーレムは直ったんだ。良かったー……あれ?

 そういえばあたしが入った時にはなかったような。


「もしかして、あたしがソファーで眠っていたとき、タオル掛けてくれました?」


 床に落ちていたタオルを拾い上げて見せる。

 彼女は軽く頷いた。


「あ、ああ。わ、私のタオルをかけた」


 その時、彼女は自分の言葉でハッと気が付いた。


「ご、ごめん。気持ちよく眠っていたから、つい風邪ひかないようにと思ってかけた。そ、そ、その臭いが不快だったら……あ、謝る」

「ううん、そんなことはないですよ! むしろとても嬉しかった! タオルも肌触りが良く、気持ち良いし。それに良い匂いがする」


 リーシャ様が部屋に来たんじゃないのは少しガッカリした。

 ただあれから長時間いないとなると、別の要件だったって事かな?


「よ、良かった。それ、リーシャ様から貰った物なの。こ、この制服と同じように軽く付与魔法が付けてあるから洗わなくても匂いもするから」

「え? そんな付与魔法があるの?」


 彼女はあたしの制服に向け手を当てるとブツブツ唱えた。

 もう詠唱終わったのか手を下げると、あたしは自分の制服の匂いを確かめるように顔を動かした。


「そ、その人が心地よい匂いと思えるよう生み出す魔法。これで匂いがするはず」


 あたしは腕に鼻を近づけ嗅いだ。

 すると精神的に落ち着く、花の香りがする。


「軽い魔法だったから。こ、効果は数時間しか持たないから」

「ありがとう!」


 あたしはお礼として紙の束を持ち上げようとする。

 だけど、ゴーレムを担いでいたので、一度床に置いた。

 慌てて彼女はあたしが取った紙の束を取り上げ、テーブルに置いた。


「な、何してるの?」

「お礼ですよ。こんな良い魔法を使ってくれましたし、それに仕事は一人より二人でやったほうが早いじゃないですか」

「そ、そうなの。ありがとう。け、けど大丈夫」


 そう言うと、彼女は紙の束から1枚選び、実験番号を指さして、取ってくるよう指示をした。

 ゴーレムはどこからか同じゴーレムを一体担いで持って来た。


「こ、これでこの子に同じように修復をして、命令すればネズミ算的に増やせる」

「わぁー、とても便利ですね。その発想は思いつかなかったですよ」


 そう褒められたからか彼女はふふんと鼻高々にして嬉しそうにした。


「そ、そもそもこれはサポート型として作られて、ど、どんな場所でも手助けをして人がやろうとしても、手が足りない部分を補佐するという革命的な発想と言うわけ。リ、リーシャ様が着眼点や発想を得て私が開発したもの。通常のゴーレムは」


 あたしが呆けて聞いていたと思ったのか、慌てて彼女は謝るも、あたしは平気とアピールした。

 ただ何を言っているのかわからなかったが、人のお手伝いをするゴーレムなのはわかった。


「リーシャ様と一緒に作ったってすごい!」

「わ、私はあくまで作っただけ。すごいのはリーシャ様だから」

「確かにリーシャ様の発想はすごいかもしれませんが、それを汲み取って実現した物がこれなのだからあなたもすごいですよ!」

「そ、そうなのかな?」

「うん! 自信持って良いと思います」

「あ、ありがとう」


 先ほどのぎこちない笑顔とは違い、まるで厚い雲の隙間から、太陽の光が差し込むように。同じ隙間から見せる笑顔は屈託のない笑顔だった。

 彼女はやる気を出したのか次々にゴーレムに命令して、修理する様はまさに職人芸のよう。

 あたしは手伝うことがなかったので、ただ見ているだけだった。

 地下なので日の光は届かず、時間がどれだけ過ぎたのかはわからない。しかし、作業は突然終わりを告げた。

 誰かが扉を勢いよく開けた。


「フェル、ここにいたのか!」


 振り返るとそこにいたのはダリオさんだった。

 呼吸を乱し肩で息をして必死にあたしを探していたのがわかった。


「良かった……全く探したぞ。お前、昨夜から宿に帰ってなかったんだって」

「ご、ごめんなさいラングレーさん。だけど、なんでここに?」

「ムエルニから言われたんだ。突如、今朝がた宿に来て俺を無理やり起こしてさ」


 ムエルニに心配かけさせてしまったんだ……。

 ダリオさんは自分を落ち着かせ、あたしの前と言うよりもあたしの後ろにいる人物を覗き込むように確認した。

 彼女は扉が開いた瞬間あたしの背中に隠れるように縮こまっていた。


「この人は人見知りですけど、仕事をしてまして、あたしはこの人と話に夢中になってしまっただけで。けどとっても優秀なんですよ」

「ああ、知ってる。だってこいつはセブンズミラーの幹部の一人、ルクス・ルウェンだ」


 セブンズミラーの幹部?

 え、ええ!

