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陽だまりの城

おまけ、99と100の間です。


『ともに聖女を裏切る覚悟は、ありますか?』



その後に続く、公爵からの言葉は辛辣だった。明瞭で正確で洗練された思考は、たぶん後に明かされた公爵の()()人生経験の賜物なんだろう。



「なんかなぁ…………すっかり王様になっちゃいましたよね、陛下は」



ゴロゴロと執務室でつぶやくように言ったのは、旧姓カペラ男爵令嬢。今は初代聖女を救った話が有名になっているため、"聖女史"とも呼ばれてる。



「なんだその言い方は。まるでもとは王じゃなかったみないじゃないか」


「えー、実際そうじゃないですか。王様になってしばらくは覇気がなさすぎて、うっかりわたしと結婚しちゃうくらい、なんて言うかなぁ、"偉さ"?"威厳"?が、足りなかったと思うんですよ」


「ぐっ………」


「アルル先生が死んでからはルラーナ公爵直々に鍛えられてたのに頭が痛いって、ユウラムが愚痴ってましたよ」


「うっ………………」



俺と聖女史との間に遠慮は無くなった。どこか漂ってた胡散臭い空気も消え、残ったのは………毒気だけであった。いつの間にか少し丸くなったユウラムは、たまに聖女史と結託して俺を責めてくる。辛い。

確かに俺はルラーナ公爵にいろいろな意味で扱かれ、鍛えられ、心を折られてきた。まぁそれだけ成長できたということだろうが…………即位直後は問題にならないくらい、がっくりときていたんだ。



「…………いいか? 俺はずっと、アルルとの結婚を信じてきてたんだぞ? そのアルルが死に、なんとか現実を受け止めてきたところで…………おまえとの結婚話だ!」



メルサ・カペラは、確かに条件としては悪くない。この世界で"転生者"のみ使える"魔法"があるし、それに中身はどうあれ見た目は悪くない。何も事情を知らない奴らなら、賛成するのもわからないではない、が。


そんなことは理屈の上で、である。実際問題としてこの女が結婚相手では何もドキドキしないし、楽しくない。やっていけないことはないが、やっていきたいと思えないのである。


今日も今日とて執務をサボり、こんなところで油を売ってる。なまじ打算が働くだけに、叱り飛ばされるような重要書類はキッチリやってあるところも質が悪い。



「知りませんよー、そんなの。私はまぁイケメンと結婚できて幸せですけど、お金もありますし。けど王様はアルルに首ったけで王妃の仕事も面倒ですしねー………退屈すぎてどこか行きたい。アルル早く、生き返らないかな」



突如そう、爆弾を落とされた。



「……………なんだと? 生き返る?」


「えっ? あっ、やば、言ってませんでした?」


「聞いてない。早く言え」


「あのですね……………まぁ希望観測なんですけど、それも混じるって言うか…………」


「早く」



思わず、意図せず、聖女史の胸倉を掴んでいた。女相手にこれはまずいと思うが、この話題で話をぼかす方も悪いと思う。



「……………アルルはたぶん、"先生"になりたかったんですよ」


「…………は?」



しばらく理解できなくて固まる。聖女史のほうも、しばらく考えるように宙を見た。



「…………アルルは"前世"でも、"今世"でも、忙しくて生きるだけでいっぱいでした。戦争とか、冒険とか、政略とか、いろいろと要因はあったんでしょうけど、いつも最善手を探して自身の正義を掲げるような………そんな生活でしょう?」


