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現代魔法士と魔導教典  作者: ミノ太郎
第一部 二章
27/45

23話 彼と彼女の出会い

 夜に紛れ、日陰に生きる者達が互いに戦闘を始める。

 相対するのは暗殺者、そして『愚者』。

 魔法を使う者と、敢えて使わない愚か者。結果はきっと、最初の時点で決まっていた。


「身体強化魔法──付与!」


 迫りくる弾丸を避けるために、彼らが取った選択は一致した。

 身体能力強化。ポケットから一枚の護符──魔法を保存するもの──を取り出し、一斉に中に詰められている魔法の名を叫び、その効果が表れる。


「行け!」


 統率者である男の号令と共に、ビルの側面を足場にして、店の看板を踏み台にして、加速をつけた速さを持って進む。


「ち──うざったい銃だ!」


 銃弾に付与されているのは恐らく魔法士を殺すのに特化した弾。言うなれば、物理攻撃を通さない結界を壊す魔法陣でも編んでいるのだろう。だが、敵の狙いは分かっていた。

 ──こちら側戦力の無力化。しかも、殺すと言う選択肢を取らないためあちらが選べる選択はそう多くない。銃で狙うにしても、あくまで頭や重要器官は狙わず、足などの末端器官のみ。狙ってくる場所が分かっているのなら、対処方法は容易い──のに。


「くそ……まるで狙い定めているほどに……」


 あちらが放ってくる弾丸は、寸分違わずに暗殺者達の足を貫通させ、機動力を奪おうとしてくる。

 予測、でもない限りこれは不可能な領域だ。


「となると、相当な手練れがいるようだな……くそ、聞いてねえぞ。ただまあ、別に相手にする必要なんざねえ。お前達の狙いはあくまであの車の中にいる政治家サンだ」


 そう、今回の勝利条件はただ一つ。政治家を殺すだけだ。つまり、もしもの時は車ごとお陀仏にすればいいだけ。失敗したとしても、一応もう一手残してある。

 統率者の男はそう言って、車道に足を付けて──。


「フレイム!」


 それは火元素6.5で成立する火の中級魔法。イグニスを強化したような魔法であり──イグニスと違うのは射程、威力、その他すべて。つまりは上位互換の魔法。そして、最大の違いは──。


「さてさて、地獄まで追い続けるがどうなるか!」


 ──追尾性だ。一度ロックオンした敵は逃さない。例え相手が果てに逃げようとも、必ずついて回る。ある意味であれば最悪の魔法の一つ。上級魔法士達はこれを改造して、更に追尾性能を上げているが──如何せん彼にはオリジナルを仕立て上げる腕がない。

 が、別に無理にオリジナルにする必要もない。むしろ、その方が効率が悪い。何百、何千とあるパターンの中から一つしかない正解を導き出す方が厄介極まりない。

 

 地獄の炎を体現したかのような煉獄の火球は──全部で十個。狙いはあくまで車のタイヤ。相手側が潰せなければそのまま死ぬし、潰したとしても空中に浮遊する魔法を撃ち抜くのはまず至難の業だ。時間がかかるに決まっている。

 ならば、その時間を利用し進めばいい。そのために、暗殺者どもに身体能力強化の魔法をかけさせた。もたもたしていれば、自分達の手で殺せばいい──。そのはずだったのに──。


「おいおい……マジかよ、あいつ」


 目の前の光景は、彼が想定した状況とは──全く異なっていた。


「全部撃ち落とすかよ、正確に……!」




「あくまで、威力は決まっているし、目標も決まっている。もしも、これが狙いを定めていない魔法であればあるいは俺は撃ち落とせなかったかもしれない」


 敵の暗殺者が放った魔法──闇夜を照らし、狙いを定めさせないように向かって来る地獄の炎の塊──フレイムを狙うのはまず至難の業だ。

 だが──魔法とは結局ルールの中で、人間が扱えるようにされたものでしかない。

 つまり、人が扱う以上、明確な目標を定める必要がある。

 ──狙うなら、まず車を潰す。死ねばそれでいいし、間一髪脱出してもあちらは強化魔法をかけている可能性が高い。つまり、車道に放り出された時点でアウトだ。もし、全部撃ち落とされても、あっちが近づく時間を生み出せる。

