第24話 「正体」
冒険者ギルドに入るとすぐに、いつもとの違いを肌で感じた
ガヤガヤしていたギルド内は一瞬にして静まり返り、注目を浴び、中には耳打ちをしている者までいた
二週間もの間、森の穴熊の大切な仲間たちがこのような好奇の目に晒されていたのかと思うと心が張り裂けそうになる
受付にはいつものようにセリーヌが座っていたが、その表情はいつもと違っていた
「……ススムさん。意識が戻られたんですね」
「ええ、お陰様で。これからカイエンさんと話がしたいのですがいらっしゃいますか?」
「はい。心待ちにしていたと思いますよ。どうぞ」
そうしてセリーヌに案内され、いつものあの応接室へと通される
室内に全員が入ると、すぐにカイエンがやってきた
それもいつものように悪態などはつかず、どこか刺すような空気を纏っていた
カイエンの正面に俺が座る形となる
他のメンバーは座らず、立ったまま話をすることにしたようだ
「よう。あんだけの怪我だったってのに随分と元気そうじゃねえか」
「はい。どうやら皆さんの尽力に助けられたようです」
「……そうだな。後でマリリにも顔を見せてやれ」
「そうします。ですがまずは今回の件について話を」
「ああ、俺も待ち望んでいたよ。で?他の奴ら同伴で良いのか?」
「はい。仲間に隠すようなことはしていませんし、現状の森の穴熊が謹慎処分になっているのは、俺が原因ですから」
「……理解が早くて助かる。どこまで聞いた?」
「アッシェたちからはあえて聞いていません。その代わりサーシャさんから謹慎処分になっていると聞いています」
「ああ、そうだ。お前には色々聞きたいことがある。なんせアッシェたちは黙秘してるもんでな」
「黙秘……」
アッシェの顔をちらりと覗くとアッシェは目を閉じ下を向いたままであった
「そうですか。では聞いてください。答えられることならお答えします」
「ではまず最初の質問だ」
カイエンはそう言い、アッシェが使用していた『孔雀石の首飾り』を机の上に置く
「こいつのことは知っているな?」
「ええ、俺がアッシェに渡したものです」
「これが【呪われた装備】だということは知っているな?」
「いいえ?」
俺がそう言うとカイエンは何も言わず眉だけが動く
「それは【呪われた装備】ではなく、単に皆さんが『書かれている文字を認識できない装備』であって、呪われているわけではありません」
「……ほう?じゃあ、何か?お前には、このよくわからん文字が読めると?」
「ええ。読めますよ。というかそれはアッシェから報告を受けていたのでは?」
「なっ!?」
カイエンが言葉を詰まらせると同時にアッシェの表情も変化したのがちらりと見えた。これで確定だろう
「……いつから気づいていた?」
「確証は今まで無かったですが、そうですね……。アッシェに【呪われた装備】と言われている物を使い、パーティを強化しようと提案した時くらいですかね」
「なぜ、そう思った?」
「アッシェの反応があまりに素直すぎたので。アリスぐらいの反応が一般的だと思っていたので、何もないなら同じくらい反対されるだろうと踏んでいました。なのでアッシェから直接漏れた、というわけではないですよ」
「なるほど、そう来たか。お前がここまで『人を読める』人間だとは思っていなかった」
「止してください。そんなに大それたもんじゃないです」
そう、俺は人の心を読むだなんて超能力は持っていない
ただ日本で暮らしていた時、好きでもない中間管理職なんてものになってしまったがゆえに、自然と身についてしまったものなのだ
「……全く。真面目すぎるっていうのも、ときには考えものだな。そういうわけだ、アッシェ。お前は気にしなくていい」
カイエンはアッシェが思いの外、精神的に参っているのを理解していたのであろう
そのために、肩の荷を少しでも降ろせとアドバイスをしている
「続けるぞ。正直な話、お前らがこの装備を使うのは、『俺としてはどうでもいい。』結果を上げてくれるなら、何でも使うべきだと思っている 」
「同感です。法律などで禁止されているなら別ですが、そうでないなら使えるものは使うべきだ」
「そうだな……。だが、【呪われたダンジョン】は話が別だ」
「【呪われたダンジョン】?」
俺は聞いたことがない新しい単語に頭をひねる
「しらばっくれても無駄だ。お前が単身で【呪われたダンジョン】に突入したのはわかっている。その証拠もある」
「申し訳ないですが、俺は『自分から』そんなものに突入した覚えはないですよ。ただ『それらしいもの』には覚えはありますが」
「……聞こうか」
俺はそれから、トレントを倒してサーシャたちと歓談していたところ、突然、真後ろの空間に引き込まれたことを話す
そして、その後に何とかボスらしきものを討伐したことまで話した
「お前の記憶を改変し、遡った……?」
「はい。今思い返してもそうとしか思えません」
そこまで伝えるとカイエンは腕を組み、深く座り直し何かを考える
「……何か言いたいことでも?」
「ああ、ある。お前の話をそのまま信じれば、人生で初めて接触した魔物はホーンラビットかゴブリンになる。だが『お前の筋書き』は名も無い村に魔物が襲ってきて命からがら逃げてきた、だよな?」
そういい、ギロリと俺を睨む
ああ、そこまで調べがついているのか
それは俺がこの世界に飛ばされ、初めて出会った人たち、ガルドンらに話したものだ
つまりそうであるなら、今、話をしたばかりのダンジョンの内容とは繋がらない
それをカイエンは理解している
「そこまで俺のことを知っているのでしたら、話すしかなさそうですね……。俺はこの世界の人間ではなく、別の世界から神を名乗る女に強制的に連れてこられた人間です」
俺がそこまで語ると一瞬、部屋の中がざわりとする
だがそれも本当に一瞬のことだった
「なるほど。やはり『渡り人』だったか……」
「『渡り人』……?」
第24話 「正体」用語の補足
アッシェたちの黙秘
なぜ、アッシェたちがススムの現状において黙秘していたのかについてだが、恐らく『ススムが有している文字を読む力』等の『異常性』が『呪われたダンジョン』へと繋がったのでは?という憶測から下手に喋ることができず黙秘するに至ったと推測される。
そこには暗に仲間を売りたくないという暗黙の意図もあったと思われる。
ただし、本文でもあるようにススム自身がアッシェとカイエンの繋がりを推測しており、また『呪われたダンジョン』については完全な巻き込まれだと判明したため、この黙秘については結果的に意味をなさなくなった。




