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閑話 けいあいなる、聖女さま


短いような、長いような時間が過ぎた。

私は遺言通りに『伝説の聖女』の物語を広め、その偉大な業績を世に浸透させた。


そこに意思はなく、そんな生活はあとから振り返ってもつまらなかった。そのことを自分でも不思議に思って、けれどそのたびに自分を諌める。


―――甘えるな。私は、聖女さまの右腕。あの人の為に生き あの人の意思に――


『……前世で悪逆の限りを尽くした非道の女は、過去と自分の差異に傷付く。苦しんで苦しんで……そして"私"は消滅する』


ズキリ、と胸が痛む。この痛みはなに。

内側がいたい。心臓がいたい。いたくて、くるしい。

切なくて悲しくて、張り裂けそう。



たすけて たすけて 聖女さま


  これはむくい?





過去に悔いはない


  私は正しい。


    あの方は認めてくれた


 だから正しい。


     ――でも時々 苦しくなる


正しいはず なのに


   海の底で 足踏みしてるみたいだ


 進む先は どこへつく


 ―――本当に


    このままで いいのか




 聖女さまは正しかった。


あの人は真に 世界のために生きていた。


      正しいことだ。


  けれど 正解は ひとつなのか?


やったこと 全て 正しかった?


         正しいから なに?



―――私は。

  あの人さえ幸せなら それだけで。

  たったそれだけで 満足だった。


―――私にとって。

  あの人と過ごした時間は かけがえがなくて。

  お日さまみたいに 暖かかった。



……あの人に生きていてほしかった。







―――!?



注ぎすぎたコップの水が溢れるように

あふれた、それは何気ない言葉。けれどそれに、愕然とした。


私は、私はこんな人間じゃない! 人に好きも嫌いもなくて、ただあの人に付き従っていただけだ。好きか正しいかなんて考えず、ただ欲望のままに生きてきた。人が生きるか死ぬか、そんなの私の知らぬこと。


らしくもない、なのに私は……ッ………




 ・


   ・


     ・


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拝啓 けいあいなる、聖女さま



なくなってやっと 気づいたことだけど。

私は いつかあなたに心を溶かされていました。今は 優しく脆く偉大なあなたを 愛しいと思います。


あなたのいない世界は 退屈です。

私の仕事は 終りました。だから私も 好きに生きます。


あなたは怒るかもしれないけれど。

私は あなたが大切です。あなたのためなら 本当に『何でも』できるのです。だからあなたは 前だけを見ていてください。どうか私のそばで 笑っていてください。


今度は私に 守らせてください。


敬具



  "本物"の、アモルサランより








"愛しい"は、『かなしい』とも読むそうです。

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