表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/140

掌の上


「えー……、本日は、ビト組三代目襲名披露にお越しいただき、誠にありがとうございます。こちらからお送りさせていただいた招待状に、すでに記載されていたと思いますが、ビト組の二代目が急遽、急逝なされまして、自分のような若輩者が、この栄誉ある組の跡を、継がせていただく運びと相成りました。思い起こせばあれは――」



 ビト組本部、大広間。

 等間隔に配置された長机。そのうえには、質素な料理が所狭しと並べられていた。

 先日の、屋外で行われた祭りとは打って変わって、誰一人として、笑顔を浮かべている人はいない。

 参列している人はみな、一様に片手にグラスを持ち、壇上を注視していた。

 壇上には弔辞と襲名口上を述べている、テッシオさん。

 テッシオさんはいつも通り、生気のない目で、片手をポケットに突っ込み、もう片方の手でマイクを握って、淡々と口上を述べている。

 俺は……俺たちは、ここで、参列者に紛れて、襲名披露に参加していた。

 表面上、俺たちはみっちゃんの客人だったという事もあり、そのまま参列できたが、さすがに死者(みっちゃん)は参加させることはできず、代わりに俺の隠者の布を、顔に巻いてもらって、カムフラージュしてもらっている。

 だから、この会場内には俺、アーニャ、ヴィクトーリア、ユウ、ビースト、そしてみっちゃんの六人が、それぞれ離れた場所にて、配置についていた。

 作戦はこうだ。

 ある程度、この式が進行したのを見計らって、みっちゃんが顔を晒し、この場にいるみっちゃん派閥の構成員を味方につけ、テッシオ派を無力化し、バッジーニを捕縛する。

 それからはまあ……、尋問なり、拷問なりして、みっちゃんの憂さ晴らしついでに、今回の事の顛末を訊く、ということ。

 幸い、前日に俺がここを訪れていた時は、みっちゃん以外に素顔を晒してなかったので、ここの人間には面は割れていなか――

 トントン。

 急に背中をたたかれる。

 何事かと思い、俺は振り返ってみた。



「おいあんた、筆頭勇者んとこのエンチャンターだろ? どうしてここにいるんだ?」



 面が割れた。

 話しかけてきたのは、頬に傷のある、強面の中年男。

 これまでを振り返ってみてわかったが、ポセミトールには、強面の男しかいないらしい。

 俺は面食らって、その場でフリーズしていると、男は再度話しかけてきた。



「あれ? あんた、ユウトだよな? 違うのか?」



 ……男の反応から察するに、どうやら、異分子を排除するような人たちではなく、軽いあいさつ程度の感覚で、俺に話しかけてきたらしい。

 天下のビト組だ。

 俺みたいな不穏分子と、繋がりがあっても、おかしくはないと思っているのだろう。

 大丈夫。

 この状況は予期せぬトラブルなんかじゃない。

 俺は手に持ったワイングラスを、優雅に口元へ持っていった。

 つぎにワインを軽く口に含むと、今は喋れないという免罪符を作り、思考をめぐらした。

 さて、どうするか。

 目の前のこいつは、果たして、ビト組の人間なのか。

 その中でも、ミシェール派閥なのか、テッシオ派閥なのか……様子を見るか。



「……ええ、招待されたんですよ」


「ほう、さすがは組長だ。あんたみたいな有名人とも繋がりがあるとはな……」



 この口ぶりからして、どうやら、この男は組内部の人間、それもテッシオ派だということがわかる。

 だったら、そういう風に振舞うか……。



「……それにしても、驚きましたよ。まさか、こんなにも早く決まるなんて」


「ああ、俺もだよ。話に聞く限り、どうやら組長は前から狙ってたらしい」


「そうなんですか?」


「……なにやら、初代組長が死んだときから、ずっと機会をうかがっていたらしいからな」


「それって、二代目が継いでから間もないじゃないですか」


「つまりは、そういうところだ。あのひとは、ずっとあの一族を煙たく思っていたからな。表面上では、うまい具合に仲良くやっていたかもしれんが、内心ではいつやってやろうか、と。そんなことばかり考えいたんだ」


「ま、まじすか……」



 ということは、テッシオさんは、はじめから仲間でもなんでもなかったということか?

 そんな……、だったら、恩を感じているというアレも、全部演技だったとでもいうのか?

 今日の、この日のためだけの……?



「……穏便に済ませるワケには、いかなかったんですか? 世話になった恩情とかも、なにもなかったんですか?」


「そんなもんは、あの人にはない。……ないだろうし、それは無理な話だろう。あのひとは、初代組長からは、かなり煮え湯を飲まされて来ていたからな。憎く思うこそすれ、恩は感じないだろうよ」


「なるほど……」



 これが……、これが、テッシオさんの本性か。

 いままでのは全部演技で、おっちゃんに拾われてからも、その憎しみは消えず、虎視眈々と組を乗っ取る算段をつけてたってことか。

 おっちゃんは……みっちゃんは……、こんなやつのことをずっと信用していたのか?

