反撃の狼煙
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勇者に唆されて最強のエンチャンターにさせられましたが、独立してパーティ作ります。あと、勇者はぶっとばす61話目
第61話
「おまえ……セバスチャン、なんでここに……?」
「おいおい……エンチャンター殿じゃねえか。おまえこそ、ここで何してんだよ。ただ飯食いか? 場所を選べ、場所を」
「んなワケあるか! いいから、質問に答えろよ」
「おいおい、半日ぶりの再開を祝おうって気持ちはねえのかよ」
「………………」
「わーかったよ。あれだ……あの……なんだったっけ……」
「もしかしておまえ……、昼に言ってた会社の社員云々って……」
「ああ。それそれ。まあ、ぼかしてたが……、バレたら隠す意味ねえからな。そうだ。俺はここのバッジーニの親分さんに雇われてんだ」
「雇われてるっておまえ……、パーティはどうしたんだよ」
「それをおまえが言うか? ……パーティは解散してねえよ。俺のこれは、いわば、日銭稼ぎみたいなもんだ。どうにも、これしか出来る事がねぇからな。……たくよ。おまえが辞めたせいで、魔王討伐作戦も停滞中で散々だぜ。……けど、それとはべつに、ユウキにも今回の事で、おまえに対していろいろと、思うところがあったみたいでな」
「ふん、ガラにもなく反省してんのか?」
「ぷ。ガハハハハハ、おまえそれ、本気で言ってんのか?」
「言ってねえよ。あいつが反省するような心を持ってるんなら、目でピーナッツ噛みながら逆立ちしてやる」
「ハハハハハハ! ……安心しろ。目でピーナッツ噛むことは一生ねえ。あいつは『躾が甘かった』とか、『次はもっとうまい具合にマネジメントしてみせる』とか、んなこと言ってたな」
ピキピキ――という幻聴が聞こえるほど、ユウの、怒りのボルテージが上がってくのを感じる。
「ちっ、ほんとに変わらねえな……」
「んで、こっからは俺の質問なんだが、おまえらはどうしてこんなところに――」
「おいおい、戦士さんよ。積もる話があるのはいいけどな、いまはワシがあんたの雇い主なんだ。さすがにこの意味、わかるよな?」
「へいへい。ほいじゃあ、仕事に移らせていただきますよっと……。で、バッジーニさん。あそこにいる、ヒョロヒョロの男は懲罰対象なんですかい?」
セバスチャンはそういって、人差し指で俺を指しながら、バッジーニと会話を始めた。
おまえのヒョロヒョロの基準は何なんだよ。おまえより太いやつは、それでこそ、人間じゃないんだけど……。
「無論だ」
「え?」
これはまずいな。あいつが参戦するなんて、想定してなかった。
この数でさえヤバいのに、アイツもいるとなると……、勝率はガクッと下がることになる。
とすれば、だ。ここは、セバスチャンの説得に専念したほうがいいか……。
「……お、おい。おまえらだって、俺をここで殺したくはないだろ? だから、ここは一旦、停戦という事で、手を打たないか? な? セバスチャン? な?」
「ふーむ……」
「へへ……、おいおい、なんだぁ? こっちはあんたに大金を払っているんだぞ。今更断るなんて、言わんほうが身のためだぞ?」
「わーかってます。わかってますって。はぁ……、悪いな、エンチャンター殿。今のボスはあいつじゃなくて、ここにいるバッジーニの親分さんだ。恨むなら、俺じゃなく、親分さんを恨めよな」
「ちっ、はしゃぎやがって……、俺は生きて連れて来いって、ユウキに言われなかったのかよ? そんな適当でいいのかよ?」
「そんときはそん時だ。お前がその程度のやつだったってことだけだ。ユウキには『おまえさんが目にかけてたエンチャンター殿は、自分で作ったパーティを使ってでも、満足に俺一人にすら、倒せなかった雑魚でした』って、報告しておくさ」
「く……っ」
「それなら、さすがのあいつも納得してくれるさ。アイツがお前に執着してる理由はひとつ。おまえが、エンチャンターとして、有能だからだ。……どうだ? あの頃となんら変わらねえか? ……ザコに、なってねえか?」
あいつなら、たしかにそれで納得しかねない。
……だとすれば、もう、ここで、こいつを負かすしかないってことか。
しかし、この段階であいつと戦闘か……、碌に戦闘経験積んでないぞ、このパーティ……勝機があるとすれば、捨て身の速攻。
幸い、アイツのスピードはそこまで速くない。
だったら、ここは――
「へ! 弱くなるどころか、いまのパーティのほうが強いって思ってるんでな!」
「ガハハハハハハ! 結構結構。んじゃま、そろそろバッジーニ親分の視線もきつくなってきたとんで、始めますかね。さしあたっては、そこの女の子」
「あ、あたしかい……?」
「あんた、どうやら、この中でも最重要で、最優先で殺すべき人間と見た。あいにくだが、俺は男女平等なんでな。手加減はできん」
な!? も、もしかして、あいつの狙いは――
「の、望むところだよ……!」
「だ、だめだ、みっちゃ――」
「へえ。逃げないのか。ま、せいぜい、派手に散ってくれや!」
まずい!
