94 何でも
で。
私は早速、勝負を仕掛けた。
「皆さんッ! もう私への嫌がらせ、止めませんか?」
特に酷いクラスへ、そう持ちかけてみた。
無意味に思えてもストレートに訴えることは大事だ。とくにいじめや嫌がらせなどは、加害者側がさじ加減を間違えやすい。どう嫌でどうしてほしいか直接話すことは、相手が軽い気持ちでやってる場合は有効だと思う。
このとき大切なのは冷静でいること。さて、やってみるか。
「私は確かに、新参者でよそ者です。しかしせっかくの機会に仲違いすることは、私にとっても皆さんにとっても損だと思うんです」
切々と語る私に、周囲は白けたような顔をしている。そうだろうね。君たちもひょっとしら不本意なのかもしれないし、やめろと言ってもやめないだろう。
要するに、これは上っ面を飾った茶番ということだ。
この授業も既に半数がいない。残ってる人も寝てたりくっちゃべっていたり、まともには誰も聞いていなかった。
「来月には学期末テストもあるのに、この調子では赤点だらけになります。そうなるとこちらとしても罰を考えるしか……」
途方に暮れたように言ってみせる。
すると。
「………罰でなく褒美があれば、考えますよ」
端の席で寝ていたはずの、レン・ザークが声を上げた。
彼は今まで、とことん無干渉を貫いてきた男だ。
「あの東の国のお姫様がもし百点のご褒美に何でもするなんて言ったら、きっとみんな目の色変えて頑張りますよ」
「まぁ………」
ニヤリと男は下品に笑った。さっきまで他に意識を飛ばしていた生徒たちが、こちらに注目し始めている。
「それでやる気が買えるなら、安いものですね。ではもし誰も百点を取れなかったら、代りに全員が私の言うことをきく。それでどうでしょう?」
私は愚かしく、また仇っぽく笑んだ。
「決まりですね」
この馬鹿げた賭け話は、学校中に広まったのだった。