 

「悪くない作戦だ。だが──それはあくまで、俺がフレイムを撃ち落とすのに時間がかかった場合だ」


 そう、前提がそれだ。だから──全部撃ち落としてしまえばいい。時間をかけず、速攻で。


「なにも不可能な話ではない。狙いは決まっている。──ならば、予測すればいい。人が相手でないのなら──加速領域(アクセラレート)を使う必要性はない。余力を残したまま戦えるわけだが」


 まず一発目。空中で自由に動く炎の玉──威力が桁違いのそれに狙いを定め、引き金を引いた。銃弾であろうと、魔法は掻き消せる。当てれば、消せる。

 スナイパーライフルから射出された弾丸は風を切り裂き、音速を超え──炎に正確に撃ち抜き、掻き消す。二発目、三発目と続けざまに引き金を引き、全てを撃ち落とす。


「さて、これで終わりかな?」




「進め!」


 しかし、構わずに進む。道路に着地した彼らはまるで氷の上を滑るかのように進んでいく。

 途中、それはさせないと言わんばかりに銃を乱射し、こちらの侵攻を防ごうとしてくるが──全て躱す。

 魔法士と言うのは、基本的に超常を扱う者達。そして、魔法とは奇跡にして万能の力。であれば、この程度の逆境を覆すことなど容易い。


「我は希う。──大地よ。そこに住まう精霊よ。我が声に答えたまえ。仇なす者、これ全てを砂塵に帰し、全てを巻き込む砂嵐をもって撃ち滅ぼさん! ──アダマンドマグナ!」


 ──その形状はまるで砂嵐、否竜巻。阻む者全てを舞い上げ、叩き落し、仇なす者全てを殺しつくす暴虐極まりない魔法。土元素8.5個で完成する中級魔法であり、風魔法のブラストと同効果に思えるかもしれないが、実際には違う。あの竜巻は触れたもの全てを砂に変えるという結果をもたらす。それが車であろうと、何らかの兵器であったとしても、例外はない。

 生み出された竜巻は設定された目標──暗殺者の前を走る車目がけて動き始める。最初はゆっくりと、だが確実に。道路、信号機、進行方向全てにあったもの全てを巻き込み、砂塵へと還していく。

 

「後ろへ! 奴らがこれを回避した後、間髪入れずに突っ込め。いいな、二手に分かれろ。必ずどちらかに避ける。──そこで仕留めろ」


「「了解!」」


 冷静な判断を下し、指示を飛ばす統率者に、付き従う暗殺者は頷く。

 暴虐と化した嵐の後ろ側に付き、どちらかに飛び出してくるはずの車を──正確に言えば、そこに乗っている政治家増野栄次郎を殺すために。


「我は希う。──風よ。歌え、踊れ、舞え。無残に、無秩序に。蛮風よ、荒れ狂え、暴れろ、突き進め。精霊の御心のままに。──スパイラルブリーズ!」


 暗殺者が唱え──手元には全てを穿つ風の槍が出現した。周りには、まるで精霊の怒りを表しているかのように風が荒れ狂っており、貫通性を上げている。

 ──これで、討つ。どんな防壁魔法を展開していようと関係ない。それらを噛みつくして、荒らして、突き破って、目標だけを殺す。


「準備!」


 そして、アダマンドマグナによって引き起こされた竜巻が前を走る車に追いつき──それを見た統率者が声を張り上げた。その声と同時に、彼らもまた気合を入れなおし、その時を待ち──その時が訪れる。前を走っていた車は竜巻を回避するために右へ車体をずらし──同時に、後ろで待ち構えていた暗殺者が先ほど生成した槍を車に向けて投げる。