「…………よくは知らないが」


「とにかく、だから"普通"に近いって、結構価値があったんじゃないかと思うんですよ。これはルラーナ公爵の杵柄ですが、アルルはそれを楽しんでたと思うんです」


「…………そうか?」


「んー………………ま、まぁそれに今世はいろんな偶然が重なってますからね。もう一度やりたいって、思ってもいいんじゃないですか?」


「………そんな簡単なものか?」


「そうですよ。アルルが死ぬとは思えません」


「……………そうか」



少し気分がスッキリとした気がする。なんと言うか、やる気が出たのだ。その勢いのまま俺は執務机に向かい、兵に示して聖女史を退室させた。



「…………ん!? 陛下!?」


「アルルが生まれ変わる可能性があるなら、早急にこの国を良くしなければならない。…………お前の力も、存分に利用させてもらう」


「そんな! あたしはフツーに面白おかしく生きれればいいのに!」


「頑張れ」


「地道な仕事も、努力もイヤーっ!!」

















引きずられて王妃の執務室へ連行され、仕方無しにモソモソと仕事をこなしてた聖女史のもとへ、一人の男が現れた。



「相変わらず、しょうもない人ですね」


「…………ユウラムっ!」



ガタッと椅子を蹴って立ち上がった聖女史様は、ツカツカと歩み寄ってギュッと頬を摘んだ。



「…………なんですって?」


「……………」



目で抗議してくるので仕方無しに放してやる。すると、ユウラムは早速憎まれ口を叩いた。



「狡いですよ、魔法を使うなんて。あなたは相変わらず直情的ですね」


「はぁ? 何よその口のきき方は」


「…………こちらのセリフですよ。僕は一応、ルラーナ公爵位を継いだのですが」


「そんなこと言ったらあたしは王妃様よ、王妃!」



彼は公爵な上に宰相様だが、王妃様のほうが偉いはずだ。

ふん、と執務机に戻って腰掛ける。一応客には違いないのでユウラムにも椅子を勧めたが、警戒するように断られた。



「………先程の会話を、聞くともなく聞いたのですが」


「へっ? …………あ、アルルのやつ?」


「はい」


「うーわ、アルル大人気………あんたも惚れてるんだっけ………?」


「あれ、どの程度事実なんですか?」



ピク、と思わず動きが止まってしまった。



「……なんで?」


「なんとなく。………あなたはわりと、口からでまかせが多いので」


「…………」



だから嫌だ、この男。


いつだったかぼんやりと考えてることを打ち明けてから、言動が見通されてる気がする。頭と性格の悪いやつには、絶対に本心を明かしちゃだめだな、と今更ながらに思った。



「…………別に、嘘ってわけじゃないわよ? ただ勘というか確信がないというか、思ってるまま話したというか」


「まさしく口から出たのに任せた、というわけですか」


「……」


「無意味にぬか喜びさせるのは、感心しませんよ」



ユウラムはまっすぐ目を見て言った。その言葉にちょっとドキリとしたのはなぜだろうか。


もともとこの男の、機械的な無感情が嫌いだった。合理的で冷徹で、その思考は嘘を重ねていた私には随分と辛いもので。

けれど最近はなんとなくそれが柔らかくなって……優しさというものが現れた気がする。



「…………つい、ね」


「………まああなたは陛下が好きなのでしょうから、喜ばせたかったのもあるのでしょうが…………」


「……………え?」


「何か?」


「わたしが、王様を好き?」



ちょっと、とんでもない勘違いがあるらしい。ユウラムの言葉を聞いて気付いた。

確かに嫌いではない。が、この流れで好きと言うには語弊がある。



「…………好きなのでしょう?」


「え、いやナイナイ」


「………好きだからこうして、彼のために励んでいるのでしょう?」



どこか切実な目を向けられ、なんだか背筋がぞわぞわした。思わず後ずさりながら笑いかける。



「ちょ、ちょっとどうしたのよ、ユウラム。あんたちょっとおかしいわよ?」


「………そうですか? 僕はただ、………一応の恩人の世話を、している話なのですが」


「お、恩人て…………」



その昔蛇にされた彼を戻したのは、確かに事実だった。しかしそれは戻そうと思って戻したのではなく、のちの公爵曰く、人と触れることで解ける呪いだったらしい。



「事実でしょう? あれから僕が蛇に戻らないように、毎日僕に触れてくれたでしょう」


「そうだけど………そうだけど………。

 だーっ、あのねっ、あんたが無表情でそう言うとなんだか卑猥に感じるのよっ! 手ぇ繋いだけだだけでしょうが!」


「助かりましたよ」


「そりゃ良かったわね!」



聖女史は素っ気なくそう答えた。宰相はそれを見て薄く笑ったのだった。

勢いに乗って書いたので 書ききれてないとこがありまして 気が向いたら書こうかと思って 今回私は書きました

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