ビーストやユウ、アーニャならともかく、みっちゃんだけはまずい。
さっきも刀による立ち合いを見たけど、確かに、出来る。
出来るけど……、それはあくまで、一般人レベルでの話だ。
岩を豆腐のように斬り捨てる、冒険者レベルとなってくると、もはや別次元。
とても、太刀打ち出来るとか出来ないとかの話じゃなくなってくる。
非常にまずい。
もうすでに、あいつの体はみっちゃんを斬り殺そうと、動きだしている。
俺にできる事は、この距離から、みっちゃんに付与魔法をかけてやることだけ。
でも……、あいつの攻撃は以前戦った、エンドドラゴンの雛の比じゃない。
それも、この短い瞬間だと、満足いく、強力な魔法はかけられない。
つまり、否が応でも深刻なダメージを受けてしまう。
俺は咄嗟にユウを見る。
ユウは俺とは視線を合わせず、俺の周りにいるヤクザを目で威嚇していた。
だめだ。
こいつはこうなってしまうと、テコでも動かない。それ以前に、今のこいつの頭の中には、みっちゃんのことはない。
だとすれば、あとはビーストに頼るしか――あれ?
俺はビーストのほうへ視線を向けて、違和感に気が付いた。
しかし、その違和感が何なのか、わかららなかった。
なにかが……、なにかが足りない。一体、なんだ?
俺が、その違和感に気が付くよりも前に、みっちゃんが声を上げた。
「テッシオ!!」
慌てて振り返り、俺は、目の前の惨状に愕然とする。
テッシオが、みっちゃんをかばう様にして、腹を刺し貫かれていた。
「ゴフッ……!」
テッシオは腹を刺し貫かれていても、口から大量の血を吐き出していても、その、腹に刺さった剣を、両腕でがっちりとホールドしていた。
「ビーストォォ!!」
「ニャー!!」
気が付くと、俺は大声で叫んでいた。
ビーストも俺が何を言いたいのか察したのか、目にもとまらぬ速さで、セバスチャンに突っ込んでいった。
俺はもはや、ビーストを目で追うのを諦め、その当着点――つまり、セバスチャンの顔面の前に、付与魔法を放った。
「攻撃力強化! 強力招来!」
俺の指先から、赤い閃光が迸る。
その閃光がちょうど、セバスチャンの顔面を横切ろうとした瞬間――ビーストの体と交錯した。
付与魔法は、成功した。
「吹っ飛ばせ!」
ビーストは勢いそのままで、セバスチャンに、全身を使って突っ込んでいった。
ドガァ!!
ビースト渾身の体当たりは、セバスチャンを持っていた剣ごと吹き飛ばした。
壁にはまるで、型抜きのように、セバスチャンの巨体を模った穴がくり抜かれていた。
……しまった。
ビーストに防御の付与魔法をかけていなかったことよりも、セバスチャンが、剣を持ったまま吹っ飛んでしまったことが、非常にマズイ。
見ると、テッシオの体からは、ありえないほどの量の血が、噴出している。
当たり前だ。
刺し貫かれ、そして、そのまま引っこ抜かれたんだ。
いまのテッシオの内臓はもう、ズタボロ……その機能を発揮することはできないだろう。
これは……もう……いや、まだだ。まだ、やれることはある。
「ヴィクトーリア!」
「わ、わたしか!?」
「ああ、おまえの錬金術で、テッシオさんを急いで止血してくれ」
「わ、わかった! やってみる!」
「あとは……、ビースト、まだやれるか?」
「にゃふ……、思いのほか、衝撃がきつくて……」
「……わかった。ビースト、おまえは休んどけ。あとは俺たちだけでやる」
「にゃ……すまんにゃ……」
それはそうだ。
あの速度で突っ込めば、攻撃する側、される側……、両方にかかる衝撃は計り知れない。
普通の人間があれを喰らえば、その体は四散し、攻撃したほうもかなりの重傷を負ってしまう。
だから、セオリーとしては、衝撃対策として、防御魔法から先にかけるのだが……、今回に限ってはそんな余裕はなかった。早めのビースト離脱は痛いが、あとはバッジーニと、その部下だけ。俺と、アーニャと、ユウ……、ヴィクトーリアは治療に回すとして、それを防衛する役も必要。だとすれば、ここは、ユウを行かせるか? いや、もし俺がここで倒れれば、全滅しかねない。アーニャだけを俺の護衛に回すのは、少々荷が重い。もうすこし戦力が欲しいが……二人か……。みっちゃんはあの状態ではさすがに――
「ユウくん、あたしもいけるからね」
みっちゃんの声。
見ると、みっちゃんはバッジーニの部下から、ヴィクトーリアをかばう様にして、刀を構えていた。
「……うん。そっちは任せるよ。こっちでできるだけ、数は減らしていくから」
「はっはっは、おいおい、こりゃあどういうことだ? 高い金払って雇った、最強の戦士さんがあっさりやられてんじゃあねえか。……二代目よお、どっからこんなやつら引っ張り出してきたんだ?」
「フ……、言ったじゃないか。これがあたしの弟……それと、ビト組の底力だよ。いままで手を出してこなかったあんたが、一番よくわかってるんじゃないのかい?」
「みっちゃん……?」
みっちゃんは俺と目が合うと、パチリとウィンクしてきた。
話にノってこい……ということだろうか。
まあ、みっちゃんが言うなら、その通りにやるだけだ。
「……その通り。俺たちが、ビト組の最終兵器だ。尻尾まいて逃げるなら今のうちだ。ただし、その場合でも、ただじゃ逃がさない。今度はおいたしねえように、あんたのそのもう使わねえナニを去勢してやるからよ!」