 それで終わりだった。なすすべもなく受け、血の海が広がるはずだった。だが──。


「当然、そうくると思っていたとも」


 ──が、ありえないことに。掴んだ。素手で、風の槍を。




「どちらかに避ければ、必ずそう来ると思っていた。そして、狙いも当然分かっていた。ならば、掴み取るのもできない話じゃない。まあ、ものすごく痛いけど」


 できない芸当ではない、と素手で圧倒的な速度でもって投げられた槍を掴んだ優は、目を見開いている暗殺者に向けて告げた。

 が、勿論リスクも高い。なにせ、何もかも斬りつけ、突き破る風を纏った槍だ。当然手など無傷で済むわけがない。

 ──他にやりようがなかったわけではない。だが、必要な事だった。特に、相手の渾身の一撃を素手で掴んだのならば。絶対にできないと思い込んでいたのに、目の前でその前提を覆されたのならば。少なくとも、人間は一時的に思考が停止する。

 

 放心状態に近い暗殺者を蹴り飛ばし、後ろへ飛ばすと──。


「──っ!」


 左に回っていた暗殺者。そいつが放った同じ魔法に、自らの手で掴みとった槍をぶつけ、軌道を変える。躱されると思っていなかったのか、空中より現れた暗殺者は一瞬、ほんの一瞬だけ体を硬直してしまう。

 そして──その隙を見逃すほど、優は甘くない。


「消えろ。暗殺者」


 同じく蹴り飛ばし、道路を転がっていくのを見届け、安堵し──。


「二段構えだ、死ぬがいい。名も知らぬ魔法士よ」


「──勿論、油断できないとは思っていた」


 ──しかし、虚空を切り裂いて。最後の一人が短刀を装備し、車の上に転がりながら着地──すぐさま起き上がり、優に剣を向けてくる。

 ──手練れだ。声のトーン、張り方、動き方から推測して、恐らく50はいっているだろう。死ぬ確率が多い魔法士界において、50まで残る人間はそういない。

 

「──だが、勝てないってわけじゃない」


 こちらの活動区域、とでも呼ぶべきか。人間の関節が動ける範囲の限界を狙って放たれる斬撃に、しかし優は流れるように、苦も無く避けていく。

 なるほど、確かに強い。だが、先ほど言った通り絶対的に及ばないと言うわけでは決してない。加速領域(アクセラレート)を即時発動させ、相手の攻撃を読み切れば、当たることはまずない。そして、相手が狙うのが人間の活動範囲ならば──人間の活動限界を超えた身体能力強化であれば、徐々に相手側は遅れていく。


「ぐ──速い……!」


「──落ちろ、外道」


 剣を振り抜き、戻して──その繰り返しの隙を狙って、相手の腹を殴り、強制的に車の上から振り落とし、暗殺者は道路を転がっていく。

 

「終わった。これで充分か、増野栄次郎」


 そして、安全地帯で頷いている護衛対象──増野栄次郎に向けて呟き、ひとまずの終わりを迎えたのだった。







「ふう……何度かひやひやさせられましたが、大丈夫のようですわね……」


 神代優が外で暗殺者を退治し終わったとき。白神桃華はひとまず去った危機に対し安堵する。

 さて、ここで種明かしをしよう。なぜ、呼ばれてもいない白神桃華が優について来たのか、だが──。

 ──見れると思ったのだ。図れると思ったのだ。未だ見通せぬ『愚者』の本当の実力を。

 ──しかし、結果は全く違った。

 魔法を一切使わず、暗殺者を撥ね退けた。しかも、事の顛末を外の様子を断片的に知ることの出来る魔法──千里眼で見ていたのだが、信じられないようなことも見た。


(そもそも、魔法を素手で掴み取るって一体なんなんですの、あいつ……!?)


 先ほどの戦闘。暗殺者達が近づいてきて、目の前に足を組んで座っている増野栄次郎を殺すためだけに投げた風の槍を、かの『愚者』は手で掴んだのだ。

 化け物、という言葉で言い表せる領域を超えている。


「しかも、体術については底知れないし、得意魔法がなんなのかすら分からない……。あの銃についても、恐らく私に手の内を見せないため……」


 魔法士を狩るのに、銃など不便でしかない。なのに、それでも彼が選んだのは──恐らく、白神桃華に自らの選択肢、魔法を見せたくなかった。それが今考えられる最大の理由だ。