 後ろを振り返ろうとするも、彼女はあたしの背中を掴んでいるせいで振り返れない。

 ただ視線を向けると隠れるように震えているのはわかる。


「俺でもたまにしか会わないからあれだが、こいつはこの施設全体の整備担当をしている。廊下の照明、ここの部屋の明るさや広さ。この前、リーシャが使っていた防犯水晶もこいつが共同開発したと聞いた」

「ゴーレムだけじゃなくあれも作ったんだ。すごい!」

「う、へへ」


 ルクスさんが手を離した瞬間をダリオさんは見逃さなかったのか、彼女の背中を掴みあたしから引きはがす。


「……ヒ……ヒャ……ビャアアアアアア”ア”ア”ア”!」


 三段咆哮。まるで野生動物が捕食者に捕まったかのような悲鳴を上げた。

 あたしは慌ててダリオさんから彼女を離し、落ち着かせた。

 ドウドウ、ハイドウドウ。


「あまりにも人見知り体質らしいから、普段会えないし。俺でも用があるとき以外は稀に遭遇できればいいと思う珍獣なのに。お前ここまで懐かれてるとか、持ってるな」

「それが分かっているなら、急にあんな事をするのはやめてください」

「悪かったって」


 ダリオさんはあたしの頭に手を乗せた。


「さて、もう俺たちは帰るぞ。ここにいてもこいつの邪魔になるだけだ」

「そっか。そうですよね。まだお仕事邪魔しちゃ悪いもんね」


 ルクスさんは首を横に振る。


「う、うんそんな事はない。話せて楽しかった」


 あたしは手を振ると、彼女は嬉しそうに手を振り返した。


「ダ、ダリォ! ラングレェー……ま、待って」

「ん? あー、フェルお前は先に上で待っててくれ」


「わかった」そう言い残し、あたしはフロアから出ていく。


「んで、なんだよ」

「か、彼女は良い子」

「知ってる」

「それから、と……とても強運」

「強運? 確かにお前とたまたま会えたのも運良いかもしれんが」

「ち、違う。あの対決を見返してたけど、か、彼女の手札はあと1枚でカードが揃った」

「そら揃うだろ。ポーカーなんだし」

「ロ……ロイヤルストレートフラッシュを狙ってやっていた」

「……マジ? オマハじゃなく、テキサス・ホールデムだろ?」


 ルクスはコクりと頷いた。


「ただ最後の1枚引かれていないので、実際揃っていたかわからないけど。ただそれだけ」


 彼女はそのままゴーレムの作業に移った。

 ダリオは何も言い返すこともなく、そのままフロアを出た。


「お待たせ」


 話が終わったのか、ダリオさんと合流したあたしはそのまま、ギルドの外に出た。


「眩しい」


 朝日が窓から差し込み、思わず目を細めた。

 明るかったとはいえ、ギルドにずっといたからか魔法石の放つ光と日の光の感じ方が違うのが感覚でわかった。


「そういえば、お前どうしてギルドにずっと残ってたんだ?」

「リーシャ様に用があったんですが、部屋のソファーに座っていたら眠くなってついつい寝ちゃったんです」

「なるほど、ただ残念だったね。リーシャは用があってしばらくギルドにはいないよ」

「そうですかぁー……」


 いないならしょうがなくもあり残念な気持ちはある。

 戻ってきたときに話を聞けばいいか。そう切り替えるしかなかった。


「そういやさ……」

「はい?」

「君、ミランと仲良しなんだっけ?」


 突如、そんなことを聞いてきたのに少しドキっとした。

 確か、ミランはダリオさんと兄妹とは言っていたけど。

 けどダリオさんは、まだあたしがその話は知らないはず……。

 言わないように気をつけなくちゃ。

 それとは別にその答えはこれだけしかない。


「友達です」

「そっか……けど、どうしてあいつと仲良くなろうと思ったんだ? 口下手だし上手く話せないだろ」

「確かにあんまり話すことは上手くないのかもしれません。ただ、あたしはミランのことを素敵な女性だと思ったりしましたよ」

「素敵な女性?」

「はい、だって動きの動作一つとっても凛としててかっこいいって。それに助けてくれましたし」

「はは。凛としてかっこいいか」


 なんか笑ってる。答えるの間違えたのかな?

 けどあたしは本当にそう思ってるわけだし、間違ってないと思いたい。


「そっか……そっか。いやさ、あいつ話下手だろ? だからギルド内でも友達が少ないってか、いるかどうか話してくれないんだよ」

「そうなんですか?」

「ああ、昨日の夜に俺に嬉しそうに話してくれたしさ。けどそれが嬉しくてな。他からも聞いてたが、実際どんな子なのかも気になってたし」


 ミラン……。

 あたしは嬉しい気持ちに胸がいっぱいになるのが分かる。


「まあ、なんだ。これからもミランと仲良くしてくれよな」

「はい!」

「さあ、さっさと宿に戻ろうか。ムエルニが怒っているだろうし」


 そして宿に戻ったあたし達に対してムエルニは予想通り鬼の形相で怒っていたのであった。


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