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現代魔法士と魔導教典  作者: ミノ太郎
第一部 二章
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18話 工場への潜入

『今回、あなたに頼みたいのが……工場への潜入よ』


「──それで?」


『魔人化するために必要な薬……それが、この街の工場で作られている、という噂が流れたの。だけど……』


「手っ取り早く俺に頼んだ方が費用も掛からないし、尚且つ近いから移動費とかも出さなくていいからかな?」


『ご名答! いや~話が早くて助かるなあー』


 相変わらずの口調に、思わず優もケンカ腰を止めざるを得ない。というか、力が勝手に抜けた。なんというか、こういうのを前に説教するのも馬鹿らしくなった感じだ。これもまた、柏木由姫という女性が交渉上手──即ち世渡り上手な所に影響しているのかもしれない。

 まだ受けると決まったわけではないが──それでも、聞いてみるのも悪くはない。確かに、この女性が持ち込んでくる依頼は十中八九面倒な類だが、しかし条件が悪いと言うわけではないのだ。


「ともかく。話を受けるかどうかは話を聞いてから決めるとする。それで? 工場、とやらの守備状況は?」


『さあ? これがこれっぽちと言っていいほど怪しいとこ見つかんないのよねえ。カメラも普通、機械も特段おかしな話はないし……あ、ただ』


「ただ?」


『なんでもね、そこで働いている人達の消息が途絶えてるの。いや、うん、途絶えているっていう表現は少し正しくないかもだけどね』


「それ、やばい奴じゃないかな? 俺なんかより、早く警察にでも報告したほうがいいと思うけど」


 というか、最後の部分は聞きたくなかった気がする。

第一、全員が本当に消息不明になっていたとして、どうしろと。全員救うのか? こ

の状況で生きているかどうかすら分からないのに?


『一応、生きてはいるんだけど……もぬけの殻っていうか、知人が電話に掛けても出ない、っていう報告が何通も来ててね。それで、こういう心霊現象はそっちの専売特許だろう? とか言って、こっちに引き渡されちゃったのよ。ほんと、扱いが酷いわよ』


「まず、自分の発言を最初から思い出してみようか。そして、自らもその人使いの粗さを治すべきではないかな!?」


 人の悪いところを見て、自分の悪いところを直す。あるいは、反面教師にでもして、自分の行ってきた数々を顧みてほしいものだ。思い返せば、いつだってそこには違法な労働が待っていた気がする。いや、基本的に15歳未満は働くの禁止なので、訴えられない……というか、こっちが法律違反になるのだが。


『そんなわけで、私から頼むのは工場の調査に、工場で働いている人達の安否の二つ。──それと、分かる? 最近有名な政治家サンの事』


「増野栄次郎……って人かな? 悪いけど、テレビでしか見た事ないよ」


『その人から、依頼が来てたの……内容は護衛。数日前に流れたニュース、分かるでしょう?』


 数日前のニュース。──政治家増野栄次郎の殺害予告の事だろう。優としては虚偽のニュースだと思っていたのだが……どうやら、接触してきたと言うことは本当だったらしい。

 本当でなければ、本来不干渉であるはずの魔法士に自ら関わってくるはずがないからだ。


「つまり、俺にその人を護衛しろと。そういうことかな?」


『そういうことね。こっちについては……正直きな臭すぎて、受けさせたくないわ。今のこの時期に依頼は、狙ったとしか思えない。何らかの策が動いているとみておかしくはないでしょうね』


「──いや、受ける。これがもしも、本当に罠であるのならば、やってみる価値はある。罠とは、ある意味では情報収集に繋がる。失敗すれば、まずいことになるけどね」


『虎穴に入らずんば虎子を得ず……ってところね。でも、気を付けて。どんな敵が待ち構えているか分からないわ。──貴方に死なれると、困るのよ。私が清明に殺されちゃう』


「勿論、危険なことは避けるよ。まだ死にたくないし……だけど、終わった後の保険が欲しいんだ。こっちとしてはね」


 とにかく、敵の戦力がどれだけあるのかが未知数なのだ。ならば、少しでも不安を解消しようとするのが人間の性だろう。


『それで……報酬の件なんだけど……そうね、夏のバカンス?』


「却下」


『なんでさー』などと、ほざいているが、絶対に確信犯であることに違いない。そもそも夏のバカンスとか何の罰ゲームだろうか。どうせ、あれだろう。皆イチャイチャしている中一人放り出されるのだろう。気まずい。流石に気まずい。感情をあまり理解できない優だって気まずい。