 ともあれ。とにかく終わったのだ。

 そんな風に、緊張感を抜いて──。


「…………ぁ、あ!」


「な、ん……!?」


 だが、終わっていないと。そう、警鐘を鳴らすように、車で座っていた早瀬雲母が何かを呟こうとして──。

 シュッ、と。何かが白神桃華の目線の先を通り──増野栄次郎の胸元に突き刺さる角度で向かっていった。

 勿論、緊張を解いてしまった彼女には反応できるはずもなく。

 何か──小さな針は間違いなく増野栄次郎の胸元に突き刺さって、血の華を咲かせ──。


「そして、こちらが本命だと言うことも気づいていたさ」


 ──なかった。車の上にいたはずの少年──神代優が、増野栄次郎の胸元に突き刺さる手前で、それを掴み取っていたのだ。

 神代優──『愚者』は鋭い視線を向ける。どこに? ──白神桃華の先。そう、この車を運転している、運転手の下へ。


「お前だな、本命は」


 次の瞬間。骨を砕く音──つまり、神代優の足蹴りが運転手の腹を直撃した音が車内に響き、車のドアが無残に吹っ飛んだ。



























「メア。大丈夫ですか? 緊張、してますか?」


「えっと、私は大丈夫、だと思うけど……音々はどう思う? 私のこと」


「そうですね……ガチガチになってますね。少なくとも、私の主観からすれば」


「そ、そう……」


 時は三十分前。メアが住んでいるマンションから少し離れた場所。

 ──港だ。それも、大規模の。

 愛知に新設された街──リフォームゾーン。ネーミングセンスはどうかと思うが、今論じる必要は特にないので、何も言わないでおく。

 話を戻すと、リフォームゾーンと言うのは愛知の海岸沿いらへんを埋め立てて作った土地だ。ゆえに、海に隣しており、港が数か所あるのだ。

 ここはその一つ。そこに、白と黒のパーカーを着たメアと、学校の制服を着た天城音々は待機していた。


「それにしても、遅いね。今回協力してくれる人たち」


「ええ。そろそろ着いてもいいはずなんですが……なにかトラブルでもあったんですかね?」


 一応言っておくが、ここに来たのは別に遊び、というわけではない。わざわざ不法侵入までしてここにいるのは、とある人物たちを待っているからであり、尚且つここで退治しなければならない敵がいるからだ。

 ──怨霊。人の魂に後悔などの負の感情が取りつくことで具現化してしまう霊。心霊現象などに加担しているのは、こいつらが主だろう。死に際に際して、その人の感情によって怨霊になってしまうかどうか、そしてしっかりと弔いをされたかどうかで決まる。今では科学的に証明されている人魂すら、実はこいつらのせいでは……とも噂されている。

 放っておくと、人に乗り移り、とんでもないことをしでかすので定期的に退治しなければならない。


「待つのも暇なので……そうですね、たまには女子高校生らしくコイバナでもしてみますか?」


「それは私が質問されるだけだよね? だって、音々は誰から見ても対象は決まってるし……」


「まあ、優さん公認ですからね、私は。……まあ、最近は色々と周りがにぎやかになってますが」


 柄にもなくそれっぽいことを言ってくる天城音々に、しかしメアは顔をしかめて自らの危機を回避することを選んだ。

 この手の話は、確かに憧れていたものではある。外に出る時間が少なくて、尚且つ友達と呼べる誰かもろくにいないメアでは、コイバナ、という話が別次元にあるものに思えて仕方ない、というレベルだ。メアとしては、やりたいという気持ちは確かにあった。

 だが──いかんせん相手が悪い。既に明白である相手に、誰が好きだとか、今更聞いても無駄なだけがするのだ。


「それで、メアは──」


「あ、ああっ! えっと、ほら! ど、どうして音々は優先輩の事好きになったの!?」


「話を逸らすのに慣れていませんね……」


 イタズラする子供のように、顔をにやにやさせて聞いてくる天城音々に、メアは自らの頬が熱くなるのを感じながら、しかし強引に話を切り替えた。

 だって、こんなのは尋問でしかないし、そもそもメアには好きな人がいない。

 ──そう、決して、誰も好きになってはいない。


(なんで……どうして、ここで優先輩の顔が、浮かぶのかなあ……)