 それじゃあ、あまりにもあんまりだ。



「……どうかしたかい? 気分でも悪いかい?」


「い、いえ……ちょっと、複雑でして……」


「そうかい。まあ、それもこれも、もうすぐで終わりだ。見てみな」



 男はそう言って、顎でクイっと、前方――テッシオさんのほうを指した。



「もうすぐで、この口上も終わりだ」



 そうだよ。気落ちしている場合じゃない。

 いまは、目の前の任務に集中しろ。

 テッシオを問い詰めるのは、そのあとだ。

 俺は会場内にいる、五人に目配せをした。

 アーニャ、ヴィクトーリア、ユウ、ビースト、みっちゃ……あれ?

 いない……?

 見失ったか?

 ……いや、そんなはずはない。

 あれだけ目立つ格好をしていたんだ。

 気配は消せても、存在まで消すことができない。

 むしろ、この中だと目立ってしまうまである。

 しかし、いくら視線を左右に振っても、その目立つシルエットを見つけられなかった。

 とっさに四人に視線を送るが、全員、一様に困惑した顔で首を振っていた。

 ……なんだ? トイレか?

 あまりの緊張状態に、おなかが緩くなってしまったとか?

 それはそれで別に構わないんだけど、それだと、みっちゃんの素顔を晒すことができなくなってしまう。

 そんな状態で、テッシオさんの首元に刃物なんか押し付けたら、こっちが完全な悪者になってしまう。

 そうなってしまうと、計画はパー。

 ……どうする?

 このまま強行するか?

 それとも、みっちゃんを待つか?

 四人が俺を注視してきているのを感じる。

 ここで俺が下すべき決断は――


 会場がどよめきに包まれる。


 俺は顔を上げて、その方向を見た。

 そこには、顔の布を外したみっちゃんの姿が見えた。

 ――よし。

 少々、急だけど、それは合図だ。

 俺は右手を垂直に挙げ、合図を送る。

 それに呼応するように、四人が行動を開始し――



「ちがう! ユウくん! これは罠だ!」


「え?」



 みっちゃんの口から発せられた、思いもよらない言葉に、おもわず俺はフリーズする。

 どういうことか、と思い、視線をみっちゃんからテッシオへ移動させる。

 そこではすでに、ビーストとユウが、テッシオを拘束しており、その下では、銃を持ったヴィクトーリアと杖を持ったアーニャが、近づかないよう、人払いをしている最中だった。

 そんな四人も、みっちゃんの言葉に目を丸くし、固まっている。

 どういうことだ?

 拘束は成功した。

 テッシオはあの態勢だと、すこしでも妙な動きをすれば、首が飛ぶ。

 作戦は成功だろう。

 だが、なにが……いったい何が――



「なんでマザーがここに……。あーあーあー……、なるほど。そういうことね……」



 壇上のテッシオが、脱力したような声でつぶやいた。

 しかし、口元には相変わらずマイクがあるため、大音量でそれが会場にこだまする。



「ひとりで何、納得して――」


「おう! そいつを殺したいのかい? なら、殺せよ! 今すぐに! こっちの手間が省けるってことだ。ガハハハハハ!!」



 突如、会場から、男の笑い声が上がる。

 見ると、白髪で貫録たっぷりの男が、楽しそうに笑っていた。

 対照的に、テッシオは動けば死ぬという状況下で、顔をおさえて『やれやれ……』と、首を振っていた。



「罠って……どういうことだよ、みっちゃん!」


「ちがうんだ! これは、三代目襲名披露でもなんでもなかったんだ! ここには、この会場には、ビト組の構成員は、一人もいない!」


「な――」


『にゃんだってぇぇぇぇぇ!?』



 会場のスピーカーから、大音量のビーストの声が鳴り響いた。

「お知らせというか、お詫びというか」

 今現在、某カ〇ヨムにて、開催されているコンテストに投稿すべく、連日早起きして、ぶっ壊れる勢いでキーボードを叩いているのですが、如何せんそっちのほうが忙しくて、こちらがおろそかになってきてしまいました。

 なるべく毎日投稿を心がけてはいるのですが、これからは、どうも、そうはいかないかもしれません。

 できるだけ、頑張って投稿するつもりではありますが、投稿されなかった場合は、作者が熱中症でぶっ倒れたか、もしくは他の作品に浮気していると、思っていただいて構いません。

 そちらのほうが終わり次第、また通常通りこちらに専念させていただきますので、それまではどうか、暖かく見守っていただければな、と思っている次第です。

 読んでくださっている方、楽しみにしてもらっている方、申し訳ございません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