閑話 東の国を巡る人々[Ⅱ]
お待たせ、しました……。
アルルはたぶん、あと少しで出てきます。やっと少し、終わりが見えた気がします……。
巡る人々シリーズも、これの次で終わり(仮)です。お粗末さまでした。
それは本来、間違ったこと。正しくないこと。
聖書に反し、神に逆らうようなこと。
―――構うものか。どうせ私はユダだ。
「シャーヴァイス・ルラーナ」
呼びかけた声に、私と変らなく見えるくらいの男の子が振り返る。不思議そうな顔をしつつその実は、能面のようで感情が見えない。
さてしかし、刹那、空気を変えた。刺し殺さんとするまでの殺気・気迫。もし私が見た目どうりの小娘だったら、腰を抜かして魂消ただろう。
しかし私は、そんな優しいものじゃない。矢のように素早く迫り放たれた一撃を、何ともなく受け止めた。それを、苛立ちや怒りなどがすべてのった眼差しで睨まれた。
「………あの女の、犬だな………ッ!?」
「えぇ。やはりあなたも、記憶がありましたか」
思った通りだ。してやった。私は笑った。笑い転げた。日は沈み、夜は薄暗く寒かった。けれどとうとう私にも、かくも明るい朝日が差し込んだ。
「……ふっ。失礼しました。私は、アモルサラン…………今はレミと申します」
「………あの方はどこにいる?」
「まだ、当分ですね。………他にご質問は?」
「ある………なんのつもりだ」
なんのつもりだ。
近付いてきて、なんのつもりだ。
親しげに話して、なんのつもりだ。
………殺しておいて、なんのつもりだ。
「はははっ。私ははじめから一貫していて、意図の見えないことなど一つもない。あなたの方こそ、なんのつもりです」
「僕は! 殺された! あの人に! あの方が好きで、側にいたくて、信じてたのに、…………っ」
裏 切 ら れ た。
確かに口は、そう動いた。
「お黙りなさい」
ピシャリと、考えるまでもなくそう口にした。
あの人を悪く言うなど、あってはならない。
「あの優しい方に、なんてことを。あの方は、………」
「何が! 何が優しいだ! 何が伝説だ!
何もかもまやかしだ! 偽善だ! 救って希望を与えて、幸せにしておいて、何がッ………!」
とうとう彼は、涙を零して崩れ落ちた。
「いいですか。世論や世情は人によって変わる。けど、ひとりでは変えられないのです。あの人ももう限界です。私はあの方の偉大なる所業に終止符を打つために、生まれ変わった。あなたもそうでしょう?」
こちらを見てる。
辛い? 確かに、私があなたなら、辛いかもしれない。でも、仕方なかった。そうでしょう? 私だってあの人の遺言は、とても辛くて悲しかった。
いっそ、あなたが羨ましいくらいには。
「あなたは前世で、知らないふりをした。それはあなたが、あの人に夢を見続けたからです。あの人は優秀で真面目で、疑り深い。だからもし生まれ変わったあの人に会ったら、今度は真っ直ぐその目で見つめなさい」
理想はまやかしだ。叶うことはない。だからこそ幸せで、不幸だと思う。醒める夢ならいっそ、見せないで。そう叫んだら理想は消えうせるだろうか。それも悲しい。
誰に偽善と言われようと、あの人の想いに嘘はなかった。
「では、改めて。
私は『伝説の聖女』の物語を終わらせる。そのために何でもする。あなたはそんな私と共に来て、もしもあの人が現れたとき………私と一緒に、意思に反し、優しく包み込んで愛しみ、望まれもしない幸せを与える。そんな覚悟がありますか?」