 

『どうせなら、神薙芽亜と天城もつけるからさー。お願いっ! 私に切れるものはこれしかないの。どうか!』


「頼み方他にないの……?」


 とはいえ、メアの分も出してくれるのはありがたい……というか、実にタイミングがいい。諸事情あって、今現在メアとは──恐らく未来永劫──折り合いが悪くなるのは目に見えている。ゆえに、これを口実に仲直りへ持っていく……というのも悪い方策ではない。

 まあ、これでは餌をダシにしておびき寄せ、餌付けするようなものだから、優としてはあまり使いたくない手法ではある。


「──分かった。引き受けよう。報酬はさっき言った通りでいいよ」


『それじゃあ、よろしくー』


「それで……結局受けることになったんですか……?」


 通話が終わったころを見計らって、椅子に腰かけていた天城が話しかけてくる。隣には、優雅にコップ──中身は優の家に大量保存してあるミルクティーだ──を飲んでいる、先ほどまで全裸だったポンコツ少女が座っていた。


「ああ、報酬も悪くないし……聞いたところでは、そこまで厄介事にはならなさそうだしね。まあ、政治家のところが怪しい……だけかな」


「分かりました。では、全部終わってからメアも交えてケーキでも食べましょう。このケーキは私が処理しておきますので……」


「それさ、自分が食べたいだけなんじゃないかな?」


 新事実かもしれないが、天城音々と言う少女はこれでも大食感の部類に入る。優でも平らげられないような、丼二つを僅か10分で終わらせてしまうのだ。

 

「二人で話を進めないでくださいませ。私が居ることをお忘れなきよう」


「なんだなんだ。そっちもそっちで面倒ごと運んでくるのかな?」


「私を何だと思っていますの……!?」


「疫病神だが?」


「あんまりですわ!」


「ま、まあまあ」


 ありのままを答えたのに、なぜか憤慨する少女はさておき。優は一度部屋の中──壁に設置されている時計を見やり、すぐさま準備に取り掛かる。


「何をしていますの?」


「そりゃ勿論、依頼を遂行させるための準備だけど? 依頼されてすぐだから、中々準備しにくいけども……やるしかないだろうさ。時間がなくて準備できませんでしたじゃ話にならないからね」


「……『愚者』。頼みたいことがありますわ」


「嫌だ、と言ったら?」


「……まだ、何も言っていませんわ」


「言わなくても分かるよ。一緒に行きたい……ってところだろう? ──どうせ、止めても無駄なのがありありとしてるし……そもそも、俺はあなたを止める権利はない。ついてくるならついてくるといいよ。ただし、自分の身は自分で守ってくれるとありがたい」


「勿論ですわ。白神の名に懸けて、必ずや」


「は……?」


 思わず、そう言って胸に手を置いた少女に目を向けてしまった。同様に、天城もまた同じように驚いた目を向けている。

 だが、この場全員の視線を集めている本人は全く気付いていないといった体風で目を瞑っていた。

 そして、改めてもう一度──。


「「は──!?」」


 見事に、天城と優の声が一致した。





 時は少しだけ進んで、夜九時。新設された街と言えど、賑わっている所から離れればまるで荒廃した街のように静かな場所を、空に浮かぶ星を眺めながら走っていた。彼女より指定された場所に向かいながら──後から優に追いついてくる影に先ほどの質問をした。


