色彩の増える日常
「ごめんなさい…レジ袋の代金は払いますから…どうか許してください」
例え彼に恥をかかされようとも、ひたむきに彼に尽くす彼女の優しさが店員にとっては辛く痛かった。
「レジ袋は有ると便利ですよね…はい。ちょうど5万円ですね…」
彼女は財布とにらめっこして、給料日後だったから丁度入っていた。
「それにしても、変わった方ですね。如何してあんなにレジ袋に執着するんでしょうね…躰を焼き尽くすようなあの情熱は素敵だと思いますよ。」
「そうだと良いんですけどね、時々暴走してあんな風になるんですよ…でも、一途で優しい方です。」
彼女は先程とは違って穏やかな顔で微笑んだ。
僕の無彩色だった日常は、彼女が現れることによって有彩色の日常と変わり、やがて希望の日々へと変わった。
共に理想とする世界があって、お互い高め合う。其れは僕にとってもとても幸せで、ならなかった。
だけど今日気がついた。
僕の幸せは彼女の不幸せの上で我慢の上で成り立ってるのではないか…と。
「思いもよらない支出だったな…後でちゃんと請求しないと…」
彼女はレジ袋の中のお菓子を見つめながら呟いた。
「お菓子の様な甘い恋がしたいのになあ…」
そしたら彼女の前に急に止まった男がいた。
「あの…誰ですか?」
「お嬢さん、俺で妥協しない?」
此れは俗に言うナンパなのかな…と彼女は思考回路を巡らせて、
「すみません。愛し合っている男性が居ますので。わたしは彼しか愛せません。ごめんなさい。」と断った。店員さんのいう、周りを焦がすような情熱とはこの事かと痛感した彼女であった。
「ああ、君、さっきのレジ袋騒動の女か…あんな物騒な彼氏止めといた方がいいよ?」
「其れでも…っ、彼しかダメなんです。ごめんなさいっ…だから、退いてください!」
その男の人を退かそうと彼女は懸命に動く。だが、相手は相手でびくともしない。彼女は思い切って、来た道を戻った。
(もう少しわたしに勇気があればいいのに…そしたら、治さんも守れるのに…この窮屈な世界から、彼を助けられるのに…お願いだから、命を投げ出さないでいて欲しい…そんなこと無いよねって疑ったわたしを許してください…治さん)
嗚呼会ったらなんと言おう。
「ごめんね」なのか?「ありがとう」なのか?
其れとも何かあるのか…僕はなんと言えばいい。
できる限りがんばって知識を絞った僕はこう言おうと思った。(君と幸せになりたい)