 しかし、そんな風に暗示をかけても浮かんだ顔は消えなかった。

 好意はないと、たぶんそう言える。彼の顔が浮かんだのは、神薙芽亜という少女を肯定してくれて、また理解者に近い位置に立っていて、指導をしてくれているからだ。

 そう言い聞かせ、未だにやにやさせながらこちらを見てくる天城音々にふと浮かんだ疑問をぶつけた。


「ねえ」


「なんですか? メア」


「そのさ、なんで音々は優先輩を好きになったの?」


 天城音々と言う少女がなぜ、神代優と言う少年を好きになったのか、思い付きではあるがメアとしても聞いてみたい質問だった。

 

「そうですね……話せば長くなるんですが……それも、数時間はかかりますけど。ですが、簡潔に話すとですね……」


 音々は、どこか懐かしそうに目を細め、口を緩めて。


「私は昔、暗殺者をやっていました」


「──!」


「ただ、別に世襲制で暗殺者になったわけでも、自ら志願したわけでもありません。──両親に捨てられて、ある人に拾われてとある家に引き取られて……そこで、暗殺する際に必要な術を教え込まれました」


 初めて聞く音々の過去話に、メアはどう反応していいか分からなくなる。いかんせん、メアは聞き上手と言うわけでもなく、それ以前に友好関係を築いたことなどそもそもないので、何と言えばいいのか分からないのだ。


「そこで、出会ったんです。『愚者』……優さんに」


「優先輩に……」


「はい。当初の私は口の利き方もなっていませんでしたし、相手に対する敬意も払わない。あるがままに人を殺す。それが私の存在意義でした。幸い、仕事を成功させれば生活できるお金を貰えましたからね。本当に、自分で自分の道を選ぶこともなく、ただ単純に生きていました。……ある日、いつも通り、目標を殺しに行ったとき……優さんと出会って、強者との戦いに面白さを見出しました。……今考えれば、おかしな話ですよね。どんな欲求よりも、先にそれが芽生えたんですから」


「──」


「そうして、何度も戦ううちに……初めて、感情が芽生えました。もう一度会いたいとか、普通の感情を、持てるようになったんです。……ですが、当然引き取られた家──天神家は何度も依頼に失敗してくる私にお冠だったみたいですね。順当にいけば、殺されるのがオチでした」


 天神家、と言うのは魔法士界隈に疎いメアでも分かっていた。白神山地に居を構える白神家。東京に居を構える夜叉神家。福岡に居を構える天神家。──これらを総称して三家。魔法士界を牛耳る名家だ。

 

「その時、私を拾ってくれた人……親代わりだった人と脱走計画を立て、実行に移したのですが……結果は失敗。その人は私を逃がすために途中で死んでしまい、私も限界でした」


「それじゃ、音々はどうやって……」


「刺客に囲まれて、もうダメだ、って思った時。──来てくれたんです。優さんが。私の、英雄が。狙いすましたかのように、刺客を薙ぎ払って、私を助けてくれた。──その時から、私は優さんに対して好意を向けていることを自覚しました。言葉遣いも矯正したり、色々やったんですが……これはのちほどにしましょう」


「──なんか、ごめん。昔の事聞いて」


「いいえ。いいんです。どうせ、私が親しい人達はみんな知っています。それに、私の中では既に消化した出来事ですから、今更どう思うことはありません。……ああ、一つ。これだけは言っておきます」


「何を……?」


「レールに乗っているだけの人生は、必ずどこかで終わりを迎える、ということです。メアの場合はどうなるか分かりませんが……いずれ、そんな場面が来たら思い出してください。そして、その時はおそれないでください。一歩踏み出すことを。誰かの思い通りではなく、自らの足で立つことを。鎖を引きちぎって、前に進むことを」


 それは、これから踏み出すメアへのアドバイスのようなものかもしれなかった。

 

「うん」


「それと、来たようですね。それも──余計なものまで」


 そして、彼女との話が終わると同時に。

 二つの影と大量の魂が入ってくるのを感じた。

 二つの影は間違いなく人。彼女達が合流すべき人達だ。そして、その後を追う魂は──これから、彼女達が退治するものだ。


「さて、始めましょう。お手並み拝見と行きます、メア」


「了解!」


 明かりに照らされる影二つ。激乱の戦闘へと突っ込んでいくのだった。

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