「ほんとうに、白神家の人間なのか……? 俺としては信じられないんだけど」


「当然ですわ。私はそもそも、公には明かされていない者ですから。……私の役目は二つ。神薙芽亜の監視と……あなた、『愚者』の監視ですわ」


「監視役? メアじゃなくて、俺に?」


「勿論ですわ。確かに、神薙芽亜は監視対象であるのに変わりありません。ですが……それ以上に、あなたが危険な存在であると、当家が判断したまでですわ」


「白神家……いや、その当主白神有馬か。そして、当主直々に命令が下されるってことは……」


「正解ですわ。私は白神桃華。当主白神有馬の妹ですわ」


「──」


「ふふ、あまりの神々しさに言葉も出ませんの? ですが、分からなくも……」


「いや、参謀か何かかなー……って勝手に思ってたんだけど……そっか、妹か」


「なぜ落胆するのか聞いても……?」


 意気消沈する金髪碧眼少女──白神桃華だが、優は気にせずに再び質問をぶつける。


「それで、話を戻すけども。──どうして、俺を?」


 それが疑問だ。彼女には悪いが、メアならば監視対象に入るのは分かる。なぜなら、未だ疑いの目は解けていない。実際、メアが訓練、学校や誰かと遊びに行くだけでも監視の目はついて回る。

 だが、優を監視するメリットが見当たらない。確かに、引退する前は名の売れた魔法士だったかもしれない。しかし、今でもそうだとは限らないだろう。それに、優を不確定要素として見ているならば、白神有馬が直接手を下せばいい。

 しかし、彼はそうせずに、実の妹? を送って来た。その意図が、どうしても優には読み切れないのだ。

 白神桃華も、優の真意に気づいたのか、それとも元から明かすつもりだったのか、口を開いて。


「私に聞かされている内容はただ一つ……なぜ、今になってこの世界に戻ってきたのか。それを、調べてこいと」


「そう来たか……」


「力ある者が、数年前突如として姿を消し、戻ってきた理由。それ如何によっては、魔人よりも最悪の案件になると仰っていましたわ」


 白神有馬の不安、懸念は当然のものだ。この世界から去った者が、いきなりひょこっと戻ってきて、いきなり事件に絡んだとか、優でも怪しむ。


「あなたこそが、最大のカードだと、お兄様は仰っていましたの。悪く転べば、一人の人間のために世界を敵に回す可能性が最も高い……不安要素、不確定因子」


「当人を前にしてよくもまあそんなにずけずけと言えたものだね……」


 単に芯が強いのか、それとも鈍いだけなのか、目の前でもがき苦しむ優には一度も目をくれず言い切る彼女に、感嘆を示しつつ──しかし、まだ納得できていないことはあった。

 不確定因子ならば、なぜ潰さない? 危険を孕んでいるのならば、なぜ取り除こうとしない? おかしい。おかしすぎる。ありえない。

 優の知る限り、白神有馬という人物はリアリストだ。安全だと、最善だと思うルートしかとらず、自らの家を守るためであればその他大勢を切り捨てられる現実主義者。優とは、正反対の人間だ。


「とにかく。白神──」


「桃華」


「は?」


「桃華、でいいですわ。どうせ、家でもそのように呼ばれているのですし」


「いや、だが」


「当人が許可しているのに、何を躊躇する必要がありますの?」


「う、ううむ……」


 難敵だった。まさか、会って間もない少女を呼び捨てにしろなどと。いや、神薙芽亜──メアに関しては最初から呼び捨てだが、それとは訳が違う気がする。というか、ハードルが高い。


「分かった、分かったから。──それで、桃華」


「なんですの?」


「相手の顔を見て話すのは悪い事ではないと思うけど、取りあえず前を向こうか」


「──? ふぎゃん!」


「ああ、遅かったか……」


 優の忠告虚しく、というか遅かったせいか、見事に電柱に激突。なにやら意味の分からない叫び声を出しつつ、気絶する彼女を見て──。


「大丈夫かなあ……これ」


 そんな不安の声を出してしまうのだった。
























「おかしい……」


「ええ、異常ですわ」


 優と、いつの間にか目を覚ました金髪碧眼少女──白神桃華は、目の前の状況をおかしいと評さずにはいられなかった。

 というのも、あの後すぐに工場に辿り着き、中には入れたはいいが、そこから警備の目が厳しくなり、非常に達成が困難な代物になるものだと思っていた。

 だが、これはなんだ?


「誰も、いない……!?」


 そう、ここには、誰もいなかった。


一度、前提を、ここに来なければならなかった理由を確認しておこう。

 魔人化薬。今、魔法士界で危険視されている魔人へと、一般人を昇華できる代物。それを飲めば、例え一般人であろうと並みの魔法士ぐらい、いやそれ以上まで発揮できる。

 そして、陰陽党や三家の必死の捜索により、優が住んでいる、数年前に新しく新設された街に建てられた工場で薬が作られていると言う情報を得、適任である優が狩りだされた。それは勿論、警備に当たっているであろう強者との戦いになった際に、優ならば勝てるだろうと言う見込みからだ。


 にもかかわらず、誰もいない。重要であるはずの工場に、人一人としていない。警備はおろか、働いている人間や、機械すらも。

 完全なる無の空間が、そこには出来上がっていた。


(どういう……こと、なんだ? なぜ、誰も……?)


 無の空間。それを前にして、優は自らの頭をフル回転させながら、工場を巡っていく。


「見た目は……普通の工場だね」


「ええ……何もおかしいところは存在しませんわ。ここが本当に、魔人化するために必要な薬が製造されている所ですの……?」


 戦闘を予期していたにもかかわらず、この拍子抜け感。いや、だが、考え方を変えればこれでよかったとも言える。未知数なまま最初から全力で戦わなければいけない相手がいたならば、撤退も余儀なくされていた可能性が高いからだ。


 ともかく、怪しいところは何もないかと探っていくが……怪しすぎるほどに何もなかった。罠が張り巡らされているような感じもなく、侵入者を撃退するためのものすらない。


「センサーもないとは……これは逆に怪しいか」


「そうですわね。一般の工場よりも警備が……これでは、何かあると言っているようですわ……」


「──」


 桃華がそんな風に呟く中、優はただ一人考え込んでいた。

 確かに、彼女の言う通り、これでは逆に警戒を強めるだけだ。だが──本当にそうなのか? ──むしろ、その逆ではないのか? 何かあると思わせるのが、敵の目的なのでは──。


「──」


 月明かりが差し込む。この工場は珍しい形状で、屋上が所々ガラス張りになっているのだ。そのせいで、優達は明かりをつけずに探索できている。

 ──まるで、どこかに導くかのように月明かりが奥へと続いていく。

 ゆっくりと、その先へ。勿論警戒は怠らない。何か罠があるのなら、すぐにでも対応できるよう細心の注意を払い、進む。

 辿り着いたのは、一つの個室だった。厳重に鍵が掛けられており、入ってはいけないような雰囲気を醸し出すそれ。月明かりはここで止まっており、優にここに入れと言っているようだ。


「なにが、あるんですの……?」


 鍵なんて知った事か、と言わんばかりに優は手を捻ってドアノブをぶち壊す。正直、バレそうな気はするが、後で修復すればいいだろう。そういうわけで、そこに入っていく。

まるで導かれるようにしてここに来た優の後を追ってきた桃華が、部屋の中を見てそんな風に呟いた。しかし、無理もないだろう。

 ──完全なる暗闇。目を凝らしながら、壁を探すが──電源はない。天井には蛍光灯のような、明かりをつけるものは設置されておらず、むしろそれがこの空間には何かあると言う直感を加速させた。


「──桃華。明かり、つけられるかな?」


「ええ。一応、ですが……ないよりはましでしょう……!?」


 ──部屋の奥。そこに、何かがあった。いや、何か、という表現は些かよろしくない。順当に当てはめるとすれば──そう、人だ。人が、壁に寄りかかって項垂れていた。

 こちらに気づいていないのか、ずっと下のコンクリートだけを見ており、顔からは生気が失われている。


「鎖……ですわね。それも、厳重に。助けてあげたい気持ちは山々ですが……ここは敵の牙城。見逃すのが得策で……」


 繋がれる鎖。手足はボロボロで、茶色の髪の毛はぼさぼさ。唇は乾燥し、目元は窪んでいる。何より──この世全てに絶望したかのような目。それが、この上なく優の胸を締め上げ、目を離れさせない。

 そこで、ようやくこちら側に気づいたのか、優を見上げて──。


「たす、け……て」


 消え入るような、掠れた声が聞こえた。それだけで充分だった。


「何を……!?」


「勿論、助けるために決まっているだろう。それ以外に、鎖を壊す必要はないと思うけど」


 魔法すら使わず、腕力だけで鎖を引きちぎる。そして、立つこともままならない少女に手を差し伸べて──。


 そして、そいつは、死神は鎌を持ってやってきた。

 音を消して、気配を遮断して。おおよそ、人が無意識のうちに出す息、音それら全てを無音にして。誰かを殺す時に発する、殺意すら極小にして。

 人を狩る最悪の執行者──ナイフを手に持った何者かが、優を殺すために振り下ろそうとして。


「物騒だね……」


「まあまあ、そんな冷たいこと言うなよ。こっちは久しぶりの獲物で滾ってるんだ。……こっちの火消しにも付き合ってくれよ」


「──暗殺者だな。それも、天神産の」


「ご名答だ。そっちは……『太陽』あたりか?」


「残念ながら」


「そっか……まあ、でも、どうせ殺すんだしどうでもいいか」


 先ほどとは違う。抑えていた殺気を前面に押し出し──性別不詳の暗殺者は、ナイフを下で舐め、歓喜に打ち震える。


「それじゃあ、始めようか? 暗殺者らしく、殺しをね」






「はあ……なんで、あんなこと言っちゃったんだろ……」


 夜九時過ぎ(、、、、、)。自らの自宅近くの住宅街で、月の明かりに照らされながら立ち尽くしているメア──いつも通りのジャージ姿──は嘆息していた。

 彼女が何に悩んでいるか──言わずもがな、昼の、というか夕方らへんの出来事だ。

 そう、いつもならばさっさと来るはずの師匠(ゆう)が来ないため──悪いとは思いつつも──メアの監視役として送られてきた天城から受け取った鍵を持ちつつ、優が住んでいる場所へ向かった。

 だが──そこで見た光景は、あまりにもあんまりだった。

 メアが通っている高校の制服を着た天城音々──転校してきたのだから当然だが──と、金髪碧眼少女(なぜか全裸にタオル一枚)が絡み合い、そこに優が加わっていると言う、もう何が何だか分からない状況だった。

 それを見たメアの行動は──怒鳴り散らし、そのまま優の部屋を飛び出してしまった。

 

「怒ってない、と思うんだけどなあ……」


 動悸が早くなる胸に手を当て、上を仰ぎながら呟く。

 正直、もう自分の行動が理解できない。

 天城音々に優の部屋の合い鍵を作らないか、と言われた時、素直に賛成してしまった。もうここからおかしい。確かに、自分はちょっと世間知らずな部分はある。だけど、世間からあまりにも逸脱した行動は控えてきたつもりだった。世間一般からすれば、人の家の合い鍵を勝手に作るなど、あってはならないはずなのに──。

 あの時だってそうだ。別に、怒る気はなかった。なのに、なぜか口をついて出た言葉があれだった。

 

「とにかく、戻って……」


 優が今日来れないのは分かっている。なんでも、任務が入ったとか。

 正直に言えば謝りたかったのだが、こうなってしまえば仕方がない。今日は彼の言う通り、自主練して──。


「──え……?」


 気付いた。メアの進行方向、その先に。何者かがいることを。


「誰……?」


 即座に、構える。いつでも戦えるように。

 だが──目の前に立つ誰かは。メアの声を聞いても、何も言わず、ただ立ち尽くしているだけだった。

 フードを被っているため、判別はつかないが、身長はメアと同じぐらいだ。見る者が見れば小柄な印象を与える。だが──何よりも目を引くのは、背中に背負う、自らの身長に迫ろうかというほどの大剣だ。

 たっぷり数秒。静かな時間が流れ──ようやく、その誰かは言葉を紡ぐ。


「神薙、芽亜……あなたが、私達にとって希望となりうるのか、それとも外れなのか。見極めさせてもらう」


 消え入りそうな声で、そう呟いて──。


 直後、メアに向かって暴風が如き速度で打ち出された大剣が、破壊音をまき散らした。

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