プロローグ
俺の名前は堀進
どこにでもいる四十歳の中間管理職のサラリーマンだ
「堀くん、あの件どうなっているかね?」
「……分かっております」
「堀課長!あの仕事の納期、どうにかなりませんか!?」
「ええ……?」
「はぁ……」
俺は上からも下からも板挟みの状態に辟易していた
だが、そんな俺の人生で唯一の楽しみがあった
それが、学生の頃から嗜んでいるハックアンドスラッシュ型RPGだった
数年前に同シリーズの最新作が出てからというもの、どっぷりとのめり込み、休日になるとスマホの電源を落とし、完全にゲーム廃人と化していた
今日も食事と飲み物を大量に買い込み、ゲームに没頭していた時だった
「うお!ゴッズだ!!さて性能はどんなかなあ……」
手に入れた装備の性能を確認しようとした――その時だった
気がつけば俺は、見知らぬ空間に座っていた
「はっ!?おい!!俺のゴッズ!!あれ一つ手に入れるために何百時間使ったと思っているんだ!?」
俺の言葉は真っ白な謎の部屋に空虚に響く
そこに一筋の光が差し、見たことのない女が一人、現れた
「堀進さん、残念ながらあなたは勇者として選ばれました」
「勇者だ!?」
奇抜な衣装を纏った女――ゲームに出てくる、いわゆる神のような姿をした存在が、おかしなことを言い出す
「ふざけんな!!俺をもとの部屋に戻せ!!俺はあのゴッズを確認せにゃいかん!!勇者だろうが何だろうが、俺には関係がない!!」
勇者など関係ないと俺がそう吠えても、その女は動じず、そして冷徹にこう言った
「それはできません。なぜなら、あなたはこの部屋に召喚された際、肉体が死亡したからです。今は魂だけの存在となっています」
「は……?」
何言ってんだこの女
勝手に呼びつけておいて、しかも既に死んでいるだと?
「なっ……!同意なしで呼びつけて、殺して、しかも仕事を頼むだと!?ふざけるのも大概に……!」
俺がそこまで言ったときだった
その女がある提案を持ちかける
「私は、あなたを召喚した世界を管理する神です。あなたにはその世界に降り立ってもらい、世界を救ってほしいのです」
俺は自称神だと名乗る女の一方的な要求に怒りを覚える
だが、それもその自称神の女からの一言によって考えが大きく変わる
「当然、そのままというわけにはいきませんので、私から『なんでも』お好きなスキルをプレゼントしましょう」
「今、『なんでも』と言ったな?」
俺が急にぐいっと迫ったことで自称神の女はたじろいだ
「え、ええ……。私は神ですから」
どうせ元いた世界では家族もおらず、上司や部下に辟易した生活を送るうだつの上がらない中年だったのだ
死んでしまったものはどうにもならんと、俺は早々に見切りをつけた
ならばと、人生で最も輝いていた瞬間――ハクスラゲームで楽しんでいた時を思い出しながらスキルを考える
そうして俺は実装してほしいスキルを羅列していく
「まず当然だが言葉の壁をなんとかしてもらわないとな」
「ええ、それは『どの勇者にも』実装しております」
「……?」
俺は今、自称神の女の言葉に疑問を覚えながらも続ける
「次は年齢か。さすがに今の年齢ではどうしようもない」
「ええ、わかっております。二十歳の頃の肉体を授けます」
「それと収納関係だな。容量は大きければ大きいほど良い」
「もともと、これから送る世界には『収納鞄』というものがありますので、スキルは不要でしょう」
「後は、……当然『ハックアンドスラッシュ』だな」
「ハック……?え?」
今まで、ふむふむとスキルについてメモをしていた自称神の女だが、その手が止まる
「ハックアンドスラッシュを知らないだと!?」
俺は絶望したが、そのハックアンドスラッシュという偉大なシステムについて説明するも自称神の女は理解できない様子で、次第にその苛立ちが表情に滲んできた
「それは運や努力ではないのですか?」
「装備の組み合わせ?一品あれば十分では?」
「……ならばこう致しましょう。あなたのその望む力を読み取り、そのまま実装することにします」
「本当か!?」
「……はい。では以上ですね?」
「ああ」
俺が望むものをすべて伝えると、自称神の女が再度、最初の言葉を述べた
「では勇者よ!我が世界を頼みます!!」
それを聞いた俺は真顔で返す。
「え?俺、勇者になる気なんてサラサラ無いぞ」
そう返事をすると、今まで取り繕っていた自称神の女の笑顔が、一瞬にして怒りへと変わる
「はっ……?」
「だから、言葉の通りだって。俺は勇者になる気も世界を救う気もない」
ブチィ!
完全に、何かが切れる音がした
自称神の女は手にしていたメモをビリビリに破いてこう言い放つ
「はあ……。完全に失敗だな。あっちの世界で、早々に死ぬが良い……!」
その瞬間、俺がいた場所にぽっかりと穴が空き、俺は空に向かって投げ出される
「くそったれえええええ!!!」
それを見た女神は呆れた表情を浮かべる
「今回もまた失敗に終わりそうだわ……。また力をためて再召喚しなくちゃ。今度はイケメンで若い男の子が良いわね!